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【小悪魔だってかまわない!】 Hitの理由分析レポート 〜 YouTube 今週の1曲 [No.8 - 24.10-01]

今回はYouTube優秀なMV分析の回です。

今回は
「小悪魔だってかまわない! / めいちゃん」
について分析していきたいと思います。


本楽曲を取り上げる理由

2021年に大ヒットを記録した本楽曲ですが、現在YouTubeでは3600万再生を超えています。
これは同年にリリースされ、TVアニメ「鬼滅の刃」無限列車編 OPにも使用された「明け星 / LiSA」を超える再生数であり、そのような大きな規模の主題歌に採用されたわけでないにも関わらずさらに当時の登録者は数十万人と決して多い数字ではない中、これだけのヒットを生み出したのです。

一体その成功の秘訣はどこにあったのか?
これから紐解いていきたいと思います。




「小悪魔だってかまわない!」が伸びた理由

本楽曲が伸びた理由ですが、
着目すべきは主に4つの点だと思っています。

  1. ターゲットに価値を瞬時で理解させるサムネイルの見せ方

  2. 視聴者心理から逆算したストーリー

  3. ストーリーをさらに際立たせる演出

  4. プラスアルファで感情を揺らす裏設定

この4点において非常に秀逸な狙いがあったと考えています。
早速解説します。


この楽曲のターゲットと求める価値とは?

YouTubeで再生数が伸びるということは、特定の視聴者層からのサムネクリック率や視聴維持率等の反応が良く、YouTube側に拡散すべきだと認知してもらえたということです。

ですのでまずは、この楽曲を聴く人たちはどのような層なのか、そしてその人たちが何に価値を置くのかを見ていきましょう。


結論 : 10代後半〜20代前半のオタク女子界隈

MVのコメント欄、Xのフォロワー、実際のライブ視察などの複数視点から上記がメインの視聴者層であることがかなり高い可能性で推測されました。

例えばこちらの本楽曲が3000万再生を突破したことを報告するツイートのリプライのアカウントを確認してみると若い女性のアカウントらしきものであることが多くを占めていることが確認できます。

そして彼女らは一体何を価値としてこの音楽を聴いているのかというと…

「疑似恋愛」

一言で表現するならばこれかと思います。
こちらも以下のような本動画のコメント欄の内容からそうであると推察できます。

動画の価値提供について

もう少し詳しく掘っていきましょう。

そもそも10代後半〜20代前半のオタク女子界隈で近年人気のコンテンツをいくつか挙げてみると、例えば有名アニメだと「ハイキュー!!」「ブルーロック」、音楽に関わる作品だと「あんさんぶるスターズ!!」や、やや世代的には前にはなるので年齢層はややずれますが当時で言う所の「うたのプリンスさまっ」などが挙げられるかと思います。

これらの作品に限らず、女子ウケの良い最近のコンテンツに共通することは、
「夢に向かって努力するかっこいい男の子たちの姿」です。
(本筋と逸れますので、今回何故そのような男性キャラクターが近年人気があるのかと言う話にはあえて触れませんが、このような設定は流行りです)

さらに彼女らにはその中で「推しを作って、現実では叶えられない理想の疑似恋愛をする」という文化があります。

本楽曲は歌い手さんの曲ですが、これも根本は同じで
「イケメン or 可愛い男の子が良い声で歌ってくれて耳が幸せ、ラブ」
というのがMV視聴時の大枠の価値になります。

ではその目線で各要素がどのように再生数に結びついたのか見ていきましょう。


ターゲットに価値を瞬時に理解させるサムネイル

まずはこのサムネイルがクリックされることが再生される第一歩です。

数ある動画をスクロールしている中から、パッと興味が湧いたもの・感情が動いたものを視聴者はクリックしますが、「小悪魔だってかまわない!」のサムネイルはどのようにしてその感情を動かしたのでしょうか?

先ほどお伝えした通り彼女らは「恋をしたい」のです。
ですから、ここで言う感情を動かす = 恋ができそう!という価値を享受できる予感を感じさせることであり、感情の種類は「かっこいい!」もしくは「可愛い!!」になります。

その目線で実際に同界隈で人気のコンテンツで成果の出ている画像との類似性を見ていきましょう。
例えば以下の3作品。

劇場アニメ「ブルーロック EPISODE凪」のキービジュアル
歌い手ユニット「すとぷり」のキービジュアル
『劇場版 Free! -the Final Stroke-』キャラクターソングシングル Vol.9 Timeless Blue CDジャケットから引用。

共通するのは色の鮮やかさとビジュアルの良さ。
例えば2枚目の「すとぷり」は他の2作品に比べてファン層の年齢が低めであったり、印象によってそこの上下は生じますが、基本的に一目でわかるハッキリとした色合いとカッコ良さ or 可愛さがすぐに伝わるという第一印象が特徴的です。

本楽曲のサムネも「オレンジという分かりやすい色使い×ハッキリしたタッチで描かれた可愛い少年」という点でこれらに共通しますね。

この直感的な訴求がターゲット層に「可愛い!!」と感じさせ、潜在的には「かっこいい・可愛い男性の歌い手さんがイケボで歌ってくれるんだろうな、恋できそう」という感情を揺らしクリックに繋がったと推測しています。

また、このようにハッキリとした直感的な訴求をすることのもう一つのメリットは、そういう二次元的要素や恋愛要素を好まない層をスクリーニングできるということです。
そのような内容を求めていない層に中途半端にクリックされても維持率が落ちて動画の評価も下がってしまうため、本当に好きな人にだけ見てもらうという視点も重要かと思います。

二次元イラストのサムネはYouTube攻略視点で考えると「想定外のユーザーをクリックさせない」という視点はニュアンスが少し違うだけで違う界隈も反応しちゃうので意外と難しいと思います。


視聴者心理から逆算したストーリー

サムネの次は中身の部分です。
ここで「恋の期待感」を裏切らず、いかに感情移入してもらえるかが視聴維持率を高めるポイントになります。

では早速本楽曲ではどのような狙いが隠されているのか MV と共に見ていきましょう。


①冒頭サビ

「今日から君の好きなとこ 一日一個伝えよう」
「ドキドキさせちゃうぜ」

の歌詞とともに男の子が女の子のハートを撃ち抜く演出。

ここで「これは一人の男の子が女の子のハートを射抜く物語」だという理解ができた上、サムネ回収するシーンでもあります。

これにより恋愛系の楽曲というサムネで得た期待感との乖離がないことが分かると同時に、
相手はどんな人?恋は実る?など、その先の展開が気になり視聴を続けたくなると考えられます。


②Aメロ

ここではツンデレ猫系彼女と甘えん坊子犬系彼氏の微笑ましいやり取りが展開されます。

ここで重要なのは女の子側の顔やセリフが出てこず、主観ベースで物語が始まる点。

冒頭サビでは「男の子が女の子を追いかける物語」としか捉えられませんでしたが、
ここからはその女の子が自分自身であるという見方もできるのです。

つまり「”恋の行方が気になる”という客観的興味」と「”自分が推しの彼女である”という恋愛体験」

視聴を続ける理由がここで2つ生まれます。

【演出面について】
物語と同時に演出にも触れますが、ここでゲームっぽい演出がされていることも非常に秀逸だと思います。

これは言ってしまえば恋愛シミュレーションゲームなんですよね。

恋愛ゲーム「リゾ恋」から引用

歌詞だけでなく、視覚的にも「物語のヒロインは君自身だよ」と伝えるこのチョイスが、映像への没入感を作りつつ彼女としての恋愛体験に引き込む更なる仕掛けになったと考えます。

③Bメロ

ここではガラッと雰囲気が変わり、二人が出会った回想シーンが展開されます。

ここでの意図は「疑似体験」をよりリアルなものにすること。二人が結ばれた経緯を知ることで、これを見ている女の子自身が彼女としての自分をよりイメージしやすくなり、さらに物語に引き込まれる効果があると考えます。

【演出面について】
絵柄が少女マンガ:マーガレットのようになっていますが、視聴者層が10代後半から20代前半であることを踏まえると、この絵柄に触れていたのは小中学生の頃。つまり「幼い頃憧れたあの情景」というノスタルジックさを引き立て、こちらも世界観に没入させる効果があったと考えます。

マーガレット掲載作品「そんなことより今すぐあそぼ!」から引用

また「恋愛ゲーム」「少女漫画」とターゲット層の界隈ユーザーにとって類似界隈の馴染み深い文化の表現を複数用いる事で、興味づけのポイントを多く作り動画に関心を留める効果も期待できます。
これはタイパを重視する現代の動画SNSにてセンターピンとなる考え方だと思います。


また脚本面でも同時にもう一つの感情である「彼女どんな人なんだろう?」の一番の疑問は明かさないまま、二人の関係性をより深く描写し、視聴者は物語に引き込まれていきます。


④1番サビ

ここでは現在の時間軸で幸せに過ごす彼氏彼女の仲睦まじいシーンが展開されます。

つまり、この楽曲における恋愛体験のメインの価値となる部分です。
世界観を理解した上で、推しとイチャイチャする想像ができるこの描写はシンプルに一番の価値になっていると考えます。

また、彼女の正体への興味という感情から見れば
Aメロで登場した曖昧な彼女の存在、Bメロで描写した出会いの過程、これらが実って今幸せな彼氏彼女として過ごしているという一つの答えがサビで明かされます。

ですので、ここで視聴者としてはサムネの意味や物語の大枠こそ回収するものの、肝心の彼女の顔が見えないことや、二人のことを知ったからこそ行方が気になるなど、痒いところに手が届かない感情がさらに興味を持続させます。


⑤2A

ここでは変わらずツンデレな彼女にあしらわれる健気な彼氏像が描かれます。

「たまにはお出かけどう?」
「いつも部屋デートばかりじゃん」

「たまには」「いつも」などのセリフから付き合ってそれなりに時間が経過したことが分かります。
これは恋愛体験真っ只中の視聴者女子がついにカレカノの世界観に入り切ったと感じさせる仕掛け。

つまり、世界観の理解も兼ねた1番のチュートリアルから本編に入り、当然一番楽しい部分なので視聴を続けたくなるのです。


⑥2B

ここでは彼女をリードする頼もしい彼氏像が描かれます。

「気分屋な君 あぁ 世話が焼けるな」

先ほどと異なり、今度は彼女が何かをしてもらう視点。
つまり物語に没入した後に、カレカノライフを様々な角度から満喫できることで感情が揺れ、飽き防止(=視聴維持)に繋がっていると考えられます。

⑦2番サビ

ここは1番サビと変わらず幸せに過ごす彼氏彼女の仲睦まじいシーンが展開されます。
「いつになっても変わらないツンデレ猫系彼女と甘えん坊犬系彼氏」

この変化しない構図が幸せな二人の姿をむしろ強調し、恋愛体験として幸せな感情が強く想起されます。

客観的な興味関心としては、ここでも肝心の彼女の姿ははっきりと移されず、欲しい答えが得られない焦ったさを抱かせたままCメロへと突入します。


⑨D

ここでは今まで彼女最優先だった彼氏の帰りが遅くなり、珍しく少し不服そうな態度を見せる彼女とのやりとりが映されます。

ここで修羅場感のある描写を入れることで、恋愛体験の幅が広がりリアリティが出ます。
これにより「私たちどうなっちゃうの?」というドキドキ感が生まれ視聴及び体験を続けたくなります。

抜きサビに入っても不安な流れは続き、これがラスサビへの伏線となって感情を高めていきます。

・疑似体験 = 「きっとハッピーエンドだよね…」
・客観的な興味 = 「最後彼女の正体見れるかな?」

このようにどちらにとっても静かな興味が視聴を続ける理由となります。

⑩ラスサビ

※解説の関係でラスサビ少し前からの引用です

彼女との結末が気になる中、ついに彼女が姿を現しそうです。

…と思ったら、あれ…!? (手に注目ください)

(なんか手の様子が…)


いや猫だったんかいーーーーー!!!!

なんとここで最後にどんでん返し、彼女は実は猫であったことが明かされます。
ここまで視聴者は「私たちの行方はどうなるの?」「彼女って誰なんだろう?」の2軸を興味に視聴を続けてきたわけですが、予想外のネタバレをされ、最大の盛り上がりを感じたところで物語は終わりを迎えます。

最後はこのオチが猫であった理由について解説したいと思います。

おそらくこの描写は普通の人間彼女でも成り立ちはしたんじゃないかと思います。
ただ以下の点において猫がベストであると同時に、必然的だったと考えます。

【疑似恋愛する女の子の感情】

視聴者の女の子はこの楽曲中、疑似体験をしていました。しかし自身を投影しているのと同時に、本来はこの歌い手さんと誰か別の女の子の恋物語だと認識している部分もあったはずです。
つまりここで純粋な人間とのハッピーエンドにしてしまうのは、幸せな恋愛体験であると同時に現実には別の誰かがいるのかも…という陰りの感情を抱かせるリスクもあったと思います。

事実、王子様系の作品がアニメ化した際にヒロインが叩かれ、その理由が「そこは私たちのポジションだから」と炎上したケースが過去に存在します。
つまり、擬似とはいえ恋愛をしている傍ら下手にリアルな存在を出すと居場所がなくなったと感じるファンも一定数いるようです。

その点、猫というオチは擬似恋愛という夢から覚めるには最もハッピーなルートですし、彼女の正体が気になって見ていた視聴者にとってもシンプルに満足度の高いストーリーになったと思います。

これがエンディングとして猫がベストだった理由です。

ーーーーそしてもう一つ猫が”必然的”だった理由。

実はこの楽曲、実家の亡くなった猫との思い出を描いた歌だそうです。
ここに関してはあまり施策という打算的な言葉は使いたくないのですが、事実エンゲージメントに結びついてることが以下のコメント等からも分かります。

つまり、この猫という演出で

・十分な恋愛体験を作った上でファンの感情の着地点も確保
・ストーリーの面白さでエンゲージメント促進

をさせただけでなく、

・感動の裏設定というトドメの一撃

を刺したわけですね。

たった一つのオチで3つの効果を生み出した秀逸な演出だったと思います。

(というか、自分の愛した猫を音楽にしたいという思想がまず大前提にあり、その上で視聴者にとってもここまで満足度の高い作品に仕上がっているという両立が本当にすごいなと思います)


時代背景における本楽曲の立ち位置と音楽的特徴

本楽曲のヒットを紐解く上で時代的な視点にも触れておきたいと思います。
要は楽曲単体の良さだけでなく、時代の流れにもハマっていたということですが、
筆者は「彼女らが求める擬似恋愛像の変化に適応した」のではないかと推測しています。

例えば2021年以前でボカロ歌い手界隈ラブソングの中でヒットした曲ですと、

2018年:かいしんのいちげき!/ 天月-あまつき-

2020年:ヒロイン育成計画 feat. 涼海ひより(CV:水瀬いのり) / HoneyWorks

が印象に残っています。

これらを「擬似恋愛」の視点から見ると、かいしんのいちげき!は特にそうですが、
女の子の姿を客観視して、それを自身の現実での恋愛と照らし合わせてキュンキュンするというものになっています。

例えば
「学校で片思いしてる人とこの曲みたいに結ばれたらなぁ…」
「現実で私もこんなにチヤホヤされたらなぁ…」
という想像ですね。

しかし本楽曲は現実を最初から取り払って、楽曲の世界で”自分が”恋をできる視点になっているなど、その切り口に違いがあります。

2020年のコロナ時代をきっかけに、外でアクションを起こさずとも自分の世界に没頭し欲求を満たすこともできる、またはそういった文化への許容度が高まり、それに伴いオタク女子の疑似恋愛像もより想像の世界に理想を求めるようになっているとしたら、この楽曲の視点が時代にハマった可能性はあると推測しています。

楽曲の音楽的特徴

本楽曲の特徴として8bit、レトロゲームのようなポップなサウンドが目立ちます。
このコミカルな感じは楽曲全体の可愛い雰囲気にもマッチしていたと思いますが、着目すべきはなぜこのサウンドをチョイスしたのかです。

筆者は、MV分析のセクションで解説したゲームの世界観をより際立たせるためだと考えています。
つまり「可愛い」とか「楽しい」などの感情を引き起こすためにチョイスしたというよりは、恋愛体験の満足度を高めたい → ゲームの世界観にしよう → 8bitサウンド使おう の順番だと考えています。

本楽曲がヒットした理由の一つである恋愛体験的な価値を高めるための演出が先にあって、そこにマッチしたサウンドを選んだことによって、音の面からも没入感が高まりエンゲージメントにつながったと推測できます。


バズった結果得られたもの


  • Youtube登録者数 +20万人(投稿から執筆時現在におけるまで)

  • 翌年、武道館公演など大規模ワンマンライブ開催

本楽曲のヒットから一気に20万人ほど登録者が増加、そして翌年には武道館をはじめとした大規模ワンマンライブを開催。
後者は本楽曲のヒットだけが理由ではないですが、今でも最も有名なオリジナル曲として認知されているため、貢献度は大きかったと考えます。


再現性のある要素

  • 印象を重視するサムネ
    今回であれば言葉や画角などで何か情報を面白く見せるというよりは、色味・カッコよさ・可愛さという直感的な訴求でした。想定するターゲットによってはこのような抽象的な全体の印象が通常以上に必要とされるケースも出てくるため、特に女性が恋をする系のコンテンツに対しては他の人気作品のタッチなどを参考にしながら決めると精度が高まると思います。

  • 1番はチュートリアル、2番以降で本編へ向かうストーリー
    ストーリー構成として、なるべく早く期待を回収してあげることも必要ですが、そればかりでは後半がジリ貧になってしまいます。その点、今回は1番を世界観へ入り込むための時間に使い、2番からその世界観を存分に楽しんでもらうという、まるで楽曲全体を使ったアトラクションのような構成になっていました。同様に、視聴者の期待感が冷めてしまわない範囲で、その動画の一番楽しい体験を迎えられるように構成を組んであげるという意識はどの作品においても使える考えではないでしょうか。

  • 視聴者体験を促進する演出
    今回であれば「擬似恋愛」でしたが、その世界観により引き込むために「恋愛シミュレーションゲーム」や「懐かしの少女マンガ」など全てがターゲットの体験から逆算された演出でした。このように自身の想定するターゲットと求められる感情に対して、それを引き起こす演出をYouTubeの外から持ってくると差別化ができそうです。


「小悪魔だってかまわない!」の分析は以上となります。

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