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【ショートショート】 選択後の世界にて 《風まかせ文芸部》


ヴァーチャルの中の華やかさとリアルの過酷な乾燥のちぐはぐな海で、息苦しくなった皆が呼吸法探しなんかをしている間に、自分だけはバンカーにいれば助かるだろうと考えた一握りの世間知らずが核爆弾のスイッチをあっさりと押して文明は崩壊した。
当時、私は大学生で家族も恋人も失ったがなんとか生き延びてきた。実戦で銃やナイフの使い方を覚えたりしながら。
唐突に訪れた大規模な破壊に対して、生き物はやはり本能的に震源から逃れようとする。つまり海や空港を目指す。だが皆が同じ考えなら、その先で争いが増える。断片的に入ってきた情報を聞いた限りこの予想は当たったようで、幸か不幸かネブラスカという元々さびれた内陸部が地元の私はそこから行動範囲をあまり広げない選択をしたため、最小限の戦闘でここまではやってこれた。
州の南西にあるワウネータ近辺を拠点にしている。ごく小さな町だが6号線沿いにあり、さらに南にはスワンソン湖、西にはやはり湖を構えたエンダーズがある。崩壊前、エンダーズは保養地として名高く、ゴルフコースや盛りが付いた学生たちのためのキャンプ場があった。そのため街の規模のわりに立派なモール跡があり、大いに助かった。
スワンソン湖より南のカンザス、東のリンカーンやオマハは大きな街のため、うかつに近づくと危険だ。北のサウスダコタは寒さが厳しい。行くとしたらデンバー近郊のカージーやストラスバーグあたりまで。
34号線と283号線が交わるアラパホー。生きた人間と遭遇する確率は低いが、それでもメイン通りを避け、ローカスト・ストリートから回り込んで使えそうなものを調達する。
人間の遺体はもうあらかた動物らに食べられてしまったが、通りには乗用車やトラックの抜け殻が横転しており、遮蔽物として利用する状況を想定してそれらの位置を頭に入れる。
S&W40ハンドガンを構えて頭を低く、散乱するガラス片の上を慎重に進みながら旧商店街に入る。
平屋建てのスーパーマーケット跡。床に忘れられた淡いピンクのワンピースや洒落た革ジャンが、埃あるいはカビと添い寝している。残念ながら今の世界では彼ら彼女らの需要は全くない。
店の中ほどまで来たところで、裏手から回ってきたジェイミーと合流し、銃を下ろす。
「オーケー、クリアよ」
「ああ、こっちもだ」
ジェイミーとはこの一年ほど行動を共にしている。少し抜けたところのある気の優しい大男。だが生き残る知恵はある。出会ったとき、ジェイミーはストラスバーグの北、コマンチ川沿いにある肉屋跡に潜んでいた。デンバー国際空港近くのオーロラ出身。虐待だらけの養護施設育ちだが不思議と邪気がない。物事を深刻に考える回路が正常に機能していないのか、自分で機能を止めたのか。詳しく聞いたことはなかった。
「こっちに来てみろよ、マギー。面白いものがあったぞ」
ジェイミーに促され、後をついていく。
「ほら、こいつだよ」
棚のほとんどは空だが、おそらくレンタルDVDコーナーだったのだろう。残された作品が2つだけ。
「なあ、君なら人生最後の映画にどっちを選ぶ?」

『地獄のアリゲーター軍団』
『悪夢の悲鳴館』

思わず苦笑いが漏れる。
「何よ、これ? こんな選択肢しかないの?」
「そう。ある意味究極の選択だよな」
パッケージを眺める。映画の中の悪霊、巨大ワニ。平和だった時代の名残をわずかに感じる。
「どっちも選ばないわよ。悪夢も地獄も、もう両方知っているもの。イヤというほどね」
ジェイミーが笑う。
「だよな。君ならそう言うと思ったよ」
大体のことは手遅れだ。よく考えて選択をするべきだったと思ったときには。それでも私は、ジェイミーと一緒に生き残りにトライする道を選んだ。
「さあ、フザケてないで暗くなる前に出るわよ」
物資を集め終え、ライフルを構えたジェイミーが背後を警戒して、建物沿いに2ブロック西に停めたカローラまで進む。エンジンをかけ、拠点へと戻る。
「ガソリンがあまりない。どこかで補給できるかしら」
「俺の街にでも行ってみるか?」
「オーロラ? 危険はないの?」
「さあな。わからないよ。最後に寄ったのはもう随分と前だ」
いいアイデアとも、悪いアイデアとも私は答えなかった。
34号線を西へ。夕陽が草原を染め、鳥たちが森へと飛んでいく。ジェイミーが助手席で古いカントリーミュージックを口ずさむ。はっきりと言ってヘタクソだが、本人には黙っている。簡単なスイッチの動作で滅んだ後の世界に流れる音楽としては、それほど悪くはないと思うから。








*こちらに参加させていただきました🙇‍♂️



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