RWAとは何か
なぜ“現実資産のトークン化”は金融市場の配管に入るのか
RWAという言葉を聞くと、多くの人はまず「現実の資産をブロックチェーンに載せること」を想像するかもしれません。不動産をトークン化する。国債をトークン化する。社債やファンドをトークン化する。あるいは、これまで一部の投資家しか買えなかった資産を、小口化して誰でも買えるようにする話だと思うかもしれません。
しかし、決済インフラの観点から見ると、RWAは単なる投資商品のデジタル化ではありません。
RWAとは、Real World Assets、つまり現実世界の資産、またはその資産に対する権利・請求権を、デジタルなトークンとして表現するものです。対象になるのは、米国債、社債、投資信託、MMF、不動産、売掛債権、プライベートクレジット、コモディティ、カーボンクレジットなどです。
ただし、ここで最も重要なのは、トークンそのものではありません。
本当の問いは、そのトークンが、何に対する権利を表し、誰が保管し、誰が償還し、どの台帳で移転し、どの決済資産で支払われ、どの法制度で守られるのかです。
この問いを持つと、RWAのニュースはかなり違って見えてきます。
「国債をトークン化した」という話は、単なるデジタル証券の話ではありません。安全資産を、担保・証拠金・資金管理に使いやすくする話です。
「不動産をトークン化する」という話は、単なる小口投資の話ではありません。流動性の低い資産に、どこまで市場性を与えられるのかという話です。
「トークン化ファンドが伸びている」という話は、暗号資産市場の新商品ではありません。資産運用、カストディ、移転代理人、証券規制、決済資産が接続し直される話です。
「RWAがDeFiに入る」という話は、オンチェーン利回りの話だけではありません。オフチェーンの法的権利を、オンチェーンの担保や決済にどう接続するかという話です。
この記事は、RWAに投資するための記事ではありません。RWAを、決済インフラ・資本市場・担保管理・カストディ・tokenisationの交差点として理解するための基礎地図です。
難しいブロックチェーン技術を暗記する必要はありません。まず必要なのは、RWAを「現実資産をトークンにすること」としてだけではなく、現実資産に対する権利を、デジタルな金融インフラの中でどう使えるようにするかという制度設計として見ることです。
1.RWAとは、現実資産そのものではなく「権利のデジタル表現」である
まず、RWAという言葉から整理します。
RWAは、Real World Assetsの略です。直訳すれば「現実世界の資産」です。暗号資産やネイティブトークンのようにブロックチェーン上で生まれた資産ではなく、オフチェーンに存在する資産を指します。
たとえば、米国債。
社債。
不動産。
投資信託。
マネーマーケットファンド。
売掛債権。
プライベートクレジット。
金やコモディティ。
カーボンクレジット。
これらは、もともとブロックチェーンの外に存在しています。RWA tokenisationとは、こうした現実資産そのもの、またはそれに対する権利・請求権・持分を、デジタルなトークンとして表現し、移転や管理をしやすくする試みです。
ここで注意すべきなのは、トークンは資産そのものではないということです。
トークン化された不動産トークンを持っているからといって、その建物の一部を物理的に切り取って持っているわけではありません。トークン化された国債ファンドを持っているからといって、必ずしも国債そのものを直接保有しているわけではありません。多くの場合、トークンは、ファンド持分、受益権、証券、債権、請求権、またはそれに類する法的な権利を表します。
つまり、RWAで最も大事なのは、ブロックチェーン上のトークンではなく、その裏にある法的関係です。
そのトークンは、何を表しているのか。
所有権なのか。
債権なのか。
ファンド持分なのか。
証券なのか。
単なる利用権なのか。
誰に対して請求できるのか。
発行体が破綻したらどうなるのか。
これを見ないまま「現実資産がトークン化された」と言っても、ほとんど意味がありません。
RWAとは、現実資産を魔法のようにデジタル化することではありません。
オフチェーンの権利を、オンチェーンまたはデジタル台帳上で扱えるようにすることです。
この違いが、RWAを理解する第一歩です。
2.なぜRWAが注目されるのか
では、なぜRWAが注目されているのでしょうか。
理由は一つではありません。大きく見ると、主な理由は五つあります。
第一に、金融資産の移転を効率化できる可能性です。
伝統的な証券やファンドの取引では、多くの仲介者が関わります。証券会社、カストディアン、清算機関、決済機関、移転代理人、名義管理、照合、決済、コーポレートアクション。これらは安全性を支える一方で、時間とコストもかかります。
トークン化によって、資産の発行、保有、移転、償還、権利管理を同じデジタル台帳上で扱いやすくなれば、運用負荷を下げられる可能性があります。
第二に、24時間・グローバルに移転しやすい資産を作れる可能性です。
伝統的な金融市場には取引時間があります。決済日があります。休日があります。国ごとのインフラがあります。一方、ブロックチェーンや分散台帳を使えば、技術的にはより長い時間帯で資産移転を処理できます。もちろん、実際には規制、カストディ、決済資産、投資家制限があるため、完全に自由に動くわけではありません。それでも、従来の金融資産より柔軟な移転可能性を持ちうる点は重要です。
第三に、小口化とアクセス拡大です。
不動産、プライベートクレジット、ファンド、債券などは、最低投資額が大きく、投資家が限られやすい資産です。トークン化によって小口化できれば、より多くの投資家がアクセスできる可能性があります。ただし、ここにも注意が必要です。小口化できることと、誰でも安全に投資できることは別です。証券規制、適合性、流動性、情報開示、販売責任が必要です。
第四に、担保や証拠金として使いやすくなる可能性です。
金融市場では、資産は保有するだけでなく、担保として使われます。デリバティブ取引、レポ取引、証拠金取引、清算機関、プライムブローカレッジ。こうした市場では、担保が取引を可能にします。トークン化国債やトークン化MMFが注目されるのは、単に利回り商品としてだけではなく、デジタル資産市場で担保として使える可能性があるからです。
第五に、オンチェーン金融と伝統的金融の接続です。
暗号資産市場やDeFiでは、オンチェーン上で資産が移転し、担保化され、流動性プールに入ります。一方、伝統的金融の資産は、銀行や証券保管振替機関、カストディアンの世界で管理されています。RWAは、この二つの世界を接続する試みです。
つまり、RWAが注目されるのは、「現実資産をブロックチェーンに載せると面白い」からではありません。
金融資産の発行、保有、移転、担保化、決済、償還を、よりプログラム可能な形に変える可能性があるからです。
3.RWAは、なぜ国債・MMFから実用化しやすいのか
RWAと聞くと、不動産やプライベート資産の小口化を想像しがちです。もちろん、それも重要なテーマです。しかし、金融市場インフラとして見ると、最初に実用化しやすいのは、むしろ国債や短期金融資産です。
なぜでしょうか。
第一に、価値評価がしやすいからです。
国債、とくに短期国債は価格評価が比較的しやすい資産です。流動性が高く、市場価格があり、信用リスクも相対的に低い。不動産やプライベートクレジットのように、評価が難しく、売却にも時間がかかる資産より、デジタルな担保や決済周辺資産として扱いやすい。
第二に、担保として受け入れられやすいからです。
金融市場では、国債は担保として強い地位を持っています。安全で、流動性があり、受け手が価値を理解しやすい。トークン化された国債や短期国債ファンドは、この性質をデジタル資産市場へ持ち込むことができます。
第三に、利回りがあるからです。
stablecoinは便利なデジタル決済単位ですが、多くの場合、保有者に準備資産の利息が直接支払われるわけではありません。一方、トークン化された短期国債ファンドやMMFは、利回りを得る設計にしやすい。デジタル資産市場で、待機資金や担保を利回り付きで持ちたいという需要があります。
第四に、機関投資家が理解しやすいからです。
国債、MMF、ファンド持分は、伝統的金融の言語で説明しやすい資産です。リスク管理、会計、カストディ、規制、内部承認の面でも、不動産トークンや独自トークンより理解されやすい。機関投資家がRWAに入るなら、最初はこうした資産から始まりやすい。
第五に、決済・担保・清算と接続しやすいからです。
RWAが本当に金融市場の配管に入るには、保有されるだけでは足りません。担保として差し入れられる。証拠金として認められる。清算や決済に使われる。流動性管理に組み込まれる。短期国債系RWAは、まさにこの用途に近い位置にあります。
つまり、RWAの実用化は、派手な資産からではなく、最も担保として使いやすい資産から進む可能性が高いのです。
不動産を小口化する話は分かりやすい。
しかし、金融市場を本当に変えるのは、国債やMMFのような地味な資産かもしれません。
4.RWAとstablecoinは何が違うのか
RWAとstablecoinは、どちらもブロックチェーン上で動くデジタル資産として語られます。しかし、両者は役割が違います。
stablecoinは、多くの場合、米ドルなどの法定通貨に価値を連動させるよう設計されたデジタルな支払い単位です。主な役割は、支払い、待機資金、決済、送金、オンチェーン取引の基準単位です。
一方、RWAは、現実資産またはその権利をトークンとして表現するものです。対象は国債、社債、ファンド、不動産、債権などです。主な役割は、投資、担保、証券化、資産管理、権利移転です。
つまり、stablecoinは「お金」に近い。
RWAは「資産」に近い。
ただし、stablecoinも発行体への請求権を表すデジタル資産として見ることができるため、分類上は重なる部分があります。ここでは、決済単位としてのstablecoinと、投資・担保対象としてのRWAを、機能面から分けて考えます。
もちろん、境界は完全に固定されているわけではありません。トークン化MMFやトークン化短期国債ファンドは、支払い単位というより投資商品ですが、デジタル資産市場では待機資金や担保として使われる可能性があります。stablecoinは決済単位として使われますが、その裏側には準備資産があります。
それでも、基本的な役割は分けて考えるべきです。
stablecoinは、デジタル空間で支払うためのお金。
RWAは、デジタル空間で保有・移転・担保化するための資産。
この違いを押さえると、将来のデジタル金融市場の構造が見えやすくなります。
たとえば、AIエージェントがAPIに支払うならstablecoinが使われるかもしれません。
デジタル資産取引所で証拠金を置くなら、トークン化国債ファンドが使われるかもしれません。
オンチェーン証券を売買するなら、決済資産としてstablecoin、tokenised deposits、CBDCが使われ、投資対象としてRWAが使われるかもしれません。
つまり、RWAとstablecoinは競合するだけではありません。
むしろ、デジタル金融市場の中で、支払い単位と投資・担保資産として組み合わされる可能性があります。
5.RWAと証券トークンは何が違うのか
RWAとよく似た言葉に、セキュリティトークン、つまり証券トークンがあります。
証券トークンとは、株式、社債、投資信託、ファンド持分など、証券性のある権利をトークンとして表現したものです。法的には証券規制の対象になります。
RWAは、これより広い言葉です。RWAには証券トークンも含まれますが、必ずしもすべてが証券トークンとは限りません。たとえば、コモディティ、カーボンクレジット、売掛債権、現実資産に紐づく利用権など、法的性質はさまざまです。
ここで重要なのは、RWAという言葉が少し広すぎることです。
「RWA」と聞いただけでは、それが何の権利なのか分かりません。
証券なのか。
債権なのか。
商品なのか。
ファンド持分なのか。
利用権なのか。
単なるポイントのようなものなのか。
この違いによって、規制、投資家保護、販売方法、移転制限、開示、税務、会計が変わります。
したがって、RWAを見るときは、「これはRWAです」という説明だけでは足りません。必ず、そのトークンの法的性質を見る必要があります。
証券なら証券規制が関わります。
ファンド持分ならファンド規制が関わります。
債権なら債権譲渡や倒産時の権利が関わります。
不動産なら登記や信託、持分管理が関わります。
コモディティなら保管、品質、受渡しが関わります。
RWAという言葉は便利ですが、便利すぎる言葉でもあります。
だからこそ、入門段階で最初に覚えるべきなのは、RWAの中身を見ることです。
6.RWAで本当に重要なのは、カストディと法的権利である
RWAの議論では、ブロックチェーンやスマートコントラクトに注目が集まりがちです。しかし、実務上もっと重要なのは、カストディと法的権利です。
なぜなら、RWAの裏側にある資産は、多くの場合オフチェーンに存在するからです。
国債は、証券保管振替機関やカストディアンの世界で管理されます。
不動産は、登記や信託の仕組みで管理されます。
ファンドは、運用会社、管理会社、移転代理人、カストディアンが関わります。
コモディティは、保管倉庫、品質証明、受渡しが関わります。
売掛債権は、債務者、債権譲渡、回収、倒産手続が関わります。
つまり、RWAはオンチェーンだけでは完結しません。
むしろ、オンチェーンのトークンとオフチェーンの権利をどう結びつけるかが本質です。
ここでカストディが重要になります。
誰が裏付け資産を保管しているのか。
分別管理されているのか。
発行体が破綻したときに投資家の権利は守られるのか。
担保として差し入れた場合、誰が処分権を持つのか。
トークンが移転したとき、法的権利も本当に移転するのか。
二重譲渡や二重担保は防げるのか。
こうした問いに答えられなければ、RWAは金融市場インフラにはなりません。
ブロックチェーン上でトークンが移転しても、法的権利が移転していなければ意味がありません。スマートコントラクト上で担保としてロックされても、倒産時にその担保権が認められなければ意味がありません。オンチェーン残高が正しくても、裏付け資産が存在しなければ意味がありません。
したがって、RWAの成否は、技術だけでは決まりません。
発行体、カストディアン、移転代理人、監査人、規制当局、清算・決済機関、法制度がどこまで接続されるかで決まります。
RWAは、ブロックチェーンの話である前に、法務と市場インフラの話なのです。
7.RWAは、金融市場のどの部分を変えるのか
RWAが本当に普及すると、金融市場のどの部分が変わるのでしょうか。
第一に、発行です。
証券やファンド持分を、最初からデジタル台帳上で発行する。投資家情報、保有残高、移転制限、適格投資家確認、配当・利払いを一体で管理する。これにより、発行後の管理コストを下げられる可能性があります。
第二に、移転です。
従来の証券移転では、複数の仲介者や照合プロセスが必要です。トークン化によって、保有者間の移転や台帳更新をより即時に近づけられる可能性があります。ただし、法的な移転と台帳上の移転が一致していることが前提です。
第三に、決済です。
資産の移転と資金の移転を同時に行う、いわゆるDVP、Delivery versus Paymentをより効率的に実現できる可能性があります。ただし、そのためには資金側も同じ台帳上、またはそれと高度に連携した形で動く方が、DVPや即時性の便益を引き出しやすくなります。ここでstablecoin、tokenised deposits、CBDC、銀行マネーが問題になります。
第四に、担保管理です。
トークン化資産は、担保としてロックし、移転し、評価し、解除する処理を自動化しやすい可能性があります。とくにトークン化国債やMMFは、デジタル資産市場の担保として注目されます。
第五に、コーポレートアクションです。
利払い、配当、償還、議決権、分配、分割、名義管理。こうした権利処理を台帳上で効率化できる可能性があります。金融資産は、買って終わりではありません。保有期間中の権利処理が大きな運用負荷になります。
第六に、透明性と監査です。
台帳上で保有や移転の履歴を確認できれば、監査やリスク管理がしやすくなる可能性があります。ただし、透明性が高すぎればプライバシーや取引戦略の漏洩にもつながります。どこまで見せるかの設計が重要です。
RWAは、単に「売買しやすくなる」だけではありません。
金融資産のライフサイクル全体に影響しうるものです。
発行。
保有。
移転。
決済。
担保化。
利払い。
償還。
規制報告。
監査。
この全体を見て初めて、RWAの意味が分かります。
8.RWAのリスクはどこにあるのか
RWAには大きな可能性があります。しかし、リスクも大きいです。
第一に、法的権利の不明確さです。
トークン保有者は、何を保有しているのか。現物資産への所有権なのか。発行体への債権なのか。ファンド持分なのか。担保権なのか。倒産時にどう扱われるのか。ここが曖昧だと、RWAは危険です。
第二に、裏付け資産リスクです。
本当に裏付け資産が存在するのか。評価額は正しいのか。保管場所はどこか。監査されているのか。不動産やプライベートクレジットのように評価が難しい資産では、このリスクが大きくなります。
第三に、流動性リスクです。
トークン化すれば流動性が生まれる、というわけではありません。買い手がいなければ売れません。移転制限があれば自由に売れません。市場参加者が少なければ価格が飛びます。不動産をトークン化しても、不動産市場そのものの流動性が魔法のように高まるわけではありません。
第四に、オペレーショナルリスクです。
スマートコントラクトのバグ、ウォレット事故、秘密鍵紛失、ブリッジ障害、チェーン停止、カストディの障害。RWAは伝統的金融のリスクとデジタル資産のリスクを両方持ちます。
第五に、オラクルリスクです。
オンチェーンのトークンがオフチェーン資産を表すなら、現実世界の情報をオンチェーンへ持ち込む必要があります。価格、保有状況、償還、権利移転、担保評価。これらを誰が、どの頻度で、どの責任で更新するのか。ここにオラクルリスクがあります。
第六に、規制リスクです。
RWAが証券なのか、ファンドなのか、商品なのか、決済手段なのかによって、規制は変わります。国境を越えて移転できる場合、どの法域の規制が適用されるのかも問題になります。
第七に、市場構造の集中リスクです。
RWAが普及するほど、有力な発行体、カストディアン、取引所、チェーン、オラクル、決済資産に依存が集中する可能性があります。分散技術を使っていても、実際の市場インフラは集中することがあります。
つまり、RWAは「ブロックチェーンだから安全」ではありません。
むしろ、伝統的金融のリスクとデジタル資産のリスクが重なる領域です。だからこそ、ガバナンス、監査、規制、カストディ、法的権利の設計が重要になります。
9.RWAと決済資産の問題
RWAを金融市場インフラとして見るとき、避けて通れないのが決済資産の問題です。
資産をトークン化しても、支払い側のお金が従来のままなら、完全な効率化は難しくなります。たとえば、トークン化された証券を即時に移転できても、その代金決済が銀行送金や既存の決済システムに戻るなら、資産側と資金側の処理速度がずれます。
そこで出てくるのが、stablecoin、tokenised deposits、CBDCです。
stablecoinは、オンチェーンで動く支払い単位として使いやすい。
tokenised depositsは、銀行預金をデジタル台帳上で扱う構想です。
CBDCは、中央銀行マネーをデジタル台帳上で使う構想です。
RWA市場が本当に大きくなるには、資産側だけでなく、資金側も整う必要があります。
ここで重要なのは、DVPです。Delivery versus Payment、つまり資産の引き渡しと支払いを同時に行う仕組みです。伝統的金融でもDVPは重要ですが、トークン化資産ではこれをよりプログラム可能にする可能性があります。
ただし、どの決済資産を使うかによって、信用リスクは変わります。
stablecoinで決済すれば、発行体リスクがあります。
tokenised depositsで決済すれば、銀行リスクがあります。
CBDCで決済すれば、中央銀行マネーによる最終性に近づきますが、制度設計や利用範囲の制約があります。
従来の銀行送金に戻せば、既存インフラとの接続はしやすいが、オンチェーン資産との即時性は制限されます。
つまり、RWAの本質は、資産をトークン化することだけではありません。
トークン化された資産を、何で決済するのかが同じくらい重要です。
資産側のtokenisationと、資金側のtokenisationは、セットで考える必要があります。
10.RWAを見るための七つの問い
RWAのニュースを見るときは、次の七つの問いを立てると整理しやすいです。
第一に、何がトークン化されているのか。
国債なのか。社債なのか。不動産なのか。ファンド持分なのか。売掛債権なのか。コモディティなのか。RWAという言葉だけでは何も分かりません。対象資産を見る必要があります。
第二に、そのトークンは何の権利を表しているのか。
所有権なのか。債権なのか。受益権なのか。ファンド持分なのか。証券なのか。利用権なのか。法的性質によって、投資家保護も規制も変わります。
第三に、裏付け資産は誰が保管しているのか。
カストディアンは誰か。分別管理されているのか。監査されているのか。発行体が破綻したときに投資家の権利は守られるのか。
第四に、どの台帳で動いているのか。
パブリックブロックチェーンなのか。許可型DLTなのか。証券保管振替機関の管理する台帳なのか。チェーンが違えば、透明性、アクセス、規制対応、セキュリティが変わります。
第五に、何で決済されるのか。
stablecoinなのか。銀行送金なのか。tokenised depositsなのか。CBDCなのか。資産側がトークン化されても、資金側の決済が遅ければ効果は限定されます。
第六に、流動性は本当にあるのか。
トークン化されたからといって、すぐ売れるとは限りません。取引所はあるのか。買い手はいるのか。移転制限はあるのか。価格形成は透明か。ここを見る必要があります。
第七に、どの業務に入り込んでいるのか。
単なる投資商品なのか。担保として使われているのか。証拠金に使われているのか。清算・決済に入っているのか。トレジャリー管理に使われているのか。RWAの実用性は、発行額だけでなく利用深度で見るべきです。
この七つを見れば、RWAを単なる「ブロックチェーン上の現実資産」としてではなく、金融市場インフラとして理解できます。
11.なぜRWAはいま重要なのか
RWAがいま重要なのは、複数の流れが重なっているからです。
第一に、金融資産のデジタル化です。
証券、ファンド、債券、担保、決済資産。金融市場の多くの要素がデジタル台帳上で扱われる可能性が出てきました。これは単なる投資商品の話ではなく、市場インフラの更新です。
第二に、stablecoinとオンチェーン決済の拡大です。
stablecoinが広がると、オンチェーン上で支払えるお金が増えます。すると、そのお金で買えるオンチェーン資産も必要になります。RWAは、オンチェーンのお金に対して、現実資産の投資対象を提供します。
第三に、高金利環境とトークン化国債の需要です。
金利がある世界では、安全資産の利回りが重要になります。stablecoinを持つだけでは利回りが得られない場合、トークン化国債やトークン化MMFに需要が出ます。これは、暗号資産市場にとっても、機関投資家にとっても重要です。
第四に、担保管理の効率化です。
デジタル資産市場が機関化するほど、取引所に資産を置きっぱなしにするリスクが問題になります。銀行カストディのもとで、トークン化国債を担保として使うような仕組みは、取引所リスクと担保利用を切り離す方向です。
第五に、伝統的金融機関の参入です。
資産運用会社、銀行、証券保管振替機関、取引所、カストディアンが、tokenisationに関心を強めています。これは、RWAが暗号資産業界だけのテーマではなく、伝統的金融インフラのテーマになりつつあることを示します。
第六に、AI・機械間決済との接続です。
AIエージェントがstablecoinでAPIに支払う世界では、デジタルな支払い単位が重要になります。一方で、企業や金融機関がデジタル資産を保有・運用・担保化するなら、RWAが必要になります。支払い側にstablecoin、資産側にRWAという組み合わせが出てくる可能性があります。
つまり、RWAは、暗号資産市場のニッチなテーマではなくなっています。
それは、資産運用、担保、決済、清算、カストディ、stablecoin、CBDC、tokenised depositsが交わる場所に移り始めています。
12.この媒体でRWAを見る視点
この媒体「決済インフラ観測」でRWAを見るとき、重視したいのは価格や投機ではありません。
見たいのは、その奥にある金融インフラです。
何の資産がトークン化されているのか
そのトークンはどの法的権利を表すのか
誰が裏付け資産を保管しているのか
決済資産はstablecoinなのか、銀行預金なのか、CBDCなのか
担保や証拠金として使えるのか
清算・決済・カストディにどう接続されるのか
発行残高ではなく、実際の金融業務にどこまで入ったのか
どのプレイヤーが収益を得るのか
RWAの本質は、「現実資産をブロックチェーンに載せるか」という単純な問いではありません。
本当の問いは、現実資産に対する権利を、デジタル金融市場の中でどこまで使えるようにするのかです。
この問いを持つと、RWAはかなり重要なテーマになります。なぜなら、それは単なる新しい投資商品ではなく、資産運用、担保、決済、清算、カストディ、規制をつなぐ交差点だからです。
結び――RWAは、投資商品の小口化ではなく「金融市場の再配線」として見る
RWAとは何か。
私の答えは、こうです。
RWAとは、現実資産やそれに対する権利を、デジタルな台帳上で表現したものです。そしてRWA tokenisationとは、それらを保有・移転・担保化・決済に使えるようにする金融インフラの再設計です。
それは、不動産の小口化かもしれません。
しかし、それだけではありません。
国債のトークン化かもしれません。
しかし、それは投資商品であると同時に担保資産でもあります。
社債やファンドのトークン化かもしれません。
しかし、それは発行、移転、利払い、償還の再設計でもあります。
オンチェーン金融の利回り商品かもしれません。
しかし、その裏にはカストディ、法的権利、償還、規制があります。
だから、RWAを「現実資産をブロックチェーンに載せる話」とだけ見るのは浅いと思います。
本当に見るべきなのは、そのトークンが何の権利を表し、誰が保管し、何で決済され、どの市場業務に入り込んでいるのかです。
RWAが広がるということは、単に新しいトークンが増えるということではありません。金融市場で、資産がどの台帳に乗り、どの決済資産で支払われ、どの担保として使われ、誰のルールで移転するのかをめぐる再設計が進むということです。
stablecoinなのか。
CBDCなのか。
tokenised depositsなのか。
トークン化国債なのか。
トークン化ファンドなのか。
従来の証券保管振替機関なのか。
新しいブロックチェーン基盤なのか。
この問いは、これからの決済インフラと資本市場を見るうえで避けて通れません。
RWAとは、単なる投資商品のデジタル化ではありません。
それは、デジタル時代に金融市場の権利・担保・決済をどう再配線するのかという問題なのです。
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参考文献
BIS / CPMI: Tokenisation in the context of money and other assets
BIS: Blueprint for the future monetary system: improving the old, enabling the new
