マイケル・ジャクソンに学ぶ身体操作7:あの「両手を広げる」動きは「心と体のリセット」
マイケル・ジャクソンのライブ映像を見ていると、曲の途中や終盤で、ふと両手を横に広げる瞬間があります。派手で緻密なダンスの流れの中に、あまりに静かでシンプルなそのポーズ。
「なんで、あそこで止まるのだろう?」——そう感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
実はこの動き、見た目以上に身体にとって非常に合理的で、マイケル自身の状態を整え、さらに観ている側の体感までも調律する役割を果たしています。
今回は、あの「両手を広げる」ポーズが
マイケルの体に何を起こしているのか
私たちが同じ動きをすると、体の内側で何が起きるのか
を、「身体感覚」という視点から解きほぐしていきます。
第1回記事で紹介した「骨盤引き上げエクササイズ」を続けている方にとっては、体軸がどれくらい育ってきたかを確認するチェックポイントとしても使える内容です。
「最近、立つのが少し楽になった気がする」
「呼吸が深く入る瞬間が増えた気がする」
そんな小さな変化を感じている方は、ぜひ自分の体で確かめてみてください。
マイケルは、あの瞬間に何をしているのか?
まずは、実際の動きを見てみましょう。
下の公式ライブ映像では、Man In The Mirror が 1:46:20 から始まります。
そして 1:50:15 頃、マイケルはさっと両手を横に広げるポーズを取ります。
その直後、第4回・第5回の記事で紹介した前後の体軸リズム(曲を聴くと自然と体を揺らしたくなる動き)が一気に穏やかになり、体の動きも、声の質も、スッーと落ち着いていくのが分かります。
ここは、曲のクライマックスでありながら、同時に「まとめ」や「あとがき」に入っていくような瞬間でもあります。それまで高まり続けていた感情やエネルギーが途切れることなく、でも確実に一段落し、次のフレーズへと静かに受け渡されていく。
マイケルの声、身体の動き、会場の空気——そのすべてが、この一瞬でピタリと重なり合っているのです。
「Hoo, hoo, hoo…」と感情を吐き出すようなフレーズの直後、サッと両手を横に広げ、静かに「Oh, oh no~♪ … I'm gonna make a change」という次の言葉へ入っていきます。「叫び」から「静かな決意」へ――その“つなぎ目”に置かれたのが、あのポーズです。
では、このポーズがもたらしている効果をみていきましょう。大きく分けて3つあります。
① エネルギーの放出
Man in the Mirrorの曲に合わせて、体が前後に揺れ続けていると、背中の真ん中あたり、あるいは胸元あたりに、ぎゅっと圧が少しずつ溜まっていくような感覚を覚えたことはありませんか?
それは、前後の体軸リズムが続くことで、呼吸や筋緊張が一点に集まり、体の中心部に負荷がかかっている状態です。
そこで、マイケルは、両腕を軽く横に広げ、顎をほんの少し上げることで、
その圧を腕・手・顎の方向へと、一気にサッと逃がします。
曲の終盤までに体に溜まった「余計な緊張や滞り」が、体の外へ自然に流れ出ていく——これは「力を抜く」というよりも、溜まりすぎたものを、「正しい出口から放出する」動きなのです。
② 体軸の即時リセット
このポーズをすると、胸郭がふわっと持ち上がります。それにより、
骨盤 → 胸郭 → 後頭部までが一本のラインでつながり、「体軸が立った」基本姿勢へと”自然に”戻ります。
このとき、肩や腕は何かをしようとせず、そこにただ、ぶらんとぶら下がっているだけの状態になります。肩と腕が軸の上に預けられることで、一本のラインが、より”シュッ”と立つ感覚が生まれ、心身ともにリフレッシュするようなリセット感が広がります。
特に重要なポイントは、前後に揺れていた重心が、胸元(体軸の中心)へと自然に戻ってくることです。
これは、動き続けた体を「ホームポジションに戻す」ための、非常に効率のよいリセット動作だと言えるでしょう。
③ 観客の体軸リズムへの鎮静効果
そして、実は、曲の終盤に向かって高まる体軸リズムは、
観ている側の体にも、無意識のうちに少しずつ蓄積されていきます。
そこに、マイケルがさっと両手を横に広げると——
目の前がパッと開かれるような、開放的な感覚
首や肩、胸、あるいは腰まわりなど、胴体のどこかから、力がふっと抜けていくような感覚
それに伴って、自然に息をホッと吐き出せる感覚
といった変化が、観客の体にも起こりやすくなります。
これは単なる決めポーズではありません。観客の体感リズムまでも一度整え直し、マイケル本人を含め、観ている人や会場の「場」全体を、静かにリセットしていくための、非常に巧妙な身体の使い方です。
(参考)ライブの中で起きている「場の変化」は、その場にいる人たちが自然に整っていく在り方に近いものです。「場の変化」や「同調」の感覚については、日常や武術、施術の観点から整理した過去記事があるので、不思議だなと思った方は読んでみてください。
マイケルがこれらを意識していたかどうかは分かりません。しかし、曲が生み出す体軸リズムと身体の使い方という視点で見ると、この動きが洗練され、合理的であることは、自然と感じ取れるのではないでしょうか。
では次に、私たちがこのポーズを行うと、体の中で何が起きるのかを体感してみましょう。
両手を広げ、胸を開くポーズで体軸チェック
目的:深層筋が自然に働いているかを確認しながら、骨盤・胸郭・体軸が一本で立つ感覚を味わうこと。
※ 体軸づくりの土台がまだ弱い場合、「腰が詰まる」「きつい」と感じることがあります。その場合は、無理をせず、ゆっくり行うか、いったん中止してください。このポーズはトレーニングではなく、体軸の仕上がりを確認するためのチェックです。頑張る必要はまったくありません。「うまくできなくて当然」くらいの気持ちで試してみてください。
※ 第1回で紹介した「片側骨盤引き上げエクササイズ」直後に行うのがおすすめです。「前より楽だな」「今日は腰が詰まってるな」といった、自分の変化を体感で確かめるチェックとして活用してみてください。
やり方
① 立つ
足幅は「こぶし一つ分」ほどの自然なスタンス
つま先は正面
② 両手を広げ、胸を開く
両手は肩の高さまで上げなくてOK。ライブ映像でのマイケルのように、横にふわっと広げる位置をイメージしてください。
肘は軽く曲げ、力を入れない
手のひらは前向き、もしくはやや上向き。
マイケルのように、腕がぶら~んとぶら下がっている感覚を感じてみてください。胸を「張る」のではなく、胸郭がふわっと持ち上がる感覚を探します。視線は軽く上、もしくは真正面を向いたままでも大丈夫です。
③ 体軸チェック
次の感覚が起きているか、探ってみましょう。
お尻や骨盤が、尾骨の方向へ勝手に吸い寄せられるように、まとまってくる感覚
※ 尾骨とは、お尻の割れ目の少し上にある、体の中心ライン上のポイント
※ そのポイントから糸で引っ張られるように、腸骨の背中側が尾骨方向へ導かれ、それに伴って、臀部の筋肉に力を入れなくても、お尻が自然とまとまってくる感覚に気づくかもしれません。
※ 力で寄せるのではなく、体軸が立った結果として起こる変化です。
胸郭が軽く浮くように支えられる
背骨が一本の線になった感覚
左右差が少ない
④ 両手をゆっくり下ろす
足裏全体で床を感じる
体軸が立った感覚、体の軽さ、呼吸の深さを味わう
コツと使い方
1分以内でOK
「正しくやる」より「今日はどこに何を感じたか」をしっかり感じることが最優先。上に書いたことを、一度に全部感じる必要はまったくありません。日々感じる場所や感じ方が変わります。
デスクワークの合間の姿勢リセット、筋トレ前の体軸確認にもおすすめ
体軸のホームポジションを確認するセルフチェックとして是非活用してみてください。
見た目と内側は、同時に変わる
骨盤が正しい位置に立つと、胸郭は無理なく引き上がり、体軸が整います。
体軸が立つと、内側の感覚だけでなく、見た目にも変化が現れます。
女性の方へ
以前書いた女性向け記事『骨盤を立てるだけで、おへそが縦長に!』
で紹介した原理と同じです。女性にはこちらのやり方の方が簡単かもしれません。
男性の方へ
腹筋の厚みがある分、おへその形よりも、胴体全体の縦の伸びや胸郭の高さで変化を感じる方が分かりやすいでしょう。
原理は男女共通です。
胸郭がふわっと引き上がった状態のとき、心まで少し軽く、静かになりませんか?この感覚こそが、マイケル・ジャクソンの動きにある、あの浮遊感の正体。「体軸が立った状態」が、声や動き、そして心の在り方までを自然に整えていくのです。
