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【和陰少女】第六幕『しろと本』|連載小説||和風ダークファンタジー|妖怪|美少女|AIイラスト

前回

#創作大賞2026
#エンタメ原作部門


山の外周の田んぼ道。

風が金色に輝く稲穂は揺らし、
陽で蒸発した田んぼの湿気と、
甘ったるい匂いを運んでいた。

鈴女と別れ、紫乃達はそんな中を目的地の赤村に向けて歩いていた。

「鈴女ちゃん
 畑見つけれるといいわねー。
 そういやさ、あんたにもなんかあるの?」

「何がじゃ?」

「大切なものよ」

「むー大切な物のう……」

しろは少し考えるようにつぶやき、
右手の田んぼでトンボを狙うカエルに視線を落として昔を思い出した。

——100年前

6つの頃。
蛇神神社の境内。

朝から母の姿はなく、
暇つぶしに社の犬走りにしゃがみ、
綺麗な玉砂利を探していると、
社の入口から見かけぬ男が出てきた。

男はキョロキョロとしたあと、
貼り付けたような笑みを浮かべて
こちらに駆けてきた。

「あー、白様。
 ここにおりましたか!」

「む?誰じゃお主?」

「あぁ、私、本日付で白様のお世話をする事となった者です。
 ちょっと旦那様から申し使ったことがあり、
 ささ、ちょっとこちらへ。」

「父が?……
 むぅ、仕方ないの。」

「ささ、一緒に参りましょ。
 こちらです、こちら。」

「おい、新人。
 どこへ連れて行くんじゃ?
 そっちは何もないぞ。
 部屋に帰らんのか?」

「あー、申し訳ございません。
 先にお伝えすべきでした。
 蛇神様が流行病ゆえ、
 本殿から離れたところにお部屋を用意することになりまして。」

「むっ?
 母は病なのか?
 大丈夫なのか?」

「はい、医者が申すには
 長い療養が必要のようですが、
 そこまで深刻ではないと。
 ただ、大事を取ってしろ様は少し距離を取っていただこうと。
 大切なお体ですからね。」

「そうか……良かった。
 うむ……わしがわがままを言うわけにはいかんな。
 母は頑張っておるのじゃから……」

「申し訳ありません……
 ささ、どうぞどうぞ。
 こちらが今日からお部屋になります。」

「……おい
 ここは……」

——ガラッ

案内されたのは
六畳ほどの板張りの部屋。

内装は簡易なもので、
入り口正面に男の肩あたりくらいの高さに正方形の窓。
床の上には埃にまみれた古びた机や無造作に置かれた本やガラクタがおいてあった。

しろが机に乗り窓の外を見ていると男が一言付け足した。

「あー、元々倉庫ゆえ散らかっておりますが、
 後ほど担当が片付けに参ります。」

「……いやじゃ。」

「いや、先ほどわがままは言わないと。」

「話が違う!
 みろ!窓の外を!」

「窓の外?」

「何が見える!」

「綺麗なお花にございます。
 菊でしょうか?」

「そんな端っこのちょこんとある花より目立つものがあるじゃろ!
 それに、わしの身長じゃと花は机に乗らんと見えん!!
 ほれ見よ!男子厠が丸見えじゃ!!
 男の花を摘む姿を見ろと申すか!?」

「あー。
 確かに少し気になりますな。」

「少し!?
 九割厠じゃぞ!」

「しかしお父上からの申し付けで……」

「むぅ……
 それを出されると……
 何も言えぬではないか……
 せめて……そうじゃな……簾をつけてくれ。」

「承知いたしました。
 係の者に伝えておきましょう。
 では、私はこれで。」

倉庫に一人残され、係の者というのが来るまで
キョロキョロと倉庫の中を物色し始めた。

「むぅ……
 狭いの……埃ぽいし
 少し歩いただけで足が真っ黒じゃ!」

足についたホコリを払うために机に腰掛けると、
机に引き出しがあることに気づいた。

「ん?この机……」

——ガラッ

引き出しを開けると、
一冊の手帳といくつかのかんざしが出てきた。
手帳には、少し幼い文字で書かれた母の名前が書かれていた。

「おお、これは母上の日記か?
 ということは、母の机じゃ!
 これは残してもらおう!」

「このかんざしもきっと母のものじゃな?」

机によじ登り、窓に少し反射する自分の姿を見ながらかんざしをつけニマニマする。

「こんな感じかの?」

母の私物を見つけ、
他にも何かないかとキョロキョロと周りのものを確認していく。

「あとは……ガラクタと……
 そこそこ本がたくさんあるな。
 これにも名前が書いてあるの。
 母上が読んでいたものかの?」

「ふむふむ、この本は……まだ習って無い字じゃ。
 まぁ、どうせいつも暇じゃしの。
 覚えて母をびっくりさせよう!
 よし!本も残してもらおう!」

——ガラッ

一時の宝探しに興じていると、
扉が開き数人の男たちが現れた。

「おつかれさまでーす。
 お片づけに上がりましたぁ。」

「おお。
 よろしく頼む。
 あのな、実は残しておいて欲しい物があってな。
 あのな、机とーー」

「あー、はいはい。
 うん。
 よし、全部持ってけ。」

「お、おい!
 まて!
 何を聞いておったんじゃ!
 残して欲しい物があるんじゃ。
 その机と本は残しておいて欲しいのじゃ。」

男がちらっとこちらを向いたが、
すぐにまた向き直り作業を続ける。

「……おい、トロトロするなー。
 さっさと終わらせるぞぉ。」

「おい!聞いておるのじゃろ!
 返事をせぬか!」

「次はこれかぁ……
 おい、この机運ぶぞー」

「だ、だめじゃ!!
 それはだめじゃ!!」

「はぁ……何ですか?
 今日中に運び出して破棄したいのですが。」

「破棄!?
 だめじゃ!!机は!
 母の大切な机じゃ!
 おい!机から手を離せ!」

なんとか机を残してもらおうと、
机を運ぶ男の手にしがみつく。

——ペシッ

男が、その手をはたく。

「いたっ!
 おい!な、何を——」

「ちっ……きたねぇ……
 色抜けが……」

「……え?……今……なんと?……」

「はぁ……机は後だ。
 手ぇ洗ってくるわ。
 あ、本も全部捨てとけよ。」

「うーっす。」

「……あっ!ほ、本もだめじゃ!
 お願いじゃ!!
 聞いてくれ!それは母をびっくりさせるのに……」

男たちはまるで声が聞こえていないかのように、次々と本を運び出す。

「待ってくれ!
 お願いじゃ……」

誰も話を聞いてくれず、
あっという間に部屋の荷物はほぼなくなり、
男たちは一息つき始めた。

「ふー、大方の荷物は出たなー。」

「昼までには終わりそうだな。
 あとはでけぇのは机か……」

「あんなの全然デカくねぇよ。
 この前なんかよぉーー」

——タッタッタ

男たちが談笑している瞬間をついて、
倉庫の外の砂利の上に乱雑に置かれた本の山に向かってしろが走る。

本の山に到着すると、目についた本を5冊程抱える。
その瞬間を男の一人が見つけ、呼び止める。

「あっ!白様!
 駄目です!返しなさい!」

——タッタッタ

呼び止める声を無視して、倉庫に走って戻る。

ーーズルッ!

「ふぎゃっ!!」

砂利で盛大に転び、
そこらに本をぶちまけたが、
後ろから走ってくる男が目について、
すぐに起き上がり、近くの数冊だけ拾って走る。

——ピシャッ!

倉庫にすっ転ぶように駆け込み、戸に鍵をかけた。

——ゴンゴンゴン!

「白様ー。
 お開けになってくださーい。」

全く感情のこもってない声を出しながら、
男たちが戸を叩く。

「いやじゃ……」

——ゴンゴン

「白様ー。」

「いやじゃ!いやじゃ!
 この部屋で我慢するから……
 これだけは……とらないでくれ……
 お願いじゃ……」

「はぁ……だめだこりゃ……」

「めんどくせぇなぁ」

「旦那様に怒られるぜ……」

——ザッザッザ

男たちの足音が遠のいて行くのが聴こえ、
擦り傷だらけになった腕で本を抱え込み、横になる。

土の付いた手で、目を軽くこすり、
滲んだ視界でなんとか取り戻した本を確認する。

「辞書と……変な画集と……何じゃろなこれ?……
 三冊……
 母上のもの……これだけしか守れんかった……
 すまぬ……母上……」


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