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自己紹介|どうして僕は「がんばれ」と言わない医者になったのか

「がんばれ」は、善意でも、ときに重くなる

つい、言ってしまいがちな言葉――「がんばれ」。
もちろん、相手を応援したくて出る言葉だと思います。
でも、心が限界に近いときにこのひと言を受け取ると、それがとても重たく感じられることがあるんです。

僕自身も、昔は「がんばれ」と声をかけていました。
今回は、なぜ僕がその言葉を使わなくなったのか、そのきっかけとなった出来事をお話しします。


研修での出来事

まだ研修医だったころ、摂食障害で入院していた女の子を担当しました。
彼女は「学校に戻りたい」「卒業したい」と前向きで、だからこそ「じゃあ退院に向けて食べていこうね」と治療方針が決まりました。
僕は、朝ごはんの時間に1時間ずっと付き添って見守る役を任されました。

そのとき、僕は自分にひとつのルールを決めました。
「『がんばれ』と言うのは、1時間のうち1回だけにしよう」と。

“がんばれ”って、実はとても難しい言葉です。
でも当時の僕には、他の言葉が思いつかなくて。
何も言わないのもつらくて、せめて言いすぎないようにしようと思ったのです。

ある朝、時間が残り少なくなったとき、僕はその1回だけの「がんばれ」を口にしました。
すると彼女は、小さく、でもはっきりと「うるさい」「死ね」と言いました。

僕はそれを、「安心して本音を出せる関係になれたんだな」と受け取りました。
彼女はその後、無事に高校を卒業し、回復に向かっていきました。

それでも、僕の中にはずっと、もやもやしたものが残っていました。


「もう十分がんばってる」って、ようやく気づけた

あれでよかったのか? もっと他の言葉があったんじゃないか?

経験を重ねる中で、ある日ふと気づいたんです。
「あの子は、食べようとしてるだけで、ものすごくがんばってたんだな」と。

今だったら、あの最後の10分にどんな言葉をかけるかなぁと考えることがあります。
どんな言葉をかけたらいいのか、まだわかりません。
でも、もう「がんばれ」とは言えない気がします。
あの子のしんどさがわかったように思えたから。


「がんばれ」「大丈夫」って言われたときの気持ち

患者さんたちに教わったことがあります。
「不登校や適応障害のように心がしんどいときに『がんばれ』と言われると、42.195kmを走ったあとに“あと10kmだけ走って”って言われたような気持ちになる」
「『大丈夫』って言われると、“私が大丈夫って言ってるんだから落ち着きなさい”って言われたように感じる」

もしよければ、お子さんにこう聞いてみてください。
「“がんばれ”とか“大丈夫”って言われると、つらく感じることある?」と。
素直に話してくれたら、こう伝えてみてください。
「今まで気づかなくてごめんね。これからは言わないように気をつけるけど、また言ってしまったときは教えてね」
その一言があると、子どもは少しずつ、自分の気持ちを言いやすくなっていきます。


僕が「言わない」と決めている言葉

  • 「がんばれ」…もう十分がんばってるから

  • 「大丈夫」…あなたは今、大丈夫とは思えないから

  • 「わかる」…あなたの苦しみを本当の意味でわかることはできないから

  • 「でも」…気持ちを否定されたように感じるから

  • 「自分を責めないで」…責めたい気持ちを否定することになるから

  • 「自分を許してあげて」…自分のことを許せない気持ちも大事だから

  • 「他人(家族)のことを許してあげて」…許そうとしなくていいから

  • 「自分のことをねぎらって」…ねぎらえない気持ちを否定しないために

細かいことをいうと「自分のことをねぎらえるようになったらいいね」とは言います。
だけど、自分のことをねぎらうかどうかは自分で決めることなので、「ねぎらって」と指示はしません。


変わるには、悩む時間が必要なんです

「また自分を責めてしまった…」
そんなふうに思うこと、ありませんか?

責める気持ちが浮かんでくるのは、自然なことです。止めようとしても、なかなか難しいもの。でも、その気持ちにずっととらわれ続けるのも、しんどい。だから、責めてしまう気持ちを受け止めて、切り替えられるといいなって思います。

けれど実は、自分の気持ちを受け止めたり、切り替えるためには「気持ちを受け止めるなんてしていいの?」「それは逃げなんじゃないの?」「もっともっとがんばらないと家族から見放されてしまうんじゃないか?」といった心の声と、ちゃんと向き合う時間が必要なんです。

ここまで読んで、「気持ちを受け止めて切り替える方がいい」って頭で理解しても、それが腑に落ちるのって結構時間がかかるんです。
その“悩んでいる時間”にも、ちゃんと意味があるんです。
悩んでる気持ちを誰かに受け止めてもらえたらと思います。


「でも」で、全部がひっくり返ってしまうことがある

たとえば、あなたが30分かけて子どもの話を一生懸命聞いたとします。
不安な気持ちに寄り添って、じっくり聞いてあげた。
でもそのあとに、

「でも、学校には行かないとね」「でも、明日は学校行こうね」
と言ってしまったら……?

その瞬間、子どもは「やっぱり学校に行かせたいだけなんだ、僕はこんなに苦しいのに」と感じてしまうかもしれません。
せっかくの30分が、ゼロどころか、マイナスになることだってあるんです。

だから、僕は話を聞いたあとにはこう伝えるようにしています。
「しんどいね、よくやってるよ」「どうしたい?」「どうしていこうか?」

それだけで十分です。
その時点で「どうしたいか」なんて、本人にもまだわからないことが多い。
大切なのは「あなたのことを信じて、ちゃんと待ってるよ」というメッセージを伝えることなんだと思います。


正解より大切な、悩むこと

「がんばれ」「大丈夫」などの言葉を使わないようにしようと決めると、悩むことが増えます。
「じゃあ、何て言えばいいの?」と戸惑うかもしれません。

でもその悩みは、それまでの悩みとは少し違います。

「この子がこのまま引きこもりになったらどうしよう」
───これは、自分の不安に基づく悩み。
「この子にとって、今いちばん必要な関わり方ってなんだろう」
───これは、その子のことを思って生まれる悩み。

この“悩みの質”の変化こそが、関係を育てる大切なステップなんだと思います。

周りの人ができるのは、「正解」を与えることではありません。
その子のために、気持ちを受け止めて、一緒に悩み、本人が決めるのを待つこと。
それが、目には見えなくても、その子の心にエネルギーを注ぐことになるのだと思います。


おわりに

「がんばれ」と言わないこと。
それは、その人の中にある力を信じることなのかもしれません。

苦しんでいる人に、どんな言葉をかけたらいいのか。
これさえ言っておけば大丈夫、なんていう”正解の言葉”はありません。
この言葉(正解)さえ言っておけばいいやと悩まなくなったら、それは子どもの心に届かなくなるから。
むしろ、「正解を言おう」と思わなくなったときこそ、相手の心に近づけるような気がします。

それでも迷いながら、悩みながら、そばにいようとすること。
その姿勢そのものが、誰かにとっての支えになっていく──僕は、そう信じています。


最後におすすめの本を一冊

もし、「どう関わればいいんだろう」「こんな関わり方でいいのかな」と迷っている方がいたら、ぜひ読んでみてほしい本があります。

『ちゃんと泣ける子に育てよう』(大河原美以 著)
これまで読んだ中で、僕がいちばん感動した本です。

単に「子どもの感情を受け止めましょう」という本ではありません。
親が感じるリアルな疑問に対して、対話形式で丁寧に答えてくれる一冊です。

どのページにも、子どもの心を信じるまなざしがあり、読んでいるうちに、自分自身もやさしく包まれるような気持ちになります。

子どもと向き合うすべての大人に、心からおすすめしたい一冊です。


不安・不登校・親子関係などのテーマは、こちらにまとめています。
今しんどいと感じている方は、今の自分に近いものから読んでみてください。

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精神科医・城戸高志 ありがとう!

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