中国での老後生活をイメージしてみる ー シルバーエコノミー市場の成長政策
人生は100年時代と言われるなか、自分自身が65歳の高齢者となり、サラリーマンライフが終了して「老後」と呼ばれる人生の新しいステージに立ってみると、その期間が30年以上続く可能性があることに改めて驚かされます。
中国政府は、2024年1月に発表した「シルバー経済の発展と高齢者の福祉向上に関する意見 (原題:国务院办公厅关于发展银发经济增进老年人福祉的意见)」という新しい戦略によって、シルバーエコノミーを活性化させ、高齢者が充実した生活を送るための支援を展開するとしています。同意見をベースに中国シルバーエコノミー市場の成長政策をまとめたものが図1です。

1. 中国での老後生活のイメージ
今回は、政府の政策が進展している中国での老後生活をイメージしてみましょう。本ケースは、中国の都市部で比較的高い年金を受給している高齢者を想定したモデルケースで、「住宅小区」と呼ばれる大規模な集合住宅地域に暮らす、78歳の元公務員としています。
彼の典型的な1日は、朝食を済ませると住宅小区内を散歩します。昼は近所で昼食をとり、午後は国家老年大学(高齢者向けの教育機関)で文学講座を受講します。夕食はスマートフォンで高齢者向けデリバリーサービスに注文をします。夜はラジオ・映画・音楽・ショートビデオなどを楽しんでいます。
収入は月1万元の年金が主ですが、これは都市部在住の高齢退職者の年金平均である月約3,000元を大きく上回っています。自分自身の快適で健康な生活のために、多少高価でも必要な商品・サービスを購入できます。例えば、大きな病気はありませんが、血糖値が気になるので、それを下げるための8,000元の栄養講座に参加したほか、1,200元の靴も購入しました。
病気に対しては、総合病院や漢方医学病院、リハビリ病院などの高齢者医療施設が充実していますし、予防と治療のレベルも向上しています。在宅でもリハビリサービスが受けられます。
老後生活において重要な存在がコミュニティ(原文「社区」)です。これは、居住している住宅小区を含む地域生活圏を指し、住民自治だけでなく、高齢者の健康管理や介護、見守りなどの生活支援機能も担う拠点となっています。日本には完全に同じ仕組みはありませんが、自治会、地域包括支援センター、コミュニティセンターなどを組み合わせたようなイメージです。
介護を含む高齢者施設は、地方政府の補助金制度のおかげで建設や改修が促進され、ベッド数も増え、認知症向けの専用エリアも設置されています。また、医療機関と高齢者施設は隣接していて、在宅・コミュニティ・施設間の連携メカニズムが確立しています。
コミュニティには、高齢者に便利なように日用商品店が近くにありますし、スマート宅配ボックスもあり、野菜直販車も回ってきます。また、相談窓口も開設されています。
今は日常生活に不自由はありませんが、何年かして要支援になったら、コミュニティでの入浴拠点や、移動入浴車、訪問入浴などのサービスを受けることができます。
2. 供給側産業の発展で高齢者の社会・生活環境が充実
中国では、政府の政策により供給側産業が新たな発展をみせ、高齢者の社会・生活環境が充実していくでしょう。まず、国有企業がリーダーシップを発揮して、シルバーエコノミー関連事業を展開していきます。民間企業も活躍し、政府とのコミュニケーションを円滑にし、政策、資金、情報の流れもスムーズになります。様々なイベントやプラットフォームを活用して、リーダー企業が育ち、自主ブランドが広く浸透していきます。
高齢者の多様なニーズに応えるために発展すると見込まれる新たな産業を挙げます。
生活用品
・服、靴、帽子などのデザインや機能が向上。日用品や娯楽用品などの高品質な製品
健康・医療・リハビリ
・健康食品や医学用途調整食品。リハビリテーション補助具のアップグレード、認知障害やリハビリ訓練などの生活補助製品の供給増。バイオテクノロジーを活用したアンチエイジング・老化制御関連の製品・サービス
スマートヘルスケア
・在宅・コミュニティ・施設での高齢者ケア向上のためのスマートデバイス。例えば、看護ロボット、家庭サービスロボット、認知症老人徘徊感知機器など。
保険商品
・高齢者向けの保険商品開発および健康や介護などのサービスとの連携促進
観光
・サービス施設の充実、家族旅行商品の開発および高齢者向け観光の多様な楽しみ方の普及
バリアフリー
・公共スペースや住宅での建設・改造。古い住宅地へのエレベーターの追加やスマート安全監視装置の導入
3. まとめ
これまで見てきたように、将来的には、増え続ける高齢者をターゲットにした産業振興が進み、高齢者の社会・生活環境は充実し、高齢者はできるだけ長く健康を維持するとともに、必要な介護を安心して受けられるようになることが期待されています。
巨大な高齢消費者層の存在を背景に、高齢者向け消費市場は相当規模にまで拡大する可能性があり、企業による新たな商品・サービスの投入もさらに活発になると予想されます。とはいえ、すべての高齢者が十分な資産を有しているわけではなく、年金額にも格差があります。そのため、高齢者の消費だけで経済全体を力強く押し上げるまでには至らない可能性を指摘するエコノミストもいます。
中国では産官学一体となってシルバーエコノミー市場の成長に力を注いでいますので、中国が描くシルバーエコノミーの未来像は、日本の超高齢社会を考える上でも、多くの示唆を与えてくれます。中国では、高齢化を「社会保障の課題」としてだけではなく、「新しい産業を生み出す成長分野」としても捉えています。そんな状況のもとで、日本企業がどのような分野で存在感を示すことができるのか、今後の研究課題としていきたいと思います。
(参考文献、サイト)
・Sophie Yu, Farah Master「アングル:中国、高齢者市場に活路 「シルバー経済」の企業参入促す」、2025年8月30日、Reutersホームページ(2026年7月14日閲覧)
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/S4QM2YI2TVP3VOU3MBWVSEOAAA-2025-08-28/
・「高齢化社会への対応を強化、シルバー経済に新たな活路」、2024年2月、独立行政法人労働政策研究・研修機構ホームページ(2026年7月14日閲覧)
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2024/02/china_01.html
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