マイケル・ジャクソンの苦悩⑦:深掘りから構造把握へ —「科学者のように解剖するんだ」
前回は、点の認知と流れの認知を紹介し、マイケル・ジャクソンが持っていた「流れの認知」の観察眼について触れました。
前回紹介した用語の説明を載せておきます。不要であれば飛ばして下さい。
点の認知:その瞬間の事実や明示された情報を切り出して捉える認知。目の前の情報に焦点を当て、対象を明確に区切り、正確に処理することで、再現や検証を可能にする。
流れの認知:前後の文脈や変化をつなげて、物事を一連の流れとして捉える認知。少ない情報から全体の流れを立ち上げ、「この先どうなるか」を自然に予測し、変化の兆しを捉える。
流れの認知の特性:
観察 → 深掘り研究 → 構造把握 → 内部シミュレーション
流れの認知で観察をしていくと、自然と深掘り研究へと発展していきます。今回はその「深掘り研究」の先に「構造が見えてくる」という話です。
1. 「構造が見える」とは?
前回見たように、マイケルは、James Brownなど、尊敬する人たちのパフォーマンスを研究していました。
「どうしたらあんなステージができるのか」と疑問を抱きながら、研究していたはずです。——そんな謎解きの先に見えてくるのが、構造です。
ここでいう「構造」とは、”どうしてそうなるのか”という「メカニズム」のことです。
例えば、ミステリー小説やドラマを思い浮かべてみてください。
最初は、断片的な情報しか出てきません。
被害者が見つかる
不審な人物がいる
アリバイが曖昧な証言が出てくる
その時点では、それぞれの情報はバラバラで、意味を持ちません。
しかし、物語が進むにつれて、
なぜその人物はその場にいたのか
なぜその証言に違和感があったのか
なぜそのタイミングで事件が起きたのか
といった「点」と「点」の関係性に疑問が沸き、少しずつその関係性が解き明かされて行きます。
そして最後に、
「この状況だったから、この動機が生まれ、それによって、この行動をとってしまったがために、この事件が起きた」
という因果が結びつき、一本の流れが分かります。すると、私たちは「なるほど!そういう事だったんだ!」とスッキリするわけです。——それが、構造が見えた瞬間です。(まさに、以前書いた「ひらめきの瞬間」でもあります。)
つまり、「構造が見える」とは、”必要な情報”を選び出し、それらの関係性がつかめたことによって、「①どんな状況で、②どんな条件が揃い、③何がきっかけで起きたのか」が分かる状態なのです。
2. 構造を見つけるには、知見がいる
そして、ここで重要なのが、”必要な情報”の見極めです。
構造が見えてしまえば、結果論として、どの情報が重要だったのかは明らかになります。しかし、構造が見えていない段階では、それが分かりません。
謎解きの最中では、不必要な情報まで「きっと関係があるはずだ」と思い込んでしまったり、逆に、重要な情報なのに「こんなものは関係ない」と見過ごしてしまうことがあります。そうすると、なかなか構造に辿り着きません。
ミステリー小説やドラマでも、中盤過ぎに、「科学的知識」や「文化・歴史的背景」、あるいは「特殊な事情」の説明が織り込まれていることはありませんか。
例えば、
特定の薬品の性質を知らなければ成立しないトリック
ある時代の風習や常識を前提にした動機
特定の職業だからこそ可能な行動
といったものです。
つまり、謎を解くために必要な「知見」を持っていないと、目の前の情報が重要なピースかどうかに気づけない、ということが起こります。
皮肉なことに、この知見がない状態では、
「どこに着目すればいいのか分からない」
「謎を解くための、とっかかりが見つからない」
という状況に陥りかねません。
しかも、その「必要な知見」が一体何なのかさえ分からない場合も少なくありません。
そうなると、いくら情報があっても、構造のしっぽすら掴めないのです。
だからこそマイケルは、「何かをやろうとする前に、それがどんな分野や領域であっても、まずその歴史的文脈を調べるのが好きなんだ。」と語っていたのではないでしょうか。
「知見を広げる」って、大切ですね。
構造を見抜く力は、課題解決力へ、そして、意思決定の質へとつながっていくのです。
(つづく)
おまけ①:2つの認知を、みんな無意識に切り替えて使っている
前回、点と流れという2つの認知の傾向は、世界を捉えるカメラのデフォルト設定のようなもので、「明日から変えようと思って、すぐに変えられるものではない」と書きました。ただし、それは「固定されている」という意味ではありません。
例えば、普段「点の認知」がデフォルトになっている人でも、強い興味や関心を持っていたり、経験が蓄積されている領域に対しては、自然と「流れの認知」で物事を捉えていることがあります。
このように、ある条件が揃うと、私たちは2つの認知を無意識のうちに切り替えて使っています。
そして今回の記事のような「深掘り研究」の段階では、この2つの認知の両方を使わないと、構造把握にはたどり着けません。この話は、次回もう少し詳しく触れたいと思います。
おまけ②:「お母さんに怒られる⁉」も「構造把握」の結果
認知のプロセスは無意識下で働くため、私たちは普段、それをほとんど意識していません。しかし、振り返ってみると、いろんなところで使っているのです。
子どもの頃、「あっ、宿題をやっていないから、このままだとお母さんに怒られちゃう!」と先読みしたことはありませんか?
こうしたシミュレーションができるのは、「どんな状況で、どんな条件が揃うと、お母さんが怒り出すのか」という、お母さんの内部構造の一部を、すでに見抜いているからなのです。
