深慮と正直と福の神- 2025 F1アゼルバイジャンGPレビュー
はい、今回は前置きをすっ飛ばして本題に入ります。アゼルバイジャンGPで、角田くんがすっごくいい仕事をしてくれました!
予選では難しいコンディションのなか、Q3の最後のアタックをしっかり決めて6番手。これこれっ、これを待っていたんですよ!!
そして、決勝も同じ順位でフィニッシュしましたが、この6位には数字以上の価値がありました。
* * *
何よりも感心させられたのは、ハードタイヤを履いた最初のスティント終盤に、レースエンジニアから「ペースを上げて」と言われた角田くんが、ちゃんとコンマ5秒くらいペースアップしてみせたこと。
これができるのは、そこまでしっかりタイヤマネージメントをしながら、自分のペースをコントロールしていたからです。
それだけに、ミディアムでの第2スティントには大いに期待していました。「行け!ローソンを抜いてこい!」と、勝手に盛り上がっていたんです。でも、角田くんには、私みたいな無責任なファンよりもずっと深い考えがあったんですね。
レース後のコメントで言っていたように、リスクを冒してローソンを攻略に行くと、失敗したときにはノリスが2台を抜いて5位に上る可能性がありました。
実際、モンツァではローソンとの無用な接触があったりして、彼が忖度をしてくれる保証はありませんでした。それを考えて、自分が5位に上がることよりも、マックスの後方支援という意味で、ノリスを7位で終わらせることを優先したのでした。すばらしいチームプレイ!
* * *
意外だったのは、予選2位のサインツと3位のローソンが、それぞれ3位と5位でフィニッシュしたことです。失礼ながら、レースが始まったらレッドブル、メルセデス、マクラーレン、フェラーリの前にはとどまれないだろうと思っていたんですよ。
どうやら風向きなどの関係もあって、DRSの効果があまり大きくなかったようです。例年、バクーではホームストレートでDRSを使い、ターン1への進入で相手の前に出るというオーバーテイクが多かったのですが、今回はそのパターンがそれほどは見られませんでした。
ですから、全体に順位変動が少なく、サインツはラッセルにオーバーカットされただけ、ローソンもラッセルとアントネッリに先行を許しただけで逃げ切れたんですね。ウィリアムズもRBも、もともとストレートは速いクルマですし。
* * *
レース戦略によるポジションの変動も、あまりありませんでしたね。事実上、戦略がワンストップ一択でバリエーションに乏しかったのは、タイヤのデグラデーションが小さかったからです。
最後尾からスタートしたオコンなどは、ハードでスタートしたあと1周でミディアムに履き替え、さらにSC中にハードに戻して、そのままフィニッシュまで49周を走っています。
つまり、2種類のコンパウンドの使用を義務付けるルールさえなければ、みんなハードでノンストップで行けたわけですよ。その意味では、今回のタイヤはちょっと耐久性が高すぎた。
周回数を重ねてもタイヤの性能が落ちないというのは、本当ならタイヤメーカーさんを褒めるべきことなんですけどね。ことF1に限っては、ショーアップという観点から、ある程度走ると明確にグリップダウンするタイヤが求められます。
* * *
角田くんのパフォーマンスから見ても、レッドブルの復調は、どうやらホンモノっぽいですね。フェルスタッペンも自信をもって乗れるセットアップになったと言っていて、実際にポールを獲り、レースもブッチギリで勝ってしまいました。
ただ、このモンツァとバクーの2連勝は、いずれも舞台がやや特殊なサーキットでした。ですから、この勢いで最後までイケると思うのは、ちょっと気が早いかもしれません。
次のシンガポールは、これまた独特の市街地コースです。なので、そのまた次のアメリカGPで、フェルスタッペンが再び優勝を争えるようなら、終盤戦は大いに期待できそうな気がします。
そして、本当にクルマが良くなったのであれば、角田くんもさらなる好成績を狙えるはずです。そうなるとポディウムだって夢じゃない!
* * *
予選で運に恵まれた部分はあるにせよ、サインツはしっかり3位という結果を持ち帰りました。ヒュルケンベルグの初表彰台のインパクトには一歩譲るとしても、長く低迷が続いたウィリアムズでのポディウムですよ。本当にいい仕事をしました。
そして、ジェームズ・バウルスが率いる新体制では初のトップ3ですから、みんなうれしそうでしたね。
ウィリアムズのドライバーとしてポディウムの中央に立ったのは、いまのところ2012年のパストール・マルドナドが最後です。「ええっ、マルドナド、まさかこのまま勝っちゃうの?」と思いながら見ていたのを、いまだによく憶えています。
ついでに言うと、このレースを終えた日曜の夕方、バルセロナのウィリアムズのガレージは火災に見舞われたのでした。そして、翌週のモナコGPには、他のチームからいろいろな機材を借りて、どうにか出場できたという助け合いの美談もありました。
サインツくんはレッドブルの傘下を離れたあと、ルノー、マクラーレン、フェラーリと移籍先が必ず前年を上回る成績をあげるという、F1界の福の神として崇められているとか、いないとか。どうやらウィリアムズでも同様の結果を残しそうです。
* * *
話が前後しますが、予選は本当に大波乱でした。赤旗6回なんて前代未聞です。しかも、ピアストリやルクレールのようなトップドライバーがQ3でクラッシュするなんて、なかなかないことですよ。
ここ一番というところで、ちょろっと雨が降ったのが決定的でしたね。それゆえにサインツとローソンは、序盤に出したタイムで上位に残ることができました。
ただ、空から雨粒が落ちたのは、ほんの一瞬でした。フェルスタッペンがポール、角田くんも6位に入ったのは、良いタイミングで彼らを最後のアタックに送り出したレッドブル陣営のファインプレーだったと思います。ふたりとも、チェッカーが出た後にフィニッシュラインを通過していて、雨の影響を最小にとどめたからです。
今回も予選ではソフト(C6)を嫌って、ミディアムでタイムを出したドライバーが何人もいました。この「C6、使いづらいねん問題」については、過去記事「ピレリさんの宿題」にも書きましたので、ぜひそちらもご覧くださいませ。https://note.com/kenjimizugaki/n/nbe8944f525f0
* * *
レッドブル勢とは対象的に、ノリスは予選の最後のアタックに出たタイミングが悪く、7番手に終わりました。ちょうど雨がパラパラと来たところでしたからね。
ノリスくんは、決勝でも1周目にいくつか順位を失ったうえに、2戦連続でピットストップでタイムロスという不運の連鎖。スタート前にはサインツ、ローソン、角田は抜けるから、最悪でも4位と計算していたんじゃないかな。だとすれば、決勝7位という結果には、かなりガックリきているはず。
まあ、それにしても、ピアストリはどうしちゃったんでしょう。予選でのクラッシュもビックリしましたが、決勝でのジャンプスタートは本当に凡ミスとしか言いようがありません。しかも、自分のありえない失敗にパニクったのか、1周目にまたしてもクラッシュして戦列を去りました。ザ・セルフダメ押し、ってやつですね。
ピアストリはあの予選での失敗で、いよいよホンモノのプレッシャーを感じ始めたのかもしれません。この経験から学んで、持ち前の冷静さを取り戻してくれればいいんですけど。
自分ではプレッシャーなんて感じていないつもりでも、いつもは普通にできていたことを、なぜか不意に失敗したりする。それがプレッシャーというものですからね。
* * *
グリッドがピアストリのすぐ後ろだったアロンソも、同様にジャンプスタートで5秒のペナルティを食いました。チームからそれを無線で知らされたとき、「ピアストリにつられて動いちゃった。ごめん」と正直に言っていたのには、ちょっと笑っちゃいました。
やっぱりね、優れた人は自分の失敗を率直に認めて、ごめんねって言えるものなんですよ。明らかにやらかしていながら、「謝ったら死ぬ」とでも思っているのか、屁理屈を捏ねて逃げ切ろうとする人も世の中にはいますけど、フェルナンド師匠を見習ってほしいですね。
* * *
予選でも決勝でも地味に速かったのが、メルセデスのラッセルとアントネッリでした。サインツやローソンが上位に来たこともあり、メルセデスはあんまり話題にならなかったので、正直言って「あ、いたんだ」みたいな印象でした。
でもね、よくよく考えてみれば、今回はタイヤの温度が上がりがちな高速コーナーがないコースで、しかも路面温度も低めという、メルセデスにとっては好条件が揃っていました。そう、彼らが揃ってポディウムに上がった、あのカナダGPと似たコンディションだったのですよ。
実際、ふたりともレースペースがよくて、それぞれ予選順位より上のポジションでレースを終えています。決してペースは悪くなかった角田くんも、タイヤ戦略が同じだったラッセルにはジワジワと離され、逆の戦略を採ったアントネッリにはアンダーカットされてしまいました。
* * *
フェラーリ勢にも触れておきましょう。今回はFP2でワンツーだったので、ちょっと期待すると同時に、「イタリアGPと同じパターンか…」とイヤな予感もしました。結局、その予感が当たってしまいましたね。
昨年まで4年連続ポールだったルクレールは、Q3でクラッシュして10番手グリッドからのスタート。ハミルトンはQ2落ちの予選12位から挽回して、レース結果は8位でしたが、これは9位のはずでした。
ハミルトンは終盤にミディアムを履き、ペースが良かったので、チームの指示でルクレールと順位を入れ替えてノリスを追いました。
しかし、結局抜くことができなかったハミルトンは、ルクレールにポジションを返すつもりで、コントロールラインの手前で大きく減速します。ところが、そのタイミングが遅すぎてルクレールは追いつけず、ハミルトンが先にフィニッシュしてしまったんですね。
ターン16の立ち上がりとか、もう少し手前でやらせればいいのに、指示が遅れて失敗するあたり、いかにもフェラーリっぽい感じでした。もし今回のフジテレビの解説が浜島さんだったら、「だって、フェラーリですから」と冷たく言われていたに違いありません。
* * *
マクラーレンのコンストラクターズ選手権獲得は、アゼルバイジャンで決まるものと誰もが思っていましたが、まさかの先送りになりました。さすがにこれは次のシンガポールで確定するでしょう。
でも、マクラーレンもお祝いのパーティの用意とかはしていたでしょうね。会場やケータリングのキャンセルとか、いろいろ大変だったんじゃないかな……。
一方、ドライバーズ選手権については、フェルスタッペンの2連勝でガゼン面白くなってきました。ことによると、マックスがノリスとピアストリの争いに割って入る可能性が出てきましたからね。
そして、角田くんにはまた上位を走ってマクラーレン勢からポイントを奪い、マックスをサポートしつつ、自身の結果も残してほしいですね。そうしてコツコツとチームに貢献していれば、きっと明るい未来が開けてくるはずです。
2025年9月26日
