【心拍数と酸素欠乏の筋肉】 −酸素が奪われた筋肉は、やがてサッカー選手を裏切る−
序章|心拍数を知ることから、すべてが始まる
私たちがサポートしているプロサッカー選手たちに、光学式心拍計「GARMIN」の装着を推奨しているのには、決して一時的な流行やデータ偏重の理由があるわけではありません。
それは、日々の心拍数を“見える化”し、変化を追いかけ、チームで共有することで、選手一人ひとりの「今この瞬間の體」と「これから先の変化」を捉える重要な手がかりになるからです。
心拍数(bpm:beats per minute)は、1分間に心臓が打つ回数を示すシンプルな数値です。
しかしその実態は、心臓という“血のポンプ”がどれだけの速さで酸素や栄養素を血液に乗せて全身の細胞に送り届けているかを表す、まさに「生命のスピードメーター」です。
よく「体内には地球の赤道3周分=約12万kmにもおよぶ毛細血管が張り巡らされている」と言われますが、この膨大なネットワークのすみずみまで血液を巡らせる役割を、直径わずか数センチの心臓が担っていると考えると、その仕事量と負荷には驚かされます。
もちろん、毛細血管の隅々に至るまでポンプ圧だけで血が届くわけではありません。
全身の筋肉の収縮や呼吸、内臓の動きといった“補助循環”が重要な役割を担っているのですが、それでも心臓の鼓動がその起点であることに変わりはありません。
多くの人が心拍数を“消費カロリーの計算”のための指標として認識しているようですが、実際にはもっと根本的な意味を持ちます。
心拍数とは、ATP(アデノシン三リン酸)という細胞内エネルギー通貨をどれだけ活発に産生しているか、その“代謝の活力”を表しているのです。
言い換えれば、あなたの心拍数は、そのまま“今の生命力”を物語っていると言っても過言ではありません。
たとえば、安静時心拍数が高いということは、わずかな活動や生命維持のためにも多くの酸素とエネルギーを必要としている状態です。
逆に言えば、日々の負荷やストレス、栄養状態、睡眠、呼吸の質などが適切に保たれ、體が効率的な代謝機能を持っていれば、少ない拍動で必要なエネルギーを生み出せる“省エネルギー体質”に近づいていきます。
私自身、かつては心拍数という数値に特段の関心を持っていませんでした。
しかし、今では“血”の働きに魅せられ、その流れに人生を捧げるようになった私にとって、心拍数は一種の“語りかけ”のような存在になりました。
たとえば、朝目覚めて最初にチェックするのは、その日の「安静時心拍数」です。
この数値は驚くほど正直で、起きた瞬間の疲労感、爽快感、深部体温、睡眠の質などを正確に映し出してくれます。
現在の私の安静時心拍数は39〜41bpm。
この範囲に収まっているときは、目覚めた瞬間から體が軽く、呼吸も深く、心の状態も安定していることが多いです。
逆に、この数値が少しでも上がっている日は、身体のどこかに小さな炎症や疲労、あるいはメンタルストレスが潜んでいるサインかもしれません。
こうした心拍の変化に意識を向けるようになると、プロサッカー選手たちの中でも、
「今日は本当に全力で動ける状態だろうか」
「最近の疲労が蓄積していないか」
「今の自分はどこまでパフォーマンスを発揮できるのか」
といった問いを、数字に基づいて“自己対話”できるようになります。
心拍数とは単なる生理データではなく、「いまの自分の體と心が、どれだけ調和しているか」を教えてくれる、最も原始的で確かな“フィードバック”なのです。
プロ選手であれ一般の人であれ、自分の心拍数を知ることから、パフォーマンスと健康の探究は始まります。
第1章|あなたの「心拍レベル」はどこにあるか?
心拍数を軸としたトレーニングがスポーツ科学の主流になった今、アスリートに限らず、心拍数に基づく運動管理はもはや「常識」と言ってもよいでしょう。
アプリやスマートウォッチで誰でも心拍ゾーンを確認できる時代になった現在、それを活用しない手はありません。
しかし、プロ選手であっても「自分の心拍レベルの現在地を本当に理解しているか?」と問われると、残念ながらYesと答えられる人は多くありません。
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