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マイケル・ジャクソンに学ぶ身体操作25:独特の「ッアッ」はどうして出てしまうのか?

今回は、Man in the Mirror の冒頭で聞こえる、マイケル・ジャクソンの独特な「ッアッ」「ッゥッ」「ッォッ」といった短い音について取り上げます。

「なんでこんな音が入っているんだろう?」と気になった人は、案外多いのではないでしょうか。

今回は、この音が出てしまう謎の一端を紐解いていきたいのですが、ここでは、これらを「準備音」と呼ぶことにします。

ではまずは、Man in the Mirror の冒頭を改めて聞いてみましょう。

1.冒頭10秒が作る、神妙な空気

Man in the Mirror は、冒頭の10秒で、とても独特な空気感を作り出します。

最初の3秒間のシンセ音が、静寂の中でわずかに混沌とした空気感を生み出し、浮遊感のある美しさを演出します。その後、マイケルのハミングがそっと入り、やがて次のフレーズの歌声へとつながっていきます。

① ッゥッ、ッアッ gonna make a change ♪
② ッォッ for once in my life ♪

冒頭を聴いていると、最初は「美しいシンセ音だな」と思っていたのに、ハミングが入ると、「あ、これは軽く流してはいけないぞ」——そんな神妙な空気が漂い、自然と曲の世界に引き込まれる感覚を覚える人もいるかもしれません。

では、ハミングに入るまでの3秒間で、マイケルは何をしているのでしょうか?

第23回記事「体軸リズムで歌う二人(後編)」の4章で、次のように書きました。

聴き手は、歌を聴くことで体軸リズムを感じますが、歌い手は歌う前から、自分の中で体軸リズムを刻んでおり、その揺れを利用して発声しています。

「歌う前から体軸リズムを刻む」と聞くと、少し難しく感じるかもしれません。でも、実は特別な技術ではありません。

例えば、子供の頃に「今度からかわれたら、こう言い返そう」と、心の中で何度も練習したことはないでしょうか。あるいは、気になる人に声をかける前に、「よしっ」と勇気を少し振り絞って気持ちを固めた瞬間——。

そのときの私たちは、まだ言葉になりきらないモヤモヤした想いを抱えながら、どんな言葉なら口に出せそうかを探しています。怖さや戸惑いを感じつつも、言わなければ何も始まらないと分かっているのです。

この葛藤の中で、どうすれば言葉に出せるかを、身体の中で微妙に推し測って探っています。想いを内側に集め、タイミングを計り、心と体の準備(テンポ)を揃えていく──これが「歌う前に体軸リズムを刻む」という状態です。

Man in the Mirror の冒頭3秒で、マイケルがしていることも、本質的には同じです。

2.さぁ、声をかけよう!「アッ……あのさ」

では、気になる人に声をかけようとした、子供の頃の自分を思い出してみましょう。

一言目を言う直前に、「ぁっ」「んっ」といった、まだ言葉にならない小さな音が、つい出てしまった経験はありませんか?

あるいは、それを飲み込んでしまい、結局言い出せなかった──そんなほろ苦い記憶を持っている人もいるかもしれません。

自分にとって大切なことを言おうとする瞬間、私たちは、無意識のうちにこんな声を出します。

「…っ、ぁっ……あのさ」
「……ぇっと、ちょっと聞いてほしいんだけど」

このとき出てしまう「…っ、ぁっ」「…ぇっと」は、意味を伝えるための言葉ではありません。心と体のリズムを整え、次の一音に踏み切るための音です。

跳び箱でジャンプするときや、プールの飛び込み台から身体を前に投げ出す直前──あの無意識に、ぐっと力が集まる瞬間に、とてもよく似ています。

① 「ッゥッ、ッアッ gonna make a change ♪」の準備音でも、まさに同じことが起きています。身体の奥でテンポと圧を整え、一歩を踏み出すための小さな合図──これが準備音の正体です。

3.タイミングを見計らう、息の吸い込み

では、② 「ッォッ for once in my life ♪」の準備音はどうでしょうか。

②では、苦肉の策として「ッォッ」と表記しましたが、正しくは日本語にも英語にも落としきれない音です。

実はこれ、息を喉元で、きゅっと吸い込むときに自然に生まれる音です。

この現象は、日常の会話でもよく経験します。例えば、誰かと話をしていて、「ちょっと違うかも…」と感じつつも、相手の話を最後まで聞きながら、次に何を言うか、いつ言い出すかを無意識に計る瞬間です。

そのとき、私たちの身体は次のように動きます。

  1. 胸元やのど元に軽く圧をためる

  2. 軸を整えて体全体のバランスを調える

  3. 言い出す直前に、自然にぐっと息を吸い込む

この息の吸い込みが、声を出すための「発射準備」になり、声がスムーズに出るように身体を整えてくれます。

普段は無意識なので、外から見てもほとんど分かりませんが、マイケルの場合は、

  • マイクが近く、息の吸い込みの力が逃げない

  • 体軸がしっかり整っている

  • 呼吸や喉の動きに無駄がない

こうした条件が揃うことで、このわずかな動作がそのまま音としてクリアに聞こえるのです。

※呼吸器系に慢性疾患を抱えている方は、無理に真似しないでください。

4.まとめ|体軸リズムと歌のメッセージ

「ッアッ」「ッゥッ」「ッォッ」は、いずれもマイケルが身体の中で整えた圧やテンポ、つまり体軸リズムの現れです。その微細な動きや揺れは、聴き手の身体に無意識のうちに伝わります。

私たちは普段、相手の声の響き方や呼吸のリズムから、その人の緊張度合いや感情を無意識に感じ取っています。「少し戸惑っている」とか「これは本気だ」とか、言葉以上に掴み取っているのです。マイケルの準備音も、同じ原理で作用しています。

冒頭の10秒で、聴き手に「なんとなく真剣に聴くべき曲だ」と思わせるには、この準備音が欠かせません。

歌い手の中に流れる体軸リズムは、私たちも身体で追体験できます。曲を聴くときは、耳だけでなく身体にも意識を向けてみてください。小さな息づかいや呼吸の揺れ、微細なリズムを感じ取ることで、曲との一体感が生まれます。

そのとき、身体で感じる感覚がどんな状況で自分に起こるものか、少し想像してみてください。すると、歌詞やメロディだけでは伝えきれない、歌い手のメッセージが見えてくるはずです。

今回のような細かい音を聴くには、イヤホンの使用がおすすめです。まず細かい音を拾い、そのあとスピーカーで体軸リズムを感じながら聴くと、また違った音の世界を味わえます。音の楽しみ方をいろいろ試してみてください。

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