マイケル・ジャクソンの苦悩⑤:「普通」を知ると、「自分」が見えてくる
「みんなの普通の会話や振る舞い」を知りたかった——
マイケルのこの言葉の背景を、今回も引き続き考えてみたいと思います。
前回の振り返り:
私たちは新しい人の輪に入ろうとするたびに、まず周囲を観察し、その場の「雰囲気」や「流れ」といった「普通の状態」を掴もうとする、という話をしました。
一見、何気ないこの行動ですが、実は私たちはここで、とても重要なことをしています。
——それは、「自分がどんな距離感で、どう振る舞えばいいのか」という立ち位置を探している、ということです。
前回、この観察という行動は「生存戦略」だと書きました。
そして実は、企業もまた、まったく同じことをしています。
今回は、会社がどのように「普通」を観察し、利用しているのかを見ていきながら、私たちにとって「普通」とは何なのか、そして、それを知ることで何が見えてくるのかを、紐解いていきたいと思います。
1.企業もまた、観察している
前回、新参者として仲間に加わるために、私たちがしてしまう「4つのステップ」を見ました。どんな企業も、新商品をみんなの日常の輪に入れてほしいので、次のようなことをしています。レコード会社の例で見ていきましょう。
Step 1&2:市場の雰囲気と流れを知りたい
まず、私たちが人の振る舞いを観察するように、会社もまた、「どんな雰囲気の曲が、どんなふうに流行っているのか」を知ろうとします。
そのために、昨今話題になっているヒット曲に触れながら、次のような、市場全体の空気感を掴もうとします。
・どんな曲に、みんなの興味が移っていっているのだろう
・みんなの関心は、どのアーティストの曲によって動いているのだろう
・ヒット曲に対して、本音では、みんなどう感じているのだろう
こうして企業は、「個々のヒット曲」を見ているようでいて、実際にはその背後にある「共通した雰囲気や流れ」を掴もうとしています。
この「共通した雰囲気や流れ」が、いわゆる「流行」です。
流行と聞くと、最先端のもののように捉えがちですが、実際には、私たちの日常において「普通や当たり前になろうとしているパターン」のことを指しています。
Step 3&4:立ち位置が見えてくると、戦略が考えられる
この「パターン」が見えてくると、私たちは、そこから「自分がどのくらいズレているのか」に気づきます。
たとえば、「前の職場では、上司とフランクに話すのが普通で、慣れてしまっていたけれど、この職場では、案外緊張感をもって接するのが普通みたいだから、注意しないと」と、自分の振る舞いを調整したことはありませんか?
このとき、私たちは、「どの距離感で、どう振る舞えばその場に馴染めるのか」という自分の「立ち位置」を探っています。
会社も同じです。
最近の市場での「普通のパターン」が見えてくると、その中で——
どこなら自然に入り込めるのか
どのくらいならズレても受け入れられるのか
といったことを考えながら、企業もまた、新しい輪に入るための「入口」と「入り方」を見つけ、その場にどう溶け込むかという「立ち位置」を探り始めます。
例えば、これまではCMのタイアップで楽曲を届けていたとしても、アニメが人気の流れであれば、「アニメという文脈の中で、自分たちの曲をどの位置に、どうやって置けば、その流れに入っていけるだろうか」といった“生存戦略”を考えていくのです。
2.「普通のパターン」から学んだこと
では、「普通のパターン」を知ることで、企業も私たちも、そこから何を得たのでしょうか。
まずは、普通との「ズレ」が分かります。
「この場では、こういう振る舞いが自然なんだな」
「今までの環境とは少し違うな」
——そんなふうに、「これまでの当たり前」と「これからの当たり前」を比べ、自分が自覚していなかった「これまでの普通」を感じ取ります。そして、その基準からの「ズレの大きさ」を知るのです。
すると次に、「どうすれば馴染めるか」を考え始めます。
どのくらい自分を調整すればいいのか
どこまでなら合わせられるのか
どこからが無理をしている状態なのか
——そんなふうに自分を見つめ、調整し、でも少しだけ「自分らしさをだしてみる」という小さな実験をしながら、自分の「立ち位置」を探っていきます。
しかしここで、ある気づきが生まれることがあります。
「どう頑張っても、なんだかしっくりこない」
「なんだか無理に合わせている感じがする」
——そんな違和感です。
「この小さな違和感は、いつ解消されるのだろうか」
「いつか馴染めるのだろうか」
「あれ?この場に溶け込むことが、私にとっての正解なの?」
そのとき、初めて見えてくるものがあります。
「この場に入ることだけが、私の選択肢ではないのかも」
「本当は、自分が求めている環境は別にあるのかも」
「本来の自分らしさって、なんだったっけ?」
——そんなふうに、これまで気づいていなかった「自分の内側」が、少しずつ見えてきます。
つまり、「普通を知る」ということは、その場にどう入るかを知る手がかりになるだけでなく、「自分がどこにいたいのか」——そんな「自分が本当に望んでいる居場所」を知る手がかりにもなるのです。
だからこそ、マイケルは、ほんの少しでも「普通」を垣間見ることができたなら、「きっと多くのことを学べると思う」と言ったのかもしれません。
(つづく)
