見出し画像

シルバーエコノミー市場はなぜ拡大するのか――需要・供給・制度の全体像

シルバーエコノミー市場の拡大については、市場規模や高齢化率を示す資料は数多くあります。しかし、「なぜ市場が拡大するのか」「高齢者のニーズと商品・サービスはどのような関係にあるのか」を一つの構造として整理した資料は意外に多くありません。そこで今回は、公開資料をもとに、シルバーエコノミー市場の全体像を需要側・供給側・制度基盤の三者の関係から一つの構造として整理しました。

世界の市場拡大の背景には長寿化の進展、健康寿命の延伸、高齢者への資産集中などがあり、こうした環境下で需要側に対して民間企業や公的機関が必要な商品・サービスを供給するのと並行して、基盤となる公的支援・制度の整備も着実に進められており、持続可能なシルバーエコノミーが実現することが期待されます。

シルバーエコノミー市場は単なる「高齢者向け市場」ではなく、消費者である高齢者の健康状態の変化に応じて需要が移り変わり、それに対応して供給を民間企業と公的制度が支える一つの経済システムとして捉えることが重要ではないでしょうか。


1.世界のシルバーエコノミー市場

ここでのシルバーエコノミー市場とは、60歳以上高齢者の生活の質、自主性、健康の向上に役立つすべての商品、サービス、発明を指し、健康とウェルネス、高齢者向け住宅、高齢者金融、支援技術、パーソナルケアサービス、健康とフィットネス、レクリエーションなどの分野を含む市場と定義されています。
 
高齢者世代は、世界で最も規模が大きく、しかも最も急速に成長している「新興マーケット」だと認識されています。世界全体の市場規模は、2026年が3.20兆ドルであり、そこからCAGR(年平均成長率)7.89%の成長を遂げ、2035年には6.35兆ドルに達すると予測されています。

2.需要側(高齢者のニーズ)の特徴

高齢者をアクティブシニア(比較的健康で活動的な世代)とフレイル・要介護層(支援や介護が必要になる世代)とに分けて考えます(図1)。

(出所)参考文献・サイトの情報をもとに、今村健二作成

(1)アクティブシニア
多くの国では高齢者世代に富が集中していて、若い世代より所得が多く、  資産もあり、消費に回す金額も大きいのが特徴です。リモート勤務やハイブリッド環境での勤務など、より柔軟な働き方オプションへの世界的な移行が進んでいることもあって、多くが仕事をしているか、最近退職した活発な高齢者です。退職後は、出費を年金、貯蓄、社会保障に依存する傾向もあります。
 
健康維持・増進に関心が高いうえ、コンピューターにも詳しく、スマートウォッチ(腕時計型のウェアラブル端末で、バイタルサイン・心拍数など日々の運動量や健康状態を記録・分析できる機器)やスマートフォンなどのデジタルデバイスを使用しているほか、遠隔医療などのオンラインサービスおよびスマートハウスなどの最新テクノロジーを積極的に取り入れています。
 
○旅行パッケージ、フィットネス制度、リフォームなど、ライフスタイルの改善を目的としたサービスや商品を購入できる経済力があります。また、幸せな退職後を過ごすための年金計画に加えて、ファイナンシャルアドバイザリーなどのサービスにも興味を持っています。
 
○健康寿命の延伸や教育水準の向上を背景に、新しい商品・サービスへの受容性も高まっています。一方で、信頼できるブランドや企業に対するロイヤルティが高く、継続利用につながりやすい特徴もあります。
 
(2)フレイル・要介護層
○ヘルスケアサービス、福祉用具、パーソナルケアを重視していて、ほとんどが、在宅介護、補助器具(車椅子、杖など)の使用、理学療法などのサービスのほか、住宅の改修や高齢者に優しいキッチン用品などのサポート製品やサービスを必要としています。
 
○既存の慢性疾患を抑制するための医療支援および病気の予防を目的とした医療サービスなどを含め、医療提供者への依存度は高くなっています。心臓モニターや転倒検知器など、健康関連テクノロジーへの需要も高まっています。
 
○医療・介護だけでなく、見守り・配食・移動・家事代行などの生活支援や社会参加を支えるサービスへの需要も高まっています。

3.供給側(商品・サービス・制度)の特徴

供給側である民間企業および公的機関は、高齢者のニーズに対応して多くの産業分野にわたって商品・サービス・制度を提供しています。例えば、健康・医療産業、介護産業、金融産業、観光・レジャー産業、ICT・デジタル産業、住宅・リフォーム産業、食品・生活用品産業などが関係しています。シルバーエコノミー市場の拡大に伴い、それぞれの更新および新規投入が継続するものと考えられます(図1)。
 
○アクティブシニアについては、健康食品・サプリメント・医薬品、ウェアラブル機器・健康管理アプリ、金融・資産運用・保険商品、旅行・レジャー・文化・趣味サービス、ヘルスケア・予防サービスなどの商品・サービスが供給されています。
 
○フレイル・要介護層については、介護サービス(訪問・通所・施設)、医療サービス(在宅医療・訪問診察)、リハビリ・機能訓練サービス、認知症対策(予防・ケア・見守り)、生活支援サービス(食事・買物・配食など)などのサービスが供給されています。

(参考文献、サイト)
・「シルバーエコノミー市場規模、シェア、成長、産業分析、タイプ別(中核年金サービス産業、柱産業、デリバティブ産業)、用途別(60~70歳、70歳以上)、2026年から2035年までの地域別洞察と予測」、
2026年6月22日、Business Research INSIGHTSホームページ(2026年7月6日閲覧)
https://www.businessresearchinsights.com/jp/market-reports/silver-economy-market-119281
 
・J. Ferraro「市場を動かすシルバーエコノミー戦略|高齢化社会を好機に」、2026年2月3日、Learning Cycle Collective: Global Voices on DEIホームページ(2026年7月6日閲覧)
https://blog-jp.learningcycle.co/2026/02/03/the-silver-economy-why-aging-populations-drive-growth/
 
・アンドリュー・スコット ロンドン・ビジネススクール経済学教授「高齢者世代はお荷物どころか、急速に成長している『新興マーケット』。求められるのは『老い方を変えるのを後押しする商品やサービス』だ」、2025年5月7日、東洋経済オンラインホームページ(2026年7月6日閲覧)
https://toyokeizai.net/articles/-/874958?page=2

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー