弱り目に祟り目の幸運 - 2025 F1サンパウロGPレビュー
15年前の2010年、当時まだブラジルGPだったこのレースの予選で、ヒュルケンベルグがポールポジションを獲りました。これは彼がデビューシーズンに記録した初ポールで、いまのところキャリアを通じて唯一のポールです。
このときの予選はウェットから徐々に乾いていく路面での戦いでした。今年のイギリスGPでのキャリア初表彰台も雨絡みでしたし、ヒュルケンベルグは雨で鼻が濡れると、何か人智を超えた特別な嗅覚がはたらくのかもしれません。
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しかし、その背景には、もうひとつ重要なファクターがありました。あの年、ウイリアムズに乗ったヒュルケンベルグのチームメイトは、ブラジルのベテランで、実家がインテルラゴス・サーキットのすぐ近くだったというルーベンス・バリチェロでした。
Q3の終盤には路面の水量が減り、誰もがインターからスリックに交換するタイミングを見計らっていました。そのとき、バリチェロが「もうスリックだ!」と言ってきたのを聞いて、チームはヒュルケンベルグにスリックを履かせ、それが大正解だったのだそうです。当初、ニコ本人は「まだ無理だと思う」と消極的だったらしいんですけどね。
他にもスリックでコースに出たドライバーは何人もいるなかで、ヒュルケンベルグは大きなミスをせずにタイムを刻みました。これはもちろん本人の能力が優れていたからです。
でも、インテルラゴスを知り尽くしたルーベンス先輩の助言があったからこそ獲れたポール、という側面があったのは間違いありません。やはりF1はチームスポーツなんですよ。
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時は流れて2025年。同じインテルラゴスで開かれたサンパウロGPで、ノリスはスプリント予選、スプリント、予選(Q1からQ3まで)、グランプリをすべて首位で終えるという完全勝利を果たしました。
自信を持ったドライバーがセットアップの決まったクルマで先頭を走ると、もう誰も追いつけないという、最近ありがちなパターンです。
メキシコシティGPのレビューでも述べたように、この「クリーンエアで走れるレースリーダーが有利になりすぎ」問題は、近年のF1のよろしくない点のひとつですね。来年からの新テクニカルレギュレーションで、少しは改善されてほしいと切に願います。
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一方、ノリスとドライバーズ選手権を争うピアストリは、あいかわらず精彩を欠いていました。
まあ、まだ3年生の彼と、F1で7年目(それもずっと同じチームで)のノリスを比べたら、地力の差があるのは当然なんですけどね。ここまで来てみると、終盤近くまでピアストリがタイトルレースをリードしてきたのは、やはり序盤にノリスがつまずいた結果だったかと思わざるをえません。
ピアストリはドライビングが冴えないだけでなく、アゼルバイジャン以降は運にも見放されっぱなしです。
特にスプリントでのクラッシュは、本当にアンラッキーでした。だって、そもそも縁石に溜まっていた水を踏んだのはノリスだったのに、当の本人は無事に通過して、あとから来たチームメイトが滑ってクラッシュですから。
もしピアストリが、アントネッリに続いてノリスの背後につけていれば、水が出たのが見えてクラッシュは避けられたでしょう。あるいは、逆にもうちょっと遅れていれば、ターン1を曲がったあたりで黄旗が出ていたはずです。そう考えると、運がなかったとしか言いようがありません。
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そして、グランプリの決勝では、アントネッリとの接触で10秒ペナルティですよ。まさに弱り目に祟り目です。
あのペナルティについては、他のドライバーから「アントネッリにも責任がある」との声が上がりました。しかし、現在のドライビング・スタンダード・ガイドラインでは、あの位置関係で接触した場合、ピアストリにはあのコーナーの「権利」がない、つまりアントネッリに譲らねばならないという判定になるのは仕方がないでしょう。
逆に言うと、ピアストリが中途半端に引かずに、前輪がアントネッリのミラーより前に出ている状態でターン1に入れば、ペナルティを食うことはなかったわけですよね。バクー以降にピアストリがしばしば見せる、なんだか思い切りの悪い走りが裏目に出た、とも言えるかと。
たらればですけど、あのペナルティが逆にアントネッリの方についていたら、ピアストリは2位でフィニッシュできた可能性が高いと思います。それはつまり、フェルスタッペンの前でレースを終えられたことを意味し、そうなればタイトル争いの状況も少しは違っていたでしょう。
ただ、接触でクルマのどこかが壊れたり、最悪の事態としてリタイアを喫したりせずにすんだのは、まだちょっとだけ幸運だったとも言えますね。それでも不運との差引勘定は、真っ赤っかの赤字ですけど。
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あのインシデントで割りを食ったのがルクレールでした。イノセント・ビクティム以外のなにものでもありません。ピアストリに弾かれて飛んできたアントネッリに、左フロントを破壊されてリタイアですから。せっかく予選で3番手につけて、上位フィニッシュを狙えそうだったのに。お気の毒です。
ハミルトンも踏んだり蹴ったりでした。というか、あのコラピントとの接触は、「そんなところで、何やってんの!」と言われても仕方がありません。で、ダメージを負った上にペナルティを食うという、まさに負の連鎖。
結局、フェラーリ勢は2台ともリタイアに終わり、メルセデスとのコンストラクターズ選手権2位争いは、このレースでアントネッリとラッセルが2位、4位に入ったこともあって、もはや絶望的な感じです。
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それにしても、アントネッリはいい仕事をしました。スプリント予選、スプリント、予選、決勝とすべて2位ですよ。ラッセル先輩を含めて、ノリス以外の全員に勝ったことになります。
特に終盤のフェルスタッペンの追撃から、2位の座を守り抜いたドライブはお見事でした。正直なところ、たぶん抜かれるだろうと思って見てました。アントネッリ様、たいへん失礼いたしました。
もうひとつ言えば、ピアストリにもルクレールにも結構強めに当たりながら、クルマにダメージがなかったのはラッキーでしたね。なぜか幸運の女神に気に入られていることも、スターの資質のひとつです。
彼がインテルラゴスを走るのは、この週末が初めてだったそうです。まあ、19歳くらいだとまだ怖いもの知らずというか、プレッシャーよりも初めてのサーキットが楽しくてしょうがない感じが勝るのでしょうか。若いっていいな。
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フェルスタッペンのピットレーンスタートからの3位フィニッシュは驚異的でした。昨年の17番手グリッドから優勝があるので、あんまりスゴくないように感じちゃうかもしれません。でも、今回は雨も降らないフツーのレースで、赤旗のタイミングで運に恵まれることもありませんでした。しかも、マックスはパンクのため、序盤に1回余計にピットストップしていますからね。
まあ、とにかくペースが速かった。フジテレビの中継はで松田次生さんも言っていましたが、彼は実質的な最終コーナーであるターン12の立ち上がりが上手で、インの縁石を使ってうまくクルマの向きを変えながら、アウトの縁石はあまり深く踏まずに効率良く立ち上がってくるんですよね。
だから、前のクルマに対してDRSを使えれば、ターン1までに確実にオーバーテイクが決まっちゃう。フェルスタッペンがトラフィックをかき分けて、どんどん順位を上げてくることができた理由のひとつは、そこにあったと思います。
もうひとつの驚きは、スプリントで精彩を欠き、さらに予選では完全にドツボにはまったにもかかわらず、セットアップの見直しで決勝では見事に立ち直ったことです。その点ではチームがいい仕事をしました。
スプリントのあと、予選に向けて施したセットアップ変更が大ハズレで、マックスはまさかのQ1落ちの憂き目を見ました。しかし、その失敗があったからこそ、日曜に向けてもういちどセットアップをやり直し、今度は見事に成功させたわけですよね。失敗は成功のマザーです。
フェルスタッペンは終盤にタイヤ交換をせずに、あのままがんばれば勝てたんじゃないかという話もあります。しかし、ソフトに交換する前のミディアムはデグラデーションが大きく、それはラップタイムの推移にもはっきりと現れていたそうです。
ですからチームとしては、今回は確実に2位か3位を取ろうとしたのだと思います。まだドライバーズタイトル防衛をあきらめていないからこそ、優勝か、さもなければタイヤが終わって大きく順位を下げるかのギャンブルは避けたのでしょう。
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ギャンブルと言えば、角田くんのレース戦略はいったい何だったんでしょう。2周目終わりにピットに入って、ハードからミディアムに交換するというのは、たぶん何かのギャンブルなのでしょうが、何を賭けて何を獲ろうとしているのかよくわからない。
しかも、17番手グリッドからスタートした角田くんは、前の方のゴチャゴチャに乗じて14位まで浮上していたのに、あのピットストップでその幸運なゲインも吐き出しています。2周くらいではタイヤのオフセットができるわけでもなく、もうしばらく様子を見てもよかったんじゃないのかな……。
最初の10秒ペナルティについては、前にいたアルピーヌに追突しそうになり、反射的にインに避けたら、そこにストロールがいてヒットしちゃった、というふうに見えました。あれは不運と言えば不運でしたね。
ところが、2回目のストップでその10秒ペナルティを消化しようとしたところ、左リアタイヤの担当メカニックがすぐに作業を始めてしまうというお粗末。ペナルティを正しく消化できず、また10秒のペナルティを科されて、角田くんのレースは事実上終わってしまいました。
レッドブルのチームクルーのみなさん、角田くんにまともなレースをさせてやってくださいな。お願いしますよ、マジで。
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スプリントではあまり目立ちませんでしたが、予選以降はレーシングブルズのふたりがいいところにつけていました。予選はハジャーが5位、ローソンが7位。決勝はローソンが7位、ハジャーが8位でダブルポイント獲得です。
ローソンは1ストップの戦略をうまく機能させました。終盤はさすがにペースが苦しくなって、14位のアロンソまで続く大渋滞(フィニッシュ時点で全員がそれぞれ1秒以内の差!)を引っぱりながら、どうにか7位を守り切りました。フェルナンド先輩のお株を奪う「ローソントレイン」でした。
しびれを切らしたハジャーが、最終ラップのターン1でローソンに仕掛けて、あわや同士討ちかという場面もありましたが、ふたりとも無事にフィニッシュできました。ハジャーくん、やらかさなくてよかった。
ローソンの他には、ヒュルケンベルグも1ストップの戦略を採り、こちらも9位でポイントを持ち帰っています。角田くんも、今回はフツーに1ストップでよかったんじゃないでしょうか。
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金曜のプラクティス中に、ガスリーは無線で「なぜだかわからないけど、クルマがすっごく元気」と言っていました。それを聞いてちょっと笑っちゃったんですが、その「元気」は日曜まで続き、スプリントは8位で1ポイントゲット、予選もQ3まで残り、レースは10位でポイントフィニッシュでした。
「よくまあ、あのクルマで」と言ってはチームの方々に失礼ですけど、今季後半のアルピーヌは、ダメなときはとことんダメですからね。
そして、話があとさきになりましたが、ベアマンの6位も称賛に値します。彼の場合は、ローソンが後続を抑えてくれて、最終的には20秒以上のギャップができていたので、余裕を持って逃げ切れたところもあったかと。
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次のラスベガスからの3連戦で、2025年シーズンもフィナーレを迎えます。ドライバーズタイトル争いは、じわじわとノリスの優位が鮮明になってきました。そして、ポイントリーダーの座から滑り落ちたピアストリには、このところの逆境を跳ね返してくれそうな力強さが感じられません。
フェルスタッペンの追い上げのペースも驚異的ではありますが、ノリスが着実に上位でフィニッシュし続ける限り、逆転は難しいように思えます。マクラーレンはラスベガスのコースをあまり得意としていないとはいえ、残りのカタールとアブダビでは遅くはないでしょうから。
あと、レッドブルのみなさんに、重ねてのお願いです。角田くんをわけのわからないレース戦略で走らせるのはお控えください。ご協力お願い申し上げますよ、ホントにもう。
2025年11月24日
