長編小説[第5話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン
チームの日常
絵に描いたような青空と、気持ちよく通り過ぎるそよ風。元気な芽を出し始めた草花が、ザワザワと風になびいている。
貸別荘に備え付けられた、テニスコートひとつ分くらいの広い庭のスペースで、私、星光(ひかり)とネクプロ青葉(ネクスト リビング プロダクツ ジャパン 青葉支部の略称)メンバーは、BBQを楽しんでいた。
15名程が集まった今日のイベント。その参加者のほとんどが、この前のマネーセミナーで知り合った方々だった。
4人の古参のメンバーが、火加減を絶妙に調整された炭火の前で、イカや貝の刺さった海鮮串を、上手に焼いている。場慣れした手付きで焼き上げると、お茶目に周りのメンバーに話を振りながら、焼き上がった串を配っていた。
海鮮串を受け取った私は、ウッドデッキの片隅に腰掛けて、ひとり、遠目から皆の様子を眺めていた。
楽しそうにしている人々を眺めていると、私も楽しくなってくる。
ここの人達は純粋だなって、少なくとも私からはそう見える。喜怒哀楽が自然っていうか、リアクションに嘘がない感じ。
日頃すごく計算高い人とかで、貼り付けたような笑顔がクセになっちゃってる人って、たまにいるよね。木陰のベンチでチームリーダーの導(みち)さんと談笑しているあのお姉さんは、きっとそのタイプなんじゃないかな・・・。
あの人をずっと観察していると、誰にでも笑顔だし人当たりも良さそうなんだけど、どこか硬い感じがする。まるで会社の接待の現場を見ているみたいな、そんな感じの違和感。
私はしばらく、その違和感のあるお姉さんから、目が離せなくなっていた。
「それにしても、君はどこにでも現れるね。」
私は遠くを眺め、なるだけ独り言を装いながら、隣に腰掛ける黒髪ロングの女の子、クロちゃんへ話しかけた。
クロちゃんは相変わらず何も言わずに、風を浴びながら気持ちよさそうにしている。
彼女が出没するようになってから、もう2ヶ月くらいにはなるだろうか?最初はちょっと戸惑ったけど、最近はもう慣れてしまった。コミュニケーションはあまり取れないし、勝手に現れて勝手に消える。彼女はたぶん霊的な何かだと思うんだけど、探りようもないし、放っておこう。なんだかんだで最近は、可愛く見えてきたりもしているしね。
「星光(あかり)ちゃん、楽しんでる?」
伸びやかな声と共に、チームリーダーの奥さんが私の元に歩いてきた。40代後半と思わしき彼女は、肩までかかる黒髪をハーフアップに束ねて、ナチュラルで優しそうな雰囲気のメイクをしている。ちゃんとしている人だなぁ、そんな印象を受けた。
奥さんが私の隣に腰掛ける。
「あそこの木陰にいる、導(みち)さんと喋ってる方、いつもあんな感じなんですか?」
私はふと、違和感を感じたお姉さんについて尋ねてみた。
「渚(なぎさ)ちゃんのこと? そうねぇ。根は真面目で誰とでも話すし、悪い子じゃないのよ。ただ、入った時から、どこか影がある、というか、人に対して壁がある子だったかな。」
「そうだったんですねぇ。」
「今年32才になるって言ってたから、星光(あかり)ちゃんより、ちょっと上くらいかなぁ。星光ちゃん今いくつだっけ?」
「26才です。」
「渚(なぎさ)ちゃんの方がお姉さんか。」
奥さんはそう言うと、おもむろに紙コップに入ったお茶を一口、口に含んだ。
「渚(なぎさ)ちゃんもチームに入ってから、まだ日が浅いからね。星光(あかり)ちゃんの少し前くらいだったかしら?星光ちゃんは入ってから・・・1ヶ月くらい?」
「はい、多分そのくらい。」
「そっかぁ、これからが楽しみだわぁ。」
奥さんはしみじみと話す。
私はそんな奥さんの横顔を少し眺めながら、手に持っていた海鮮串を一口ほおばった。
導さんにビールを手渡しに行く渚さん。お礼を言いながら受け取る導さん。導さんが焼きおにぎりを渚さんへ差し出す。丁重にお断りして受け取ろうとしない渚さん。どこかへ立ち去ろうとする渚さん。もっと話をしたそうな顔で、それを見送る導さん・・・。
あんなに面倒見のいい導さんに、どうして壁を作ろうとしているんだろう?
私はここ1ヶ月、導さんには甘える事の方が多い。だから、行動の節々で導さんを拒絶しようとしている渚さんの態度が、不思議でしょうがなかった。
「隣、いいですか?」
木陰のベンチでコーヒーを頂いていると、渚さんが私に声を掛けてきた。
私は会釈をしながら、少しだけ席をつめる。
自己紹介は済んでいるとはいえ、初対面で込み入った質問をするのは気が引ける。だけど、どうしても気になって聞いてみた。
「導さんと、何かあったんですか?」
渚さんは少しだけ驚いた顔をした後、ゆっくりと語り出した。
「優しさの仮面をかぶって、裏で大事な事を握り潰してきた人がいたら、その人のこと、警戒しなくちゃって思わない?」
憂いに満ちた渚さんの横を、急にやってきた風達が、足早に通りすぎていった。
日がくれて、風が冷たくなってきた。撤収作業も終盤に差し掛かり、私達は、車の荷台にBBQで使った道具達を、皆で手分けしてテキパキと詰め込んでいた。
私が数人分のバックを運んでいると、導(みち)さんの手提げ袋のポケットから、一冊の小さな手帳が落ちてきた。
地面に落下した手帳を拾おうとしてしゃがむと、12月のマンスリーページが開かれている。忙しい人なんだなぁ。人の予定を勝手に見るのは失礼だと思いつつも、書かれた予定の数々を、興味本意に目で追ってしまった。
12月1日。青いシールが貼られている。他の予定は詳細まで書かれているのに、ここだけ何も書かれていない。何の日なんだろう?
「星光(あかり)ちゃん大丈夫ー?」
荷台で詰め込み係をしていた古参のメンバーが声を掛けてきた。
私は大きく「大丈夫です」と返事をする。手帳を拾って手提げ袋へ突っ込み、足早に車へと向かった。
