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暑い、暑すぎるのよ! 灼熱の小豆島オリーブマラソンと執念に満ちたピクミンの脱皮


恨めしい青空

5月17日の早朝。
小豆島に向かうフェリーの船上で、どこまでも澄み切った青空を睨みつけていた。

「いや、天気良すぎやろ。」

瀬戸内国際芸術祭で島々を巡るのであれば、申し分のない晴天。
島々の素晴らしい景色を思いっきり堪能できる。

だが、しかし。

今日は違う。
マラソンを走るのだ。

たった10kmだけど。

そんな人間様の都合など、ガン無視するかのように晴天の下で瀬戸内海の絶景がキラキラと輝いていた。
たぶん、陰キャが港区女子を見る時ってこんな風に見えるんだろうな。

私以外にも恨めしく眺めてた人はいるはず。
絶対に。
綺麗な景色が人の心を荒ませる時もあるのだ。
なんと、人間は我儘なのだろうか。

大いなる野望

この大会のメイン部門であるハーフマラソンには参加していない。
10kmの部にエントリーした。

逃げたのではない。

エントリーをする時、昨年は万博で中止だったので、一昨年の年代別の記録を確認してみた。

驚愕した。

私の自己ベストから考えると、なんとか年代別の一桁順位が狙えるかもしれないことがわかったのだ。

一桁の順位ってカッコよくねぇ。
いつも二桁順位しか取れたことないけど、これって千載一遇のチャンスなのでは。

そう考えて、迷わずに10kmの部門にエントリーした。

だから、これは逃げたのではない。
暑い中でハーフマラソンが辛いからとか、マラソンのシーズンオフに長い距離を走りたくないとか、そんな軟弱な理由ではないのだ、たぶん。

一桁順位という夢を追い求める攻めの選択なのだ。
これは織田信長もビックリな大いなる野望の始まりなのだ。

元気すぎる太陽

しかし、そんな大いなる野望をあざ笑うかのように、会場に着いた時にはかなり暑くなっていた。
軽くジョギングをしてアップをしたが、暑すぎて途中で切り上げた。

私は、空を見上げて呟いた。
「もう、それくらいにしておけ、今なら勘弁してやる。」
雄々しく牽制した。

その後も気温は上がり続けた。

私は、再び空を見上げて呟いた。
「もう、勘弁してください。暑すぎて倒れちゃいます。」
すぐに泣きに変わった。

今日の太陽はどこまでも元気いっぱいだった。
一人のおっさんの泣き言など聞いてくれない。
いや、他にも願っている人、多いと思うんだけど。
自然はどこまでも過酷である。

今日のベストはこんなもん

マラソンの最適気温は、5〜10℃と言われている。
今日の気温は、20℃を軽く超え、レース時には26℃位まで上がる予定。

自己ベスト更新を狙うと確実に撃沈する。
てか、そんなスピードで走ったら間違いなく死ぬ。

今回の野望は、年代別一桁順位である。
一昨年の記録から見ると39分は切る必要がある。
だが、一昨年は私も参加したが、小雨の降る肌寒い中でのレースだった。
今日のようにクソ暑い中のレースではない。

私の10kmのロードでの自己ベストは、2026年4月19日の西大寺マラソンでの38分14秒(ネット)である。

自己ベスト更新は無理。
年代別順位一桁奪取に目標を絞った。

一昨年よりも必ず全体的なタイムは遅くなる。
この暑さの中でも、なんとか40分切りでは走れるかもしれない。
キロ4で押してなんとか40分を切れれば、一桁順位に入れるだろう。

まあ、ここまでできれば上出来。

まあ、この気温で40分を切って年代別一桁順位になれなくても仕方ないと割り切った。

地元民アドバンテージ

小豆島にいるお知り合いのお宅にラン友さんと行って、着替えや荷物を置かせて頂いた。
毎回、お世話になっており、とってもありがたい。
地元民アドバンテージをフル活用。

そんなこんなで、ハーフマラソンの部がスタートする時間になった。
ハーフマラソンに出るラン友さんの応援に行った。

ラン友さん達も「暑いよなぁ。」と言いながらスタート地点にいた。
仮装ランナーさんも沢山いたが、明らかに気温的にコスチュームのチョイスをミスっている仮装ランナーの方もいた。
気温に関係なく自分のスタイルを崩さない、本当に素晴らしい。

スタートする選手に声援を送りながら、「熱中症で倒れないでね。」と心から願っていた。

三匹

ハーフマラソンのスタート後、10kmマラソンの地点に向かった。
体をストレッチしながら、一緒に走るラン友さんと雑談をしていた。

とんでもないものが目に飛び込んできた。

先頭に並ぶ、テッカテカに輝く、青、緑、紫色の物体。
ピクミンか?
よく見ると、光り輝く全身タイツを着た猛者三人だった。

足元を見ると「あら、とっても速い方が履くシューズ」だったので、ただの仮装ランナーじゃない匂いがプンプンした。

こういう漢は嫌いではないが、仮装ランナーには負けたくない。
一昨年のこの大会でハーフマラソンを走った時、名探偵コナンの仮装をしたランナーにぼろ負けしたことを思い出した。

ピクミンには負けたくない。
冷静な目で判断した。
青ピクミンは、溺れなくて泳ぎが得意なので陸上を走るマラソンでは強くないだろう、十分に勝てる。
紫ピクミンは、重くて力持ち、これも走りは苦手なはず、論外だ。

問題は、緑色のピクミンだ。
私の知る限り緑ピクミンはいない。
似ているとすると、ヒカリピクミンか、そうなると話は変わってくる。
夜と地下でのみ活動するピクミンが、なぜ、昼間にいるのか。
そもそも、ヒカリピクミンは足が無いはずなのにしっかりとランニングシューズを履いている。
しかし、不思議な特性を持つピクミンなのでマークするなら、こいつになるな。

この分析が吉と出るか凶と出るか。
私は胸を躍らせていた。

灼熱の10km

スタートはあっけなかった。
◯秒前の掛け声の後、カウントダウンもなくいきなりスタートした。

三匹のピクミンは一気にダッシュ。
えっ、マジで速い方々でしたか。

私は激しく動揺した。

しかし、西大寺マラソンでスタートに突っ込んだこと。
今日の気温のことを考えると抑えめで入ることが必須。

意図して遅めのペースに落とした。

1km 3分53秒、2km 3分53秒。
少し速めだが、まあまあ抑えたペースで入れている。

そして、小豆島オリーブマラソン名物のスタート直後の坂道に差し掛かった。
上り坂は強いので、どんどんと選手を抜いて順位を上げていく。
その時、驚愕の光景が見えた。

紫ピクミンとヒカリピクミンが二人で並んで走っていた。
完全に速度を落としていた。

パワー系の紫ピクミンはわかる。
しかし、ヒカリピクミンがこんなに早く落ちてくるとは。
完全な予想外だった。

「くそっ、青ピクミンが本命だったか。」
完全にカモフラージュに騙されてしまった。

というか。
なぜ、私はピクミンをイメージして戦略を練ったのだろう。
履いているシューズから予想した方が良かったのは明らかだった。

青ピクミンを追え

3km 3分55秒、4km 3分52秒。
良い感じでペースを刻んでいる。
もう少しで折り返しがあるので、青ピクミンの位置が掴める。
喘ぐように呼吸をしながら走り続けていた。

5km 3分58秒、そして、折り返し。

いた、思ったよりも近い場所に青ピクミンがいた。
暑さのためか、若干脱皮しかけて、中身のランナーが見えていた。
かなり暑いのだろう。

この時、心の中で叫んだ。
「青ピクミン、コスチュームをしっかり着ろ、チャックを上まで閉めろ、体に熱をたっぷりため込んで、後半バテバテになってくれ。」

これから、私と青ピクミンとの正々堂々の勝負が始まった。
追い付けない距離ではない。
青ピクミンが暑さでバテてくれれば、という条件つきだが。

6km 4分00秒、7km 4分01秒、8km 4分05秒。
暑さでだんだんとペースが落ちたが、想定内に抑えている。
身体を冷やすため、給水所の紙コップの水を頭からかぶりながら走り続けた。

青ピクミンとの距離が確実に縮むのがわかった。

青ピクミンとのデッドヒート

9km 4分09秒。
下り坂を利用して青ピクミンに追い付いた。
かなり息が荒く、ほぼ脱皮している。
抜きながら、再び心の中で絶叫した。
「頼む、チャックを上まで上げてくれ。」

明らかに私よりも若く、速そうなランナーだった。
実力では逃げ切るのは厳しい。

下り坂を利用して一気に加速した。
最後のスプリントでは勝てない。
それまでに決着をつける。
喘ぎながら必死に手足を動かした。

結果は残酷だった。
残り1kmを過ぎたところで、青ピクミンにさっそうと抜かれてしまった。
背中を見た。
完全に背中のチャックは下がっていた。
「今からでも良い、チャックを上げて熱中症になってくれ(嘘です、ごめんなさい)」
遠ざかる背中を見ながら、心の中で呟いた。

ゴール手前に設置された時計を見た。
なんとか40分切りができたことがわかった。
そのまま、ふらふらになりながらゴールした。

最高のそうめん

結果は目標としていた40分切りを何とか達成できた。
順位も年代別の一桁順位に入ることができた。
総合順位も予想していたよりもだいぶ良かった。

個人的には、暑さの中で良くやった結果だと思う。
ゴール後に青ピクミンから「若いんで、スプリントでは負けたくなかったんです。」と言われた。
年齢を聞くと、私の半分以下の歳。
こんな歳の差のある方と勝負できて嬉しかった。

ゴール後、お世話になっている知り合いの家に行くと、そうめんを茹で、冷えたビールまで用意してくれた。
ハーフマラソンが終わった仲間と一緒にそうめんと冷えたビールを堪能した。

最高のそうめんだった。

暑いマラソンも悪くないな。
でも、青ピクミンがあんなに走るの速いとは思わなかった。
今度は足の速い白ピクミンで来て欲しいと願った。

あっ、でも。
白ピクミンは毒があるからダメか。


ちなみに、この一か月前に『自己ベスト』を出して調子に乗っていた西大寺マラソンの様子はこちら。
この時はまだ、自分が島でピクミンを追い回すことになるとは知る由もなかった。

#創作大賞2026
#エッセイ部門

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