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マイケル・ジャクソンに学ぶ身体操作8:体軸が立つと聞こえ始める音の世界(前編)

皆が皆、同じ曲を聴けば、同じように音を聴いていると思っていませんか。
実は、音の聴こえ方・捉え方は、人によって大きく異なります。

音って、「耳や頭」の中で響いて、聴こえてるんじゃないの?——と多くの人が思うかもしれません。それが自然な反応です。

今回は、マイケル・ジャクソンがどのような音の世界を聴いていたのか。
その前提となる身体の状態や、知覚の仕組みについて、順を追って説明していきたいと思います。

その音の世界とは、感覚的に言えば、音が自分の周囲の空間に存在し、動きや重さ、流れをもって感じられる世界です。あえて表現すれば、音が空間全体に満ち、自分が包み込まれるような、まるで没入型映画館の世界に入り込んでいる感覚です。身体はもちろん体軸リズムを刻み、動かされます。
この記事では、このような音の捉え方を「没入型世界」と呼ぶことにします。

実は、この没入型世界の音を感じ取るには、身体の使い方や知覚の状態、これまでの経験といった数多くの条件が関係します。そのため、実際にこのような感覚で音を聴いている人は、ごく少数です。

音の捉え方は、幼少期からの環境や体験、身体の使い方が、”たまたま”幾層にも重なった結果として生まれる、ひとつの「音の認識の仕方」にすぎません。

それを特別だとか、優れているといったようには捉えないでください。また、没入型世界の感覚で音が捉えられないからといって、身体のどこかがおかしい、という話でもありません。

こうした「ごく少数」の人は、それを意図して獲得したわけではありません。そのため、無自覚なまま、ただ「何かが違う」という感覚だけが、訳も分からないまま、心の底にたまっていくのです。子どもの頃から理解されず、孤独を感じてきた人もいるでしょう。また、環境や心身の変化によって、以前は感じ取れていた没入型世界の感覚を、いつの間にか感じられなくなってしまうことさえあります。

少しだけ、私自身のことについて:
物心ついたころから、この没入型世界が当たり前だと思っていました。他の人とは音の聴き方が違うということを知らなかったため、音の話をすると、家族や友人に「そうなの?」「え?」と不思議そうな顔をされ、いつの間にか、あまり話さないようになりました。

実は、この没入型世界は、とても心地よい世界なのです。だからこそ、家族にも知ってほしい。けれど、伝えきれない。もどかしい。そうして、仕方なく、一人だけの楽しみにしてきました。

このシリーズ記事を書くにあたって、映画『This Is It』を初めて見ました。その中でマイケル自身もまた、この「音の捉え方の違い」の中で、伝え方に奮闘していました。その姿が、昔の自分の「もどかしさ」を呼び起こし、「見ていられない」と強く感じるほど、過去の苦しかった自分に気づかされました。またそれと同時に、なぜか、少しだけ救われたような気にもなりました。

このシリーズは、序章に書いたように「母に伝える」ことをきっかけに始まりました。そのため、これをきっかけに、「自分の感じている音の世界の一端でも、母に伝えられないだろうか」と思ったのが、この記事を書いた動機でもあります。目に見える世界の話ではないので、少し長くなりますが、お付き合いください。

1.聴こえ方の違いは、体軸と体感記憶にあり

自分の感じている音のイメージを言葉にしても、うまく伝わらず、説明する側も、そして聞く側も、戸惑ってしまう――。
この記事では、そうしたすれ違いが、なぜ起こるのか。その背景にある身体と知覚の仕組みを、できるだけ丁寧に整理していきたいと思います。

音をどう感じるかには、
①体軸
②音に紐づいた体感記憶
③音への感受性とパターン認識
この三つが大きく関わります。

この記事では、まず、最も重要な「体軸」に焦点を当てていきます。

では「体軸が立っている」とは具体的に何なのか。
ここからがスタートです。

なお、ここで扱う話は、誰かを評価したり、優劣をつけたりするためのものではありません。音の捉え方は、たまたまそうなっているだけ。ただ、それだけです。

2.「体軸が立つ」とは、何が起きている状態か

まず大切な前提として、ここで言う「体軸が立つ」とは、姿勢が良いことでも、体幹が強いことでもありません。背筋を伸ばしてピンと立っていても、体軸が立っていないことはあります。逆に、見た目には力が抜けているように見えても、体軸が立っていることもあります。
また、「ブレない」「安定している」といった精神的・イメージ的な表現とも、少し違います。

ここで扱う体軸は、身体の中で実際に起きている状態の話です。

では、「体軸が立つ」とは、何が起きているのでしょうか。

簡単に言えば、「足裏から頭のてっぺんまで、身体の中に一本の道が通り、『呼吸や振動、重さ』といった感覚が、途中で遮られることなく上下に行き来できる状態」です。こう言われても、一体どういうことだろう、と思うのが普通です。

音は、耳に入った瞬間に「聞こえて終わり」ではありません。音の振動は、耳の中の骨だけで完結せず、骨や筋膜、体液を通して身体全体へと波及していきます。

「体軸が立つ」とは、まさに一本の道ができている状態です。ただし、その状態は一様ではありません。その道の通りやすさ(音の振動の通り道がどれだけ遮られずに通るか)によって、体感の質は大きく変わります。

たとえば、安心できる、一人だけの静かな場所で、少し低めの音で「んー」とハミングしてみてください。その振動が、鼻腔や頭の中だけで止まらず、喉、胸、みぞおち、骨盤、脚、足裏へと、降りていく、ほんの微かな感覚があるかどうか。

多くの人は、胸あたりまでは比較的分かりやすく感じられます。けれど、その先――骨盤から足裏にかけては、とても微細な感覚になるため、「よく分からない」と感じる人も多いでしょう。それで構いません。

ここで感じてほしかったのは、体内に走る感覚がとても微細だという点です。そして、この微細な振動の一本線が、遮られることなく走ると、没入型世界への扉が開くのです。

3.体軸が立って、空間に音の広がりを感じるには

ここからは、身体を「楽器のようなもの」として考えて、読み進めてください。後ほど、ピアノを例にして、没入型世界がどんなものかを説明します。

体軸が立つ × 振動の遮断が起きにくい= 体軸が「開通」とは

重要な部分だけ、簡単にまとめます。
「体軸が立つ」という状態には、二段階のポイントがありました。

1.足裏から頭のてっぺんまで、一本の道が通る
2.その道を、音の振動がどれだけ遮られずに通るか

1は土台です。そのうえで、音の振動がどれくらい遮られずに流れていけるか――この2段目こそが、音の聴こえ方の質を大きく左右する重要なポイントです。

体軸が立っただけで、一本道の通りが悪いと、音の振動は「身体の内側で循環する」だけです。しかし、振動の遮断が少なくなるにつれて、通りがよくなり、少しずつ音を立体的に捉えられる瞬間が現れ始めます。
それに気づけるかどうか――その差が、体感としての大きな差を生みます。

さらに、振動の遮断が起きにくい状態が重なると、体軸の一本道は頭のてっぺんで止まらず、身体の外の空間へと抜けていくようになります。この状態を、ここでは「体軸が開通する」と呼びます。(後ほどピアノの例で説明)

体軸が開通すると、音の振動は身体の中だけでなく、周囲の空間へと広がります。これこそが、冒頭で触れた「没入型世界」です。

では、どうすれば開通するのか――そのカギになるのが、「音を楽しむ体感記憶」です。これについては、後で触れたいと思います。

次の補足説明後、遮断の度合いとともに変わる「音の聴こえ方」の説明に入っていきます。

補足:「体軸が開通」=「没入型世界」とは、どんな感じか

箱型ピアノ(アップライトピアノ)を思い浮かべてみてください。

ふたが閉まっている状態では、箱の中で音は鳴っていますが、私たちはその“音漏れ”を聴いています。ところが、上のふたを少し開けただけで、音量だけでなく、音の広がりや体への伝わり方が、はっきりと変わります。

「体軸が立つ」というのは、ピアノの中で音がきちんと鳴り始めた状態。
「体軸が開通する」=「没入型世界」というのは、そのふたが開いた状態に近いのです。

「体軸が立つ~開通」に至るまで、音の感じ方にはさまざまな段階があります。その違いを、次にStageマップで具体的に見ていきましょう。

4.Stageマップを示す前の注意事項!

これから示すStageは、「できている・いない」、上下、優劣といった評価基軸ではないことを、改めて伝えておきます。人は、体調や環境、心の状態、音楽との関わり方によって、同じ人でも、日によってStageを行き来します。また、音楽歴や演奏技術の高さとは、必ずしも一致しません。長年音楽をやっていてもStage 1〜2にいることもありますし、音楽経験がなくても、特定の条件下でStage 4〜5を体験する人もいます。

これは能力の話ではなく、単なる、その瞬間の身体と知覚の状態の話です。「自分はどこだろう」と静かに確かめるための地図として、読んでみてください。

5.音の聴こえ方のStageマップ

では、体軸を通っていく音の振動——その遮断の度合いとともに変わる「音の聴こえ方」を、段階ごとに見ていきます。
※体軸リズムは、どのStage段階でも自然に起こっています。大切なのは、それに気づけるかどうかです。

Stage 0|体軸が不完全な状態
音は主に「耳 → 頭」で処理され、身体にはほとんど落ちてきません。
リズムは、数えたり考えたりするものと捉えてしまい、身体の揺れ(体軸リズム)としてはかなり感じにくいかもしれません。

 「ここかも」と思った方へ:三連符を打つとき、多くの人はほとんど何も考えていません。三連符とは、一拍の間に三回打つことです。一拍を正確に三等分することは誰にもできません。それでも私たちは感覚(無意識)で、「タン・タン・タン」と三回打つことができます。正解なんてない。— Don't think. Just feel!

Stage 1|体軸が立ち始める
足裏から頭まで、身体の中に一本の通り道ができ始めます。
音や呼吸が上下に行き来する感覚が、かすかに分かることもありますが、体軸リズムはまだ安定して感じにくいかもしれません。

「ここかも」と思った方へ:運動をするとき、音に意識を向けてみてください。例えば、テニスリズムゲームです。ラケットにボールが当たる打音、打つ瞬間の身体の軸の感覚、ボールの重さや弾む音、ネットに引っかかる音。こうした、音・体感・視覚が同時に重なる体験は、そのまま体感記憶として残っていきます。そうした体感記憶を、意識的に蓄積してみるといいかもしれません。
また、筋トレも同じです。心の中で「い〜ち」「に〜い」と数えながら、声のリズムと、身体の感覚を合わせていく。そうした記憶が、体軸リズムを感じるための土台になっていきます。

Stage 2|体軸の通り道がつながる
体内の通路が途切れずにつながり、音や振動が、身体全体に広がりやすくなります。この段階から、音を聴いたときに、身体のどこかが自然に反応する自分に気づきやすくなります。体軸リズムを本当は感じているはずです。ただ、その感覚に慣れていて、「まさかこれが体軸リズムなの?」と言う状態かもしれません。

「ここかも」と思った方へ:音楽の授業やレッスン、音に関するあまり思い出したくない経験があったかもしれません。音を立体的に聞くには、音を無邪気に楽しむ経験と言うのが、非常に大事です。ですから、心の奥にしまった感情を解きほぐした瞬間、一気に立体感をもって音があなたの前に現れてくるかもしれません。

Stage 3|体軸リズムをしっかりと感じ始める
音を聴くと、身体の中に揺れや周期が生まれるのが分かります。
リズムを「数える」のではなく、揺れとして受け取る感覚が出てくるはずです。ただし、音はまだ立体的には感じられないかもしれません。

Stage 4|条件が合うと体軸リズムが刻まれる
聴き慣れた曲や、安心できる音楽では、身体が自然にリズムを刻みます。
音は平面的に感じるかもしれませんが、体軸リズムと音楽が結びつき、自然と音に乗っている感覚が生まれます。

Stage 5|音が空間に立ち上がり、体軸リズムと一体化する
音は頭の中ではなく、自分を包む空間に存在しているように感じられます。音の重さや流れが、体軸リズムと自然に同期し、初めて聴く曲でも、身体が自然に音に乗って反応します。

※体軸リズムとは (詳細は第三回記事
体軸リズムとは、音楽を聴いたときに身体の深層で自然に動き始める、微細な内部の揺れや周期のことです。表面の動作ではなく、無意識に起こる身体の反応として現れます。誰の体にも自然に起こる現象ですが、ほとんどの人が意識していません。だからこそ、まずは自分の内側に耳を澄ますように、静かに観察してみてください。胸やみぞおちで、微かに揺れやリズムを感じるかもしれません。意識しすぎず、ただ「気づく」程度で十分です。

音が立体的に聴こえるようになるには、無邪気に音を楽しもう!

Stage0~5に向かって、音が、点から線へ、そして立体的に、最終的には「流れ」として感じられるようになります。立体的に感じられる瞬間は、実はStage1からすでに起きています。音に興味を持って、それを拾えるかどうか―—その拾った体験の積み重ねが重要なのです。

また、Stage5に到達していても、常に音が立体的に感じられるわけではありません。他のことに意識が向けば、音の立体度は下がって聴こえます。

冒頭に、音をどう感じるかの3つの要素—①体軸、②体感記憶、③音への感受性—を書きました。「この音が好き」「楽しい」「心地いい」と無邪気に音を感じる瞬間を、どれだけ身体に刻み込めるか――この体感記憶を積み重ねることが、音を立体的に感じるための土台になります。

まとめ

今回の記事で、音の捉え方がこんなに違うのか、と驚いたかもしれません。しかし、音を立体的に捉えたり、没入型世界を目指したりする必要は全くありません。体軸を立たせ、音楽を無邪気に楽しむこと――それが、結果として体軸リズムを生み、音の立体感や流れとして感じるようになる、ただそれだけのことです。

体軸が立つ&音を楽しむ→体軸リズムを感じる→音が豊かに聴こえる

最後に:中編と後編の予告

次の回中編では、後編に行くための準備として、「立体的な音となどんなものか?」について具体的に説明します。そして、「没入型世界」の一端も紹介します。これが分からないと、後編がちんぷんかんぷんになってしまうので、今しばらくお付き合いください。

後編は、その内容を踏まえて、映画『This Is It』のマイケル・ジャクソンのやり取りを手がかりに、音の捉え方の違いによるコミュニケーションの難しさを見ていきます。

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