長編小説[第4話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン
魅惑の露店
仙台駅の東西を結ぶ通路は、表と裏、2箇所ある。どこか薄暗さの残る裏通が、私、星光(あかり)のお気に入りのスポットだった。
もうすぐ夜の10時を回ろうとしている。駅前を行き交う人々の波も、大分まばらになってきていた。
裏通の方を歩いていると、ふと、壁際に店を構える小さな露天が目にとまる。
時代を200年くらい逆行したような浮世離れした風貌の店主。立派な顎鬚(あごひげ)を蓄えた初老のその男は、痩せていて頬が少し痩(こ)けている。
古びた机と、まるで踏み台のような硬そうな客用の椅子。下げられた提灯(ちょうちん)には『四柱推命』と書かれた達筆な文字が入れられていた。
好奇心に負けて、私は露店の店主に声を掛けた。
「手を見せて。利き手はどっち?」
「右です。」
「・・・対人運が気になるのかな?恋愛、ではなさそうだね。」
「はい。」
「お嬢さんの生年月日と名前をこの紙に書いて。」
「それじゃあ、始めていこうか。心の準備はできましたか?」
怪しい数珠を差し出されるかと期待した。が、始まったのは、至極真っ当な占いだった。ちょっとだけ、拍子抜けしてしまった。
「お嬢さん、財運が落ちているね。今、お金ないでしょう?」
心外だけど当たっている。現に口座の預金残高は、引越し資金でほぼゼロだ。
話の流れで、近々に開催される『マネーセミナー』なるものを紹介された。参加費は500円。聞けば店主の友人が主催しているものらしい。
無料じゃないし、多分ちゃんとしてる・・・よね?
そんなこんなで私は、そのセミナーに参加してみる事にした。
だいぶ長居していたみたい。スマホの時計を確認すると、もうじき今日に終わりを告げようとしていた。
礼を伝えて店主と別れる。
どうにか終電に滑り込もうと、私は足早に、地下鉄のホームへと駆け込んだ。
パリピの聖地
そこは何の変哲もない世帯向けアパートの、少し広めの一室だった。広めとはいえただの部屋、見立てでは10畳くらいだろうか。市民センターのセミナールーム的な会場を想像していた私、星光(あかり)は今、まるで狐に化かされたような気持ちでココに居る。
受付のお姉さんが持つ参加者名簿には、確かに私の名前が載っていた。そして配られた本日の資料のタイトルにも、確かに『マネーセミナー』と書かれている。
大きな丸テーブルを囲むようにして、アットホームな雰囲気のまま、
そのセミナーは始まった。
講師含めて参加者は12名、参加者は比較的若く、半数くらいが20代後半から30代前半くらい。上手くいけば友達が増えそうな予感がして、少し嬉しくなった。
そして何よりも心躍ったのが、そのうちの2人組の参加者が、笑顔の素敵な爽やかイケメン達である事だった。
セミナーが終わるのまでの時間はあっという間だった。イケメン達のオーラと、新しく繋がった方々といっぱい話せた嬉しさで、肝心な内容は、実はあんまり覚えていない。
さらに、今日が全4回開催のセミナーの1回目だった事を、今しがた知った。
人は慣れる生き物なんだと思う。
それからの私は、週一でこのセミナーに顔を出すのが、当たり前のように日常のルーティーンになっていた。
セミナーの最終日、私は講師から、MLMのチームに参加する事を勧められた。
新しく繋がった方々と、これからも一緒にいられたら、きっと楽しい。私は2つ返事で参加を決めた。
MLM (Multi-Level Marketing)。このチームはネットワークビジネスを営むグループである。そして月会費の出費が地味に大きい・・・。
私がその事に気がついたのは、活動を始めてから、しばらく経った後だった。
講師の持つ手帳の背面には、白い鳥がアロエの入ったカゴを口に加えて羽を広げている、淡いグリーンのロゴがプリントされていた。
