【号外】全盲の私が、国産アニメ生成AI「AnimeGen」を自宅の3090で動かしてみた
📰 きっかけ
2026年7月13日、国内のAIベンチャー AIdeaLab が「AnimeGen」というアニメ特化の動画生成AIを無償公開した。しかも商用利用まで許可されている。ニュースを聞いて、私はすぐに思った。
これ、自宅のパソコンで動かせるのだろうか。
私は全盲で、パソコンはスクリーンリーダーの読み上げで操作している。画面を目で見られない私にとって、この手の「動画を作るAI」は、そもそも扱えるのかどうかが最初の関門になる。今回はその挑戦を、二つのAIと組んで進めた。
動画を作る相棒が Claude Code(AIコーディングアシスタント)、できあがった動画を見て言葉にし、10点満点で採点する評価役が OpenAI の最新モデル GPT-5.6(sol)だ。
全盲の人間がアニメ動画を作り、その出来を別のAIに採点してもらう。字面だけ並べると、我ながらあやしい話ではある。それでも結論から言うと、6本の動画を生成できた。この記事はその記録だ。
🕰️ 以前の私と、今回の私
実は私、ComfyUI という動画生成の定番ツールを、以前に自力で試したことがある。そのときの記憶は、正直つらいものだった。
ComfyUI は、画面上のたくさんの「ノード」を線でつないで処理の流れを組み立てる仕組みだ。目で見える人には直感的なのだと思う。だが私のスクリーンリーダーでは、そのノードにフォーカスがうまく当たらない。どこに何があって、どの点とどの点を線で結べばいいのか、正確に把握することが本当に困難だった。
それでも動画は作った。作ったあとも大変で、できた動画が良いのか悪いのか、目で見て確かめられない。だからPythonでフレームを1枚ずつ画像に切り出し、それをAIに言語化させて、ようやく内容を知る。しかもそれをAPI経由で連続的に処理する必要があり、手間がかかった。
今回は、そのすべてが劇的に楽になった。
ComfyUI の画面には一切触れていない。私は日本語で「こういう動画を作って」と指示する。それを受けて Claude Code が裏側でツールのエンジンを起動し、動画を生成する。できあがった動画は、私が自分で GPT-5.6(sol)に渡す。ここは自動ではない。私が一本ずつ手で渡し、GPT-5.6 がその内容を言葉にする。私はその言葉で、自分の作った動画を知る。三者で手分けしたことになる。あの時の苦労は何だったのか、と思うほどだった。
「0から1へ」を掲げている私だが、今回は0.1どころか、いきなり歩けるようになった感覚に近い。
😮 失敗、と思ったその直後に
印象に残っているやりとりがある。ある動画の生成中、Claude Code が「失敗したようです」と報告してきた。処理が長く止まって見えたのだ。私は次の手に切り替えようと考え始めた。
その矢先だった。Claude Code が「ちょっと待ってください、動画ができています」と言ってきた。止まったように見えた処理は、裏では最後まで走り切っていた。
画面を見ていれば一目で分かることを、私は言葉のやりとりだけで追っている。だからこの「ちょっと待ってください」の一言に、思わず息をついた。焦って次へ動く前に、相棒が引き止めてくれた。
🎬 できた動画と、その評価
生成した動画は、私が GPT-5.6(sol)に1本ずつ手で渡し、内容を言葉にしてもらったうえで、10点満点で採点してもらった。ここでいちばん出来が良かったのが、この動画だ。
水色がかった銀髪に赤い瞳の少女が、夜の街の光を背景に、カメラへ向かって笑顔で手を振る5秒の動画だ。評価は8.5点。指の本数が最後まで保たれ、顔も髪も服装も崩れず、途中で少し口を開けて挨拶する表情の変化まで自然に出た。
同じ少女に手を振らせようとした一つ前の動画では、彼女はなぜかピースサインを作っていた。頼んだのは挨拶、返ってきたのは記念撮影だ。
一方で、正直に書いておく。うまくいかなかった動画もある。
視覚障害のある人が点字ブロックの上を歩き、障害物に躓いて転ぶ、という動画に挑戦したのだが、これは後半で映像が完全に崩壊した。人物の体がねじれ、溶け、最後は判別できなくなる。評価は2点だった。点字ブロックを歩く姿を伝えたかった。いちばん見せたかった動画が、いちばん崩れた。
🎭 分かった、得意と苦手
6本を作って、このモデルの性格がはっきり見えてきた。
得意なのは、顔のアップや上半身の人物を、軽く動かす映像だ。手を振る、微笑む、まばたきする、口を少し動かす。こうした小さな動作なら、5秒間でも安定してきれいに保たれる。
苦手なのは、歩行、転倒、白杖の操作、犬との連動など、複数の部位や物体が同時に動く複雑な動作だ。こうした映像は、途中で形が崩れやすい。
つまり、実用的に使うなら「キャラクターは立ち止まらせて、動くのは手や髪、背景の光だけ」に絞るのが、いちばん安全だ。転倒動画が破綻し、手を振る動画が成功したのは、まさにこの差だった。走らせれば転ぶが、立たせて笑わせるのは得意。このモデルは、そういう役者だと思って付き合うのがちょうどいい。
🤖 AnimeGenとは、どんなモデルか
ここから先は、使ったモデルと環境の技術的な記録だ。中身に興味がある方だけ、読み進めてもらえれば十分だ。
AnimeGen は、中国 Alibaba が公開している動画生成AI「Wan2.2」の大型版(アクティブ140億パラメータの構成)をベースに、アニメ調の作画や動きが出るよう追加学習したものだ。
用意されているのは2種類だ。
テキストから動画を作る T2V 版。文章で指示するだけで動画になる。
画像から動画を作る I2V 版。1枚の絵を渡すと、それを動かした動画になる。
ライセンスは Apache 2.0 で、商用利用が可能だ。作った動画を仕事に使ってもよい、という点は大きな魅力だ。開発には経済産業省の生成AI開発支援プログラム「GENIAC」の後押しもあったそうで、国産モデルとしても注目されている。
🖥️ どんな環境で動かしたか
今回動かしたのは、私個人の自宅環境だ。先に断っておくと、これは誰の家にでもある構成ではない。
グラフィックボードは NVIDIA GeForce RTX 3090。ビデオメモリは24ギガバイトだ。これも、新しい世代が出て型落ちになったものを選んで買った一枚だ。
システムメモリ(RAM)は32ギガバイト。
公式の推奨は「RTX 4090以上」となっている。ただ、実は3090と4090はビデオメモリの容量がどちらも24ギガバイトで同じだ。違うのは計算速度で、容量そのものではない。つまり「4090推奨」は、収まるかどうかというより、快適さの目安なのだ。だから3090でも、時間さえかければ動くのではないか。そう考えて試した。
実際、モデル本体は1つで28ギガバイトを超える巨大なファイルが2つ必要で、これを読み込むだけで32ギガのRAMがぎりぎりになった。そこで、重みの精度を軽くする fp8 という省メモリ手法を使い、なんとか24ギガのビデオメモリに収めている。
🔧 工夫したところ
順調だったわけではない。いくつも壁にぶつかり、そのたびに手を打った。
ひとつめ。ComfyUI のデスクトップアプリは、外付けドライブの接続順でドライブ名が変わると、以前の設定を見失って「初回インストール」だと誤認してしまった。そこで、アプリ経由をやめて、エンジン部分をコマンドから直接起動し、モデルの置き場所を絶対パスで指定する形にした。
ふたつめ。巨大なモデルの読み込みでRAMが枯渇し、処理が止まったように見える場面が何度もあった。Windows の仮想メモリへの退避が激しく発生していた。ここは fp8 での省メモリ読み込みと、独立したプロセスとして動かす工夫で乗り切った。
みっつめ。これが一番の学びだ。プロンプト(指示文)の書き方で、動画の品質が大きく変わった。
よっつめ。解像度とコマ数だ。最初に縦横720ピクセルで試した一本は、人物も小物も形が最後まで落ち着かなかった。そこで縦横480ピクセルに下げると、処理が軽くなったぶん絵が安定する。空いた余裕は、コマ数に回せる。
毎秒8コマだと動きがカクつき、歩行や転倒のような大きな動作では途中で崩れやすい。毎秒16コマまで上げると、手を振る程度の動きはなめらかに保たれた。
実際、出来のよかった動画は、そろって480ピクセルの毎秒16コマだった。解像度を欲張らず、浮いたぶんをコマ数に振る。これが3090での勘どころだった。
🐢 おわりに
商用利用ができて、国産で、しかも一世代前の3090でも動く。AnimeGen は、条件つきではあるが、確かに現実的な選択肢になっていた。とはいえ3090も、誰もが気軽に買えるものではない。そこは正直に断っておきたい。
そして何より、目で見られない私が、動画生成という「見ることが前提」に思える領域に、AIと組んで踏み込めたこと。これが今回いちばんの収穫だった。ツール自体は前と同じだ。間に、翻訳してくれる相棒が入っただけだ。それだけで、越えられなかった壁がただの段差になった。
亀でいい。見た目は兎でいたい。今回は、その兎の速さを少しだけ借りられた気がする。
📋 生成データ・解像度の記録
すべて WebM 形式、VP9、音声なし。評価は GPT-5.6(sol)による10点満点。
1本目 AnimeGen_test。方式はテキストから動画、T2V。解像度480かける480、毎秒16コマ、長さ約1.6秒。内容は桜並木の女子学生。評価7.5点。人物はほぼ静止で、髪と花びらと光だけが動く一枚絵に近い。
2本目 AnimeGen_whitecane。方式T2V。解像度720かける720、毎秒8コマ、長さ約5.1秒。内容は白杖の少年と犬。評価6点。物語性と雰囲気は良いが、人物と犬と白杖の形が安定しない。
3本目 AnimeGen_tenji。方式T2V。解像度480かける480、毎秒8コマ、長さ約5.1秒。内容は点字ブロック上の白杖歩行、腰から下。評価4.5点。着眼点は良いが、点字ブロックの形状と足運びが不正確。
4本目 AnimeGen_tenji_i2v。方式は画像から動画、I2V。解像度480かける480、毎秒8コマ、長さ約5.1秒。内容は3本目の続きで、躓いて転倒する場面。評価2点。後半で人物が崩壊し、6本中もっとも破綻した。
5本目 AnimeGen_wave。方式T2V。解像度480かける480、毎秒16コマ、長さ約2.6秒。内容は水色髪、赤い瞳の少女。評価8点。顔と手は安定しているが、手を振るというよりピースサインに近い。
6本目 AnimeGen_wave5s。方式T2V。解像度480かける480、毎秒16コマ、長さ約5.1秒。内容は5本目の少女が5秒かけて手を振る。評価8.5点で最高。開いた手を左右に動かす明確な手振りと、口の開閉による表情変化を、顔を崩さず両立した。
完成度の順位は、1位が6本目、2位が5本目、3位が1本目、4位が2本目、5位が3本目、6位が4本目。上位はすべて、顔か上半身を中心にした穏やかな動きだった。
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今回の挑戦は、突然生まれたものではありません。「見えない私が映像を作る」ことも、「自宅のパソコンで大きなAIを動かす」ことも、これまで少しずつ積み重ねてきた延長線上にあります。もし今回の話を面白いと感じてくださったなら、その助走にあたる三本も、よろしければのぞいてみてください。
見えない自分が、消えた中野サンプラザをAIと編みなおした30秒、Claude CodeのBlender MCPで点群映像を作った記録
https://note.com/kind_fish6099/n/n83881567cc55
全盲の私がAIで映像を作る理由 白杖に目をつけたショート動画の裏側
https://note.com/kind_fish6099/n/n9cd194888b81
見ないで机を思いきり広げてみた、スマホに乗らなかったAIを、自宅のパソコンで動かした記録
https://note.com/kind_fish6099/n/ncbfbb7cf9733
見えない映像クリエイターが作った動画
今回のAnimeGenの話は、要するに「AIが翻訳役の相棒になってくれた」という一点に尽きる。じゃあその相棒と、私はこれまで何をやってきたのか。音とテキストだけを頼りに映像を作ってきた、その原点を短い動画にまとめてある。よかったら、こちらもどうぞ。
