マイケル・ジャクソンの苦悩⑥⑦まとめ:誰もが経験している、マイケルの観察プロセス
『Much too soon』という曲を聴いたことはありますか?
世に出されたのは2010年ですが、曲そのものは1982年前後にマイケルが書いたものだそうです。私はこの曲を初めて聴いたとき、「マイケルの中に、カントリーやフォーク風の素朴な曲を書く引き出しまであったとは……」と、とても驚きました。
この曲を聴いたとき、どんなことを感じましたか?
「いい曲だな」と思った人もいれば、「こういう曲も書きそうだ」と思った人もいるかもしれません。
―—このように、何かを見聞きしたときに、どこに注目し、何と結びつけ、どのように捉えるか。そうした言葉になる前の無意識下での働きを、ここでは認知と呼びます。
第6回では、認知には二つの大きな傾向がある、という話をしました。
二つの大きな傾向
点の認知:その瞬間の事実や、明示された情報を切り出して捉える認知
流れの認知:前後の文脈や変化をつなげて、一連の流れとして捉える認知
そして、「流れの認知」で観察を進めていくと、次のような観察プロセスをたどる、という話をしてきました。
観察 → 深掘り研究 → 構造把握 → 内部シミュレーション
今回は、内部シミュレーションの説明へと進む前に、そのまとめとして、私たちも子どもの頃から、この「流れの認知」による観察プロセスを経験している、ということを考えてみたいと思います。
第6回まとめ:観察 → 深掘り研究
マイケルの「流れの認知」による観察眼
第6回記事では、マイケルが子どもの頃から、James Brown のパフォーマンスを、アポロシアターの舞台袖から必死に観察していたことを書きました。
その観察眼には、次のような三段階がありました。
外側から見える現象の観察
パフォーマーの内側にある想いが、どのように外へ現れ、広がっていくのかという流れの観察
その広がりが、どのように観客と呼応し、会場全体へ波及していくのかという観察
第1段階は、目に見える事実の観察です。これは、「点の認知」に近い観察眼です。そして、第2段階以降では、雰囲気や動きの流れといった非言語情報を捉えていく、「流れの認知」特有の観察眼が現れてきます。
ただし、こうした観察眼は、マイケル特有のものではありません。
その原型は、私たちの誰もが幼少期から持っているものなのです。
新しい場に溶け込んでいくための「観察眼」
第4回で、私たちは子どもの頃から、「のけ者」にならないように、周りの人たちの振る舞いをよく観察してきた、という話をしました。
新しい学校生活や新しい職場での仕事が始まると、私たちは、誰から教わることもなく自然と、「流れの認知」特有の観察眼で、その場にいる人たちをよく観察していたのです。
その場にどんな雰囲気や流れがあるのか
お互いに、どんな距離感や関係性で接しているのか
こうした非言語情報をよく観察することによって、
どうしたら、うまく仲間に入っていけそうか
その中で、どんなふうに自分らしさを出しながら振る舞えばいいのか
といった「生存戦略」を自然と考えています。
もちろん、「流れの認知」による観察眼の精度は、人それぞれです。しかしそれでも、私たちの誰もが、こうした観察をしてきたはずです。
「言われてみれば、そうかも……」と感じるのは、私たちが普段、自分が何を見て、何を感じ取っているのかを、あまり意識していないからです。
第7回まとめ:深掘り研究 → 構造把握
「好きこそものの上手なれ」の「観察眼」
ただ、「好きなもの」「好きな人」への観察は、意識しやすく、自然と深掘りしたくなっていきます。
私たちは、「すごい」「かっこいい」「こうなりたい」と好奇心を抱くと、細かく観察し、真似し、試し、「どうしたら近づけるのだろう」と意識的に考えるようになります。
マイケルの言葉で言えば、「偉大な人たちを研究し、科学者のように、解剖して、分析していく」のです。
そして、
なぜあんなことができるのか
自分とはどこが違うのか
と疑問を抱きながら、諦めず観察を続けていくと、
「こういう条件が揃うと、こういう変化が起こる」
という「構造」が、少しずつ見えてきます。
構造と聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、「どうしたらこうなるのか」という仕組みやメカニズムだ、と言った方が馴染みがあるのかもしれません。
例えば、発芽の条件は、種が発芽するための構造です。そして、私たちは人が怒ってしまう構造も、ある程度掴んでいるはずです。
「お母さんに怒られる!」も、構造を掴んでいるからこそ分かる
子どもの頃、「あっ、宿題をやっていない。このままだとお母さんに怒られるかも!」と先読みしたことはありませんか?
それは、ただ不安になっているだけではありません。
私たちはすでに、
宿題をやっていない
お母さんにそれが見つかる
この時間になると聞かれやすい
言い訳が通りにくい
といった条件が揃うと、次に何が起きやすいのかを、感覚的に学び取っているのです。
ここでいう「構造」とは、まさにこういう「どんな条件が揃うと、どんな変化が起きるのか」というメカニズムのことです。
ただ、構造とは、決して外の世界にだけ見つけるものではありません。
自分の中にもあります。
あなたはどんな状況だと緊張してしまいますか?
それが、あなたが緊張してしまう構造です。
例えば、もしあなたがマイケルに1分間だけ会って話ができるとしたら、それはどんな場面でしょうか。そのとき、あなたはどんなふうに近づき、何を伝えるでしょうか。そして、緊張しないように、会うまでにどんな準備をするでしょうか。
そんなことを思い浮かべるだけでも、私たちは自然と、その場の空気や流れ、距離感を頭の中で組み立て、自分の挙動をシミュレーションし始めます。
次回は、そんな「内部シミュレーション」の話です。
