土曜日のエレベーター
目の前で、扉が閉まりました。
「仕方ないな。待とうとするか」
ここのエレベーターは、一つしかないので、しばらくかかりそうです。
荷物がありますが、そんなに重くはありません。
……と思ったら、静かに扉が開きました。
「どうぞ」
会釈をして、お礼を言います。
そんなに残念そうな顔が見えていたのでしょうか。少し恥ずかしいような、でも嬉しい気持ちになりました。
私たちが降りる一つ手前の階で、その男性は降りていきました。
その時のことです。
さっと、「閉まる」ボタンを押したのです。何気ないその指先。素敵だなあ…と思いました。
「どこかで出会ったら、お礼を言いたいな」
でも、お会いすることは、この先ないでしょう。残念ながら、お顔も忘れてしまいました。
「そうだ。今度エレベーターに乗ったとき、同じことをすればいいんだよな。」
夏日になった土曜日の夕方。私は、そんな気持ちになりました。
【2026年5月13日 初出】
☆カフェを出ようとした時、声をかけていただいた男性の話です。よろしければ、ご覧になってください。
