まさか大好きな漫画と同じシチュエーションを、リアルで体験できるとは…!
個人的に一番大好きな漫画は「花男」で、日本からドイツに行く際は、大人買いして全18巻揃ってた「赤ちゃんと僕」を泣く泣く捨てて、花男だけを持ってきた。
たった3巻、40話から成るこの物語は、絶対に自分のドイツ生活を支えてくれるという確信があった。自分にとってのバイブルだし、小学3年生で初めて読んだ時に受けたラストの衝撃は、忘れることができない。
そんな花男の話の中で、結構好きなのが、2巻第二十一話の「沈黙」である。この話は、セリフ無しで描かれているのである。なんか実験的というか、こういうやり方で物語を表現できるんだと、感心した覚えがある。
自分はその話のラストの描写が好きすぎるのである。場面としては、授業参観を終えた息子の茂雄と父の花男は、グランドに雪が積もっているのを発見。花男は勢いよく飛び出し、遊具で遊ぶ。その様子をやれやれと思いながら、茂雄が外に出ようとする時に、花男の足跡を見つける。その足跡の中に、自分の足を入れてみると、父の足はかなり大きいことが分かる。茂雄はどんどん花男の足跡を追って、歩いていく。その様子をただじっと見つめる、父の花男。足跡を追うことに夢中になっていた茂雄は、待ち構えていた花男にぶつかり、この物語で初めてのセリフとなる「わんっ。」という言葉を発するのである。


このシーンは、子どもの時に読んでいた頃は、茂雄目線で見ていた。つまり、雪の中で足跡を見つけたらそれを辿ってみたくなるような、そういう気持ちがあったし、それをしていたと思う。
そして、だいぶ年月が経った今では、花男の目線になってしまうのである。つまり、自分の足跡を追って来てくれる存在が愛おしいというか、夢中になって追いかけてくる存在が微笑ましいという考えを思ってしまう。
足跡が人生っていう気がしていて、我が子が同じように辿ってきている姿が、花男にとっては愛おしく感じたのではないかと思う。だからこそ、茂雄が近づいてきても、茂雄が夢中で歩いているのを邪魔したくなかったから、声をかけずに、見守ることしかできなかったのかなと。吹き出しの「…」は、何か言えたけども、あえて言わなかったというサインなのかなと。というか、父の足跡を追ってくる茂雄の行動が愛おし過ぎて、何も言えなかったという面もあると思う。
で、茂雄がぶつかった時に発した「わんっ。」という言葉が、物語のラストにして、物語の初めての言葉になっているのが、構成として素敵だなと思うのである。しかも、「わん」って、英語の「one」だから、わざわざその言葉を用いて、物語の初めの言葉にしたというのは、仕掛けが秀逸過ぎるなと思う。

茂雄が歩いていく人生を、冬なのに、こんなにも暖かく見守っているという、そのギャップも自分は感じてしまう。
で、なんでこの話を書いたかというと、先週の実習で同じようなことを経験したからである。その時に自分は、花男のシーンみたいやなと思ったのだ。
皆で朝ごはんを食べている時に、外では雪が降っていた。で、朝食後に遊び場所へ向かった。その際に、懐いている年長のルカ君が、
「キヨトの足跡を追っていくぞー!」
と言い出したのである。
何事かと思って振り向いたら、ルカ君が自分の足跡を辿って来ていた。その姿を見た時に、この花男のシーンを思い出して、まさか大好きな漫画のシチュエーションが現実になるなんてと内心めちゃくちゃ嬉しくなった!
で、自分はルカ君が付いてきているのが分かったので、わざと大股で歩いたり、歩幅を狭くしたりしながら歩いた。ルカ君はそのどれもをちゃんと辿って、自分の所に辿り着いた。
なんというか、花男はじっと構えて見守っていたけど、自分はルカ君を楽しませようとしたのは、自分らしいやり方だったかなと思っている。こういうことを考えているからこそ、
ルカ君が楽しんで、自分も楽しめたことを、自分はただただ良かったなと思う。
ちなみに、この場面は、第2巻の1ページ目にも登場している👇やっぱり、2巻を象徴するような素敵なシーンがこれだなと思う。

花男がどんな表情で茂雄を見ているのか想像できるのが良い。
きっと、花男の目は、冬の寒さとは対照的な、暖かいものだろうと想像がつく。
花男の愛情というか、茂雄に対する思いの深さが、この場面に色濃く出てると思う。
