マイケル・ジャクソンの苦悩⑨:「偉人たちを研究し、より偉大になる」過程で見えてくるもの
第6回で、マイケルが音楽業界に参入したい人たちに向けて語ったアドバイスを紹介しました。
Believe in yourself. Study the greats and become greater. And be a scientist. Dissect. Dissect.
(意訳)「自分の力を信じろ。偉大な人たちを研究し、より偉大になろうとするんだ。そして、科学者になって、解剖し、分析するんだ。」
序章からここまで紐解いてきたことを振り返ると、この言葉は「成功するための秘訣」というよりも、自分の内側を磨きながら創造性を育てていくための、マイケルなりの実践的な指針だったのではないでしょうか。
偉大な人たちに魅了され、何とか近づきたいと必死に観察し、研究し、構造をつかもうとする。さらに、それを自分の中で何度も試し、練習し、修正していく。
——そうした積み重ねの中では、必ず自分の限界に向き合うことになります。
それは容易なことではありませんが、構造を見つけていく過程で、避けては通れないものです。では、自分の限界と向き合い、試行錯誤する中で、何が見えてくるのでしょうか。
1. 自分の限界を越えるには「橋」がいる
私たちは、どういう時に自分の限界を感じるのでしょうか。
今回のようなケースでは、相手との差の大きさを痛感した時です。
最初は「自分にもできるかもしれない」と思っていても、観察と研究を重ねるほど、その差は少しずつ具体的に見えてきます。そして、その差の大きさがはっきり分かるようになると、「どうやってそこへたどり着けばいいのだろうか」と考え始めます。しかし、多くの場合、その方法はすぐには見つかりません。すると、「これが自分の限界だ」と諦めたくなってしまうものなのです。
けれど本当は、自分の限界とは、その先へ渡るための「橋」がまだ見えていない状態にすぎないのかもしれません。
だからこそマイケルは、Believe in yourself. と語ったのではないでしょうか。
橋が見えないからといって、そこに道がないとは限らない。諦めずに観察し、研究し、試し続ける——そうした試行錯誤の過程でしか、構造は見えてこないからです。
2. 試行錯誤しながら、見えてくるもの
構造が見えてくると、相手の地点までの橋の架け方が、少しずつ見えてきます。ただし、そこに至る過程では、いくつかのことが見えてきます。
「相手を観察し、自分を見つめ直し、自分のどこをどう変えたらいいのかを考える」——そうした試行錯誤のプロセスは、他人と自分を比較することから始まります。
初めのうちは、どうしても表面上の結果や振る舞いを比べてしまいがちです。すると、学生の頃に、友達とテストの点数や順位を比べたときのような苦しさが伴います。嫉妬や自己嫌悪、焦りや苛立ちが立ち込めてくると、そんな最中では、冷静に自分を見つめ直すことができず、試行錯誤も前に進みません。
けれど、少しずつ冷静さを取り戻し、再び試行錯誤を始めると、見方が少し変わり、気づきが生まれてきます。
比べるべきなのは、表面上の結果だけではないのではないか。本当に見比べなければならないのは、その人が誰の影響を受け、どんなことを学び、何を積み重ねてその地点にたどり着いたのか、というプロセスや背景ではないかと。
そうした背景や歴史、思想に目を向け始めたとき、試行錯誤のプロセスは次の段階へと入っていきます。
3. 違いを生み出す「起点」に届く
相手の背景にあるプロセスや思想を知るにつれ、私たちは、相手と自分のたどってきた歴史そのものを比べることになります。
相手には、どんな学びの環境があったのだろうか。
誰との出会いが、その人の物事の見方を変えたのだろうか。
何に感化され、どんな積み重ねを経て、今の地点にたどり着いたのだろうか。
そして、それと同じような出来事は、自分の人生の中では、いつ起きたのだろうか。
こうして歴史を振り返っていくと、それぞれの学びや思想の変化が始まった「起点」が、少しずつ見え始めます。
すると、「これほど長い積み重ねを経てきたのなら、自分が今すぐできなくても落ち込む必要はない」「今できることから始めるしかない」と、俯瞰して考えられるようになります。
つまり、ここで、「すぐにできなければならない」「今できない自分はダメだ」という思い込みが外れていくのです。
私たちは、ただ言い聞かせるだけでは、なかなか行動を変えられません。背景を知り、自分なりに納得できる意味づけにたどり着いて初めて、ものの捉え方が変わり、行動も少しずつ変わっていくのです。
こうして試行錯誤を続けていくにつれ、相手を知ることが、そのまま自分を知ることにもなっていきます。自分の中にあった思い込みや意味づけが更新され、その先にようやく見えてくるのが、構造であり、自分はこうなりたいという「ビジョン」です。
そして、そのとき初めて、ただ憧れるのではなく、自分がどこをどう伸ばし、どこで自分なりの新しさを生み出せるのか——という「より偉大になる」ための、自分なりの答えが見え始めるのです。
(つづく)
