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エンタープライズ領域におけるカスタマーサクセス構想

こんにちは。IVRyでVP of Customer SuccessとMid Market領域の事業責任者を務めている山田です。
今回はCSの責任者として向き合い始めた"エンタープライズ領域のCS"(EP CS)について現時点で持つ情報をフル活用して構想を整理します。

IVRyでは2024年末のChief Sales Officer 田井のJOINを皮切りに、エンタープライズ企業に向けたサービス提供を一段ギアを上げて取り組み始めています。

今の感触としては従来のCS組織の延長線上にEP CSを創り上げるアプローチというよりは、エンタープライズという特殊性を鑑みて全く新しい構想を描いていく必要があると感じています。

本記事をより有意義にお読みいただくために、先日公開されたVP of SalesStrategy 伊藤の記事も併せてご覧いただけると幸いです。


EP CSの意義


EP CSは、単にSmall Business(SB)やMid Market(MM)に向けたCSの規模を大きくしたものではなく、複雑なB2B SaaS環境における長期的な収益成長、競争優位性の確立に不可欠な戦略的機能と捉えています。その核心は顧客のビジネス価値を能動的に創造し、戦略的パートナーシップを構築することへの転換にあります。

CSの基本理念は、顧客がプロダクトを利用して望む成果を獲得できるようプロアクティブに支援する活動です。これにより顧客のニーズと自社の提供価値を整合させ、継続的な価値実現、顧客維持と契約拡大を促進することを目指します。その実現に向けて先行指標としてのヘルススコア向上、Churn RateとExpansion Rateの改善によるNRR向上等を指標とします。
これらを効果的に実践するには人材/プロセス/データの三要素が不可欠とされています。

ことEP領域においては料金や利用期間といった契約条件や顧客組織の複雑性、長期的な戦略的パートナーシップの必要性から、CSの重要性がさらに増すものと考えています。1社あたりの解約や契約拡大が企業業績に与える財務的インパクトがSBやMMと比較して格段に大きいためです。

EP CSは顧客におけるテクノロジーの効果的な導入と活用を確実にすることで、高い契約更新率の実現と契約拡大の機会を創出し、ロイヤルクライアントへと転換させる役割を担います。また顧客の事業戦略目標と自社のビジネスにおける目標を整合させ、属人化と再現性のバランスを鑑みながら拡張性のあるオペレーションと持続可能な収益獲得を推進することが求められます。
そのためには顧客の経営層を含む多様なステークホルダーと定期接点を持ち、SaaSプロダクトや周辺ソリューションのROIを明確に示し、クライアントの高次な戦略目標との整合性を図る必要があります。

SB/MMとの本質的な違いはなにか

EP CSはオペレーション/職能や役割/組織構造など多くの面でSBやMMに向けたCSとは根本的に異なると考えています。

オペレーション上の違い

  1. ハイタッチによるエンゲージメントモデル - EP CSは顧客の複雑性と戦略的重要性の高さから、主にハイタッチで個別化されたエンゲージメントモデルを採用し、継続支援を前提とした専任CSの配置や定期的な戦略レビューを行います。一方、SB/MM CSでは、多数の顧客を効率的に管理するため、テックタッチやロータッチモデル、あるいは限定された機会におけるハイタッチモデルがしばしば用いられます。EPでは大規模顧客との信頼構築や新たな課題への臨機応変な対応が重要視されるものと考えています。

  2. 顧客ニーズとソリューションの複雑性 - EPにおいては複雑な組織構造、多層的なニーズ、入り組んだ業務プロセスを抱え、高度にカスタマイズされたソリューションやそれに付随する多くのシステム連携を必要とします。そして顧客にとっての「成功」は彼らの重要な事業成果と密接に結びつけて捉える必要があります。

  3. セールスサイクルと意思決定プロセス - EPのセールスサイクルはとても長期にわたり、多様な部門の多数のステークホルダーが関与することから複雑な意思決定プロセスを経る必要があります。

職能・役割の違い

  1. 戦略的パートナーシップの構築 - EP CSは顧客のビジネスや業界を深く理解する戦略的アドバイザーおよび信頼されるパートナーとして行動し、業務課題の改善により顧客の事業成果の達成に寄与します。多くの場合、自社プロダクトの提供範囲を超える領域において業務課題の特定やソリューションの実装を行うこととなります。SB/MM CSは効率的な価値提供や標準化されたプレイブックの活用機会が多くなり、いかにスケーラブルにサクセスの総和を増幅させるかに向き合います。

  2. 複雑性の高い業務/システムフローへの理解 - 顧客の入り組んだ業務プロセスや多様な既存システム、データ連携状況といったas-isを深くヒアリングし、分析・可視化する必要があります。その上で自社プロダクトや周辺のソリューションがどのように適合し、課題を解決できるのかを検証します。製品の標準機能だけでなくAPI連携やカスタマイズの可能性を含め、最適なソリューションを設計し顧客にto-beを提示します。技術的な質疑応答を通じて顧客の懸念を解消することも重要となり、SaaS導入による価値を明確に伝え受注確度を高めることやその後の導入を円滑に進めることにも寄与します。

  3. 導入支援、契約維持、契約拡大への注力 - EPにおいては導入支援の対象が多様な部門に渡り、数千人規模のユーザーへの展開を意味する場合が多いことから高度なプロジェクトマネジメントが要求されます。導入完了後の契約維持は継続的な事業成果の実証に強く依存し、契約拡大は新たな複雑性の高い課題の特定やユースケースの拡張を必要とします。

組織構造への影響

  1. 職能とアカウントのマトリクス構造 - EP CSチームはテクニカルアカウントマネージャーやオンボーディングスペシャリストといった深い専門知識を持つ担当者が同時に必要とされることも多く、それぞれの職能単位での組織構造を持つ一方で、ケースに応じてアカウントベースの組織構造をマトリクス的に立てる必要性があります。

  2. CS一人当たりの担当アカウント数 - ここは言わずもがな、EP CSは数億規模の大きなACVとなる少数のアカウントを担当します。重要なのは現在のACVによる差配だけでなく、収益拡大のポテンシャルやライフサイクル、顧客の複雑性等に基づき適切なチームバランスで担当比率を設定することだと考えています。EP企業が抱える多面的な課題(多数のステークホルダー、複雑なシステム環境、入り組んだビジネスプロセス、高度なカスタマイズ要求)は単純な人数増加だけでは対応できないことが多いと想像します。

グローバルの潮流と日本の現状

海外(北米・欧州)のEP CSにおける主要なトレンドの一つが、データドリブン型のスケーラブルなオペレーションです。

  • EP領域においてもデータ分析、ヘルススコア、定義されたプレイブックが活用され、CSを大規模に管理し、リスクと機会をプロアクティブに特定することに重点が置かれています。

  • 上記に付随してCSプラットフォーム(例:Gainsight、ChurnZero、Catalyst)が広く導入されており、ワークフローの自動化、顧客ライフサイクルの管理、統一された顧客状態の可視化が行われています。グローバルでは自動化と分析のための高度なCSプラットフォームの導入がより広範に見られます。その潮流を受けて日本国内でもSuccessHubやMagic SuccessといったCSプラットフォームが誕生しています。

  • CSは、特にNRR、LTV(顧客生涯価値)といった収益目標と密接に統合されています。グローバルではCSに対して当たり前に「商業的洞察力と収益責任」を持つことが期待されます。日本でも近年はこの潮流が見られると感じていますが、まだ多くの企業においては未成熟であるのではないかと想像しています。IVRyもまだこの点はチャレンジの余地が多くあります。

一方、日本のEP CSは個々の顧客ニーズに合わせた高度なカスタマイズアプローチを特徴とすることが多く、これは「おもてなし」という文化的価値観と一致する側面があると考えています。
このようなアプローチは強固な顧客関係を生む一方で、属人化を引き起こしプロセスの拡張や再現を困難にする可能性があります。EP企業におけるSaaSの導入はDXプロジェクトと見なされるケースが多く、複雑でありながら変化し続ける顧客要件に対応し、顧客自身が全体像を描くことを支援する必要が生じます。

こういった背景も踏まえて執筆したCSの生産性についてのnoteはこちら↓

IVRyのプロダクトがAIの進化により対話型音声AI SaaSへと進化し、コミュニケーションデータがAIによって解析可能になってきたことを受け、セールス組織の提案がよりビジョナリーなものに変化していると実感しています。
早いフェーズからのデータ蓄積を推奨することやAI解析による周辺オペレーションやマーケティング活動等への示唆出しといった提供価値は、CSがAIと人の橋渡しを行うだけでなくAI解析データを用いた高度なコンサルティング業務へと発展させるものと想像しています。まさにIVRyのプロダクト進化の革新性とスピード感がCSによる提供価値の機会を広げてくれていると言えます。

また、このような機会の拡大を受けて事業のスケーラビリティを担保するためにはサクセスツールの導入やデータ可視化などCS Opsによるオペレーションの磨き込みの必要性が一層増し、少ないコストで顧客のアウトカムを最大化していくことはEP領域においても当然に求められ、グローバルの潮流を念頭にそこまでの登り方を思考すべきと考えています。

EPの成功を支える広義のCS

これまでの整理を踏まえ、EP CSとは広義のCSとして役割を広く捉えていくべきと考えています。アカウントマネージャー、テクニカルアドバイザー、プロフェッショナルサービス等といった複数の機能が商談フェーズに応じてインタラクティブに連携し、セールス機能としてのアカウントエグゼクティブと共に案件を進めていくイメージを持っています。(全て仮称)
これらの機能はそれぞれ異なる専門性を持つものの、顧客の成功という共通の目標に向けて補完的に機能することができる組織を創りあげるべきだと考えています。

・アカウントマネージャー - アカウントマネージャーの業務は主にNRRに焦点を当てた活動であり、継続利用のための初手となる導入支援、継続支援、契約更新のリード、アップセル/クロスセル機会の創出といった幅広い役割を持つ必要があります。そして顧客の戦略的パートナーとして契約が続く限り伴走し続けていくことを前提としています。役割が多岐に渡ることを踏まえると、取り扱うプロダクト次第では導入支援部分のみオンボーディングスペシャリストという役割を切り出すことも必要かもしれません。IVRyでもその可能性が高いと考えています。

・テクニカルアドバイザー - イメージとしてはプリセールスに近い機能を想定しています。セールスの商談段階から業務フローやシステム連携周りの要件整理を目的として介在し、導入支援以降のフェーズにおいても想定通りの実装フォロー、課題発見とソリューション提案の初動において継続支援に入ります。複雑に構成されたシステムを紐解く深い知見によってアカウントマネージャーやプロフェッショナルサービス部隊の案件推進を高次元で支援します。

・プロフェッショナルサービス - 顧客がソフトウェアの価値を周辺業務に派生して引き出すことを支援するために、AI × データ活用といったビジネスコンサルティングを有償の人的サービスとして提供し、顧客の幅広い業務における課題解決をリードします。CSの標準的なサポート範囲を超えるものを想定しており、単にサービスとしての収益目標達成のためだけでなく、SaaS企業の事業ポートフォリオにおいてキャッシュフローを改善する役割も持ちます。結果としてSaaSプロダクトの解約を減らし、顧客の事業を深く支援することによって「ARRを最大化する」ことに寄与できるものと考えています。また効果的なプロフェッショナルサービスは、スムーズな導入支援や顧客満足度の向上にも大きく寄与するものと想定しています。

EP CSにおけるこれら複数の役割は密接に連携して機能していく必要があり、明確な引き継ぎプロセスや顧客目標の共通理解が不可欠であり、それぞれの目標設計においてはインセンティブを整合させることが重要であると考えています。
セールスも含めてそれぞれの役割の境界線が曖昧になりやすく、戦略的アカウントの商業的側面と価値的側面の両方を管理するために、より緊密な連携が必要になります。

さいごに

IVRyはマルチプロダクトの提案やAIによるデータ活用への染み出しを進めており、これらの変化は従来に増して複雑性の高い価値提供を伴うこととなり、広義のCSとしての役割整理の重要性が増している状況にあります。

現在のIVRyにおけるEP CSは本格立ち上げ直後ということもあり、役割のほとんどがオンボーディングスペシャリストに特化しているような状況です。これからスピード感を持って機能定義のブラッシュアップと人材拡充を進めていくフェーズにあり、あるべき状態の議論やそこへの登り方についても仮説検証を進めながら全員で組織を創りあげていきたいと思っています。

IVRyのCSで働く面白さについてマネージャーの佐久間と対談したnoteもぜひご一読ください。

EP CSについて少しでも興味を持っていただけましたらぜひ一度カジュアルにお話させてください!

最後までお読みいただきありがとうございました!



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