見出し画像

マイケル・ジャクソンに学ぶ身体操作23:体軸リズムで歌う二人~ Linkin Parkのチェスターとのちがい(後編)

前編では、以下のことを語りました。
1.二人の歌声は、なぜこんなにも違って聴こえるのか
2.Man in the MirrorとNumbの音作りのちがい
3.「縦」の体軸リズムは、誰が“感じさせている”のか


4.二人の歌声を比べてみよう

聴き手は、歌を聴くことで体軸リズムを感じますが、歌い手は歌う前から、自分の中で体軸リズムを刻んでおり、その揺れを利用して発声しています。

ここで整理すると、体軸リズムの方向は、

  • 縦(下):重力・安定感

  • :声の芯・立ち上がり

  • :推進・流れ

という役割分担があります。この体軸リズムを、どこに保持し、どう声へ変換するかが、二人の決定的な違いです。

マイケルは、全身で体軸リズムを刻み、その振動を遮らせず、息として吐き出すことで発声しています。一方、チェスターは、身体に大きな動きをあまり出さず、体内(頭から胸、鳩尾あたり)に体軸リズムを蓄え、それを声に変換して発声しています。

この違いが、歌声の性質にそのまま反映されています。

①Man in the Mirrorでのマイケルの歌声

基本的に、マイケルは母音を長く発音し、子音は鋭くなりすぎないよう丁寧に扱います。和声によって声の芯を保ちつつも、柔らかく響く音作りがされているのが特徴です。

サビ冒頭「I'm sTanding with the Man in the MIRRor♪」を見てみましょう。

最初の「I」と Man の「a」の音は、上方向への体軸リズム(声の芯)を感じさせます。フレーズ全体は、声量で押すのではなく、声を二重に重ねて左右に広げています。右側から聞こえる声の母音をやや長めにすることで、正面両方向への広がりが強調され、大文字で記したアクセント部分が自然に際立ちます。

これらの響きが重なり合うことで、聴き手の体内には、重力感に支えられた前方向への体軸リズムが立ち上がります。力で前に叩き出すのではなく、重力の中で体軸を安定させながら、呼吸の流れに音を預ける発声です。

マイケルの歌声は、喉や肩、胸を固めて生じる「圧」とは異なり、体軸と呼吸が連動することで生まれる自然な息の流れによって作られています。その結果、声はフルートのように透明で柔らかく、広がりを持ちます。

そして歌声は、演奏と混然一体となり、旋律・和音・リズムを結ぶ透明な橋渡しの役割を果たしています。

※Man in the Mirrorでの体軸リズムを使った歌い方の細かい点は、第4回記事の「3.前方向の軸圧が生む飛んでいく声」と「4.マイケルの R の発音は弱化ではない」で紹介しています。よければ読んでみてください。また、次回次々回で「Shamoneとッアッの謎」について書く予定です。

②Numbでのチェスターの歌声

マイケルが子音を目立たせない方向で声を組み立てていたのに対し、チェスターは、子音が生み出す音の立ち上がりそのものを積極的に利用しています。

英語の発音は、日本語に比べて、吐き出す息の量や方向、体のどの部位を使うかがより明確に求められます。チェスターは、胸や腹で体内圧を作り、声道の通過点として喉の抵抗を微細に調整し、唇や舌でそのエネルギーを瞬間的に解放します。これは、意図的に喉を締めるという意味ではなく、体内で作られたエネルギーが通過する過程で自然に生じる調整です。

さらにチェスターの歌声の特徴は、体内に蓄えた体軸リズムを、必要に応じて微妙に揺らしながら声に乗せる点にあります。この揺れは、単なるリズムではなく、曲の感情表現や緊張感、切なさといったニュアンスの基盤にもなっています。

その結果、チェスターの声は、打楽器とエレキギターを組み合わせたような底力のある強さから、クラリネットのような穏やかで滑らかな質感まで、一つの声の中で非常に広いダイナミクスを描きます。

特にサビ
I've beCome so Numb ♪
I can't Feel you There ♪
beCome so Tired ♪
so much More aWare ♪…
では、声が2〜3重に重ねられ、輪郭だけが横方向に広がっていくように聴こえます。しかし、大文字で記した子音は、摩擦音特有の立ち上がりの速さによって、前方へ強い圧として聴き手に感じさせるのです。

つまり、チェスターは、声を広げながら、同時に子音で前へ当てるという、一見すると矛盾した状態を成立させています。そのため、実際の音量以上に、聴き手は「叫んでいる」ように感じるのです。しかし実際には、音量そのものの問題ではありません。体内で蓄えられた体軸リズムの振動や子音の鋭さが、前方方向へ瞬間的に集中して放たれることで、空間や場が揺らされ、聴き手はあたかも大きな声が出ているかのように感じるのです。

さて、ここまで読んでみて、マイケルの歌い方は身体への負荷が少なそうで、チェスターの歌い方は負荷が大きそうだと感じた方もいるかもしれません。実際、歌声だけに注目すれば、その印象は間違っていません。
しかしマイケルの場合、余分な力みが局所に溜まらないよう、身体全体に流し続け、それをダンスへと変換させているという妙技を忘れてはいけないのです。

5.鼻歌でもいい!歌ってみると分かる息の使い方と前方向への体軸リズム

二人の歌声を聴くだけでも、その違いは感じ取れますが、実際に鼻歌や軽く口ずさんでみると、声の出し方や息の流れ、そして前方向への体軸リズムの差が、より鮮明に体で実感できるはずです。

① Man in the Mirror

サビ冒頭「I'm sTanding with the Man in the MIRRor♪」は、「アーィ、スタッティン、ウィンッナ、メーン イィンナ、ミラーア」と、母音部分をゆっくり伸ばして歌ってみます。

マイケルの歌では、正しい英語発音は一度忘れてください。正しい発音で歌おうとすると、体軸リズムが喉で途絶えてしまい、マイケルらしさは成立しません。日本語での濁音も避けましょう。声を作ろうとするほど、息の流れが止まりやすくなります。むしろ、鼻歌が最適と言ってもいいかもしれません。ひたすら母音を体軸リズムに沿わせ、息を自然に吐き出しながら伸ばすことで、前方向への体軸リズムを体で感じやすくなります。

② Numb

息を体内(頭から胸、鳩尾まで)にたっぷりとためる感覚を意識しながら、歌ってみましょう。子音ははっきり、やや強めに発音しますが、母音をきれいに伸ばそうとする必要はありません。むしろ、母音は流れに任せて構いません。

サビの「I've become so numb」から「Is be more like me and be less like you」までを、途中で止めず、一続きの流れとして歌ってみます。

ここでは、正確な英語発音やブレスの位置を再現しようとしなくて大丈夫です。理屈で理解しようとしても、この感覚はほとんど伝わりません。鼻歌でもいいので、音程や発音を気にせず、息を止めずに吐き続けながら声を出してみてください。

すると、歌っているというよりも、前に流れ続ける息に体が乗っていくような感覚が生まれます。強く押し出しているわけではないのに、声は自然と前に出続け、歌い終わったあとには、身体の内側がすっと抜けるような、不思議な爽快感だけが残るはずです。

Man in the Mirrorでは、歌ってみると体がすっと上方向に楽に立つような感覚が生まれ、Numbでは、理由は分からないけれど、なぜかスッキリする。
それが、音を「体で感じる」ということなのです。

6.おまけ|鼻歌でも十分だと気づいた話

鼻歌や口ずさんでみて、どう感じたでしょうか。うまく歌えたかどうかではなく、体の感覚として、何か違いはあったでしょうか。

私自身、改めて気づいたのですが、マイケルの曲は、歌詞をちゃんと歌わなくても、鼻歌とリズムを体で刻むだけで、不思議なほど満足感があるような感じがしました。一方で、Linkin Park の曲は、なぜか口に出して歌ってしまう。

これはどちらが良い・悪いではなく、体軸リズムを「体で刻む」か、「声で刻む」かだけの違いなのだと思います。

マイケルの曲は、リズムや強弱の取り方自体が難しいため、英語の発音以前に、まず身体でリズムを感じて動かすことが大切です。だからこそ、英語が難しいと感じる方は、鼻歌で構わないのでどんどん歌ってみてください。それだけでも、マイケルの体軸リズムを十分に体感できるはずです。

そして、チェスターのように歌いたいと感じた方は、アメリカ英語の子音だけでも学んでみることをおすすめします。歌うときの楽しさや爽快感が変わりますし、Linkin Parkの曲は、英語発音の練習素材としても非常に優れています。

7.最後に|今回の記事のまとめ

二人のどちらがスゴいか、という話ではありません。

  • マイケルは、体軸リズムを体内で調律し、そのエッセンスを声として放出し、残りをダンスへと昇華させる。

  • チェスターは、体軸リズムをすべて声へと変換し、歌声として放出する。

その違いが、歌声の質や役割の違いとして、私たちの身体に伝わっているだけなのだと思います。好きな曲を聴きながら、自分の身体がどんな反応を示すのか、なんとなく観察してみてください。

いいなと思ったら応援しよう!