マイケル・ジャクソンに学ぶ身体操作12:音の流れ、グルーヴ感、裏拍が難しいと感じている人へ(おまけ編)
後編へ入る前のおまけ編です。
1. 難しいと感じている人へ
「グルーヴ感」「裏拍」と聞くと、なんだか難しそう……そう感じる人は、とても多いと思います。
でも、安心してください。それは難しいのではなく、「身体知」として体がまだ慣れきっていないだけです。あるいは、体軸がまだ十分に育っていないだけかもしれません。
第1回で紹介した体軸エクササイズを続けていれば、感覚は少しずつ、確実に身体に馴染んでいきます。
実は、日本のお祭りで聞こえてくるお囃子は、非常に複雑で不規則なリズムの集合体です。それでも日本人は、その音の空間に違和感なく身を置くことができます。
つまり、才能の問題ではなく、慣れの問題なのです。
焦る必要はありません。
2.概念は後でいい。まずは身体で受け取ろう
音楽に触れるとき、「理論を理解しなければ」「正しく感じ取らなければ」と、そんなふうに構えてしまう必要はありません。
概念を先に知って、それを「感じ取ろう」とするよりも、まずはいろいろな音や揺れを、”判断せずに”身体で受け取る。そして、その感覚が少しずつ身体に馴染んでから、あとで概念に触れる——この順番を意識してみると、音はずっと楽に入ってきます。
実を言うと、私自身も、概念として説明されると「それのことか」と腑に落ちる一方で、音楽を楽しむ上では、それらの概念名を常に意識する必要はないと感じています。
むしろ、体感を優先しているときに、概念名が頭に浮かびすぎると、体で受け取っていた感覚が薄れてしまうような、少し怖ささえ覚えることがあります。
野球で言えば、バットの軌道や力学を知らなくても、ボールを打つことも、楽しむこともできます。身体知とは、理論を一つひとつ積み上げるのではなく、経験を通して、あるとき一気に「分かる」に到達するものだからです。
だからこそ、最初から理解しようとしなくて大丈夫です。
音や揺れを身体で受け取り、繰り返し体験すること。
そうして身体に馴染んだあとで出会う概念は、無理に覚えなくても、自然と「分かるもの」になっています。
3. 音を「流れ」で捉える感覚
それでも、多くの人は、音を、「拍」「テンポ」「リズム」といった要素に細かく切り分けて捉えがちです。
ただ、音を流れとして捉えている人は、細かいことをあまり気にしていません。「綺麗にまとまって、気持ちよく流れていれば、それでいい」——そんな感覚です。
例えるなら、ストロベリーアイスを作るときのこと。
牛乳、砂糖、卵、イチゴ。
それぞれの品質だけを見ていても、必ずしも美味しいアイスになるとは限りません。大切なのは、混ざったときのバランス、滑らかさ、あるいはイチゴの粒感、そして口に入れた瞬間の「美味しい」という感覚です。
音も同じです。
「音の種類」や「リズムの正確さ」——それだけに集中するのではなく、全体がどう流れているかを感じることが大切になります。
料理人が、完成形をイメージしながら、食材を切り、鍋を振り、手を止めずに流れを保つように、音もまた、流れが途切れないことで、自然と心地よさが生まれます。
4. 体軸リズムとグルーヴの関係
グルーヴ感は、
低音(ビート)の「ん~ん」が生む「下方向への沈み込み」と、
軽い音の「ッチャ♪」が生む「反発や広がりの揺れ」、
この二つの揺れの組み合わせで生まれます。
ここで重要なのは、音の高さや音色そのものではありません。
体のどこに、どのタイミングで、どんな方向の揺れが生まれるか
それが、グルーヴ感を左右します。
低音(ビート)
→ 体が自然に下へと沈み込む感覚
→ 重さを受け止める揺れ
軽い音
→ 上半身に生まれる反発や広がり
→ 下への沈み込みに対する、軽い戻りや跳ね
この下方向への沈み込みと、そこから生まれる反発
その二つの揺れの距離感と間合い。
それが、音の粘り——グルーヴ感の正体です。
ここでも大切なのは、理解より体感。
頭で仕組みを追うよりも、低音で体が少し沈み、軽い音で上半身がふっと反応する——その揺れを、まずは体で経験してみてください。
そうして体に馴染んだ感覚には、あとから言葉や理屈が、自然と追いついてきます。
5. 生の楽器を体験してみよう
音の感じ方を大きく左右する要素のひとつが、体感記憶です。
グルーヴ感を支える土台になる「低音(ビート)」というのは、体がこれまで覚えてきた感覚としっかり繋がっていないと、ただの音として通り過ぎてしまうという特徴があります。そのため、まずは低音を体で受け取れるようになることが、自然にグルーヴに乗るための近道だと言えるでしょう。
さらに低音は、実はとても「聴き分けが難しい音域」でもあります。ヘッドホンやスピーカーで聴いているだけでは、どの楽器が、どんな身体感覚を伴って鳴っているのかが分かりにくいのです。
だからこそ、
ベース
バスドラム
低音域のピアノ
和太鼓などの大きな打楽器
こうした低音楽器の「生の音」を、体で感じる体験がとても重要になります。もし可能であれば、「聴くだけ」ではなく、実際に自分で鳴らしてみる体験がおすすめです。
弦を弾いたとき、鍵盤を押したとき、太鼓を叩いたとき――その瞬間に、
体のどこが振動するか
どこに重さを感じるか
自然に沈み込む場所はどこか
こうした感覚が、少しずつ体感記憶として蓄積されていきます。
6. まとめ
改めて言いますが、グルーヴ感や裏拍が「難しい」のではありません。
体が、まだその揺れ方に慣れていないだけです。
音は、頭で細かく追いかけるよりも、流れとして感じるほうが、ずっと自然に身体に入ってきます。
体軸リズムを使いながら、「低音で体が沈み、軽い音で胸が揺れる」——その感覚を、まずは楽しんでみてください。無理に理解しようとせず、体に馴染ませていくことが、いちばんの近道です。
音を「体で感じる感覚」が積み重なれば、グルーヴ感は、いつの間にか身体の中に育っています。
マイケルが私たちに見せてくれていたものも、特別な魔法ではなく、音と体が一つになった体軸リズムと、その流れに身を委ねたパフォーマンスでした。その感覚を、ぜひ少しずつ味わってみてください。
楽器経験のない方へ:
低音に合わせて体が少し沈んだり、軽い音で胸がふっと揺れたりする感覚は、誰の体にも、もともと備わっています。そんな感覚を、少しだけ意識して感じてみる。まずは、そこから始めてみてください。
そして、楽器店をのぞいてみるのも、ひとつのきっかけになるかもしれません。
