言われた通りに作るほどズレていく──上流SEに必要な確認より前の仕事
顧客の話をちゃんと聞いている。
確認もしている。
議事メモも残している。
それでも、あとからこう言われる。
それ、欲しかったものと少し違うんですよね
上流に入ってしばらくすると、この種類のズレに何度もぶつかります。
しかも厄介なのは、雑に進めたから起きるわけではないことです。むしろ、真面目な人ほど起こしやすい。
相手の言葉を尊重しようとする。
余計な解釈を入れないようにする。
言われたことを正確に整理しようとする。
その姿勢自体は間違っていません。
でも、上流SEの仕事は、聞いた内容をそのまま整形することでは終わりません。
ここを取り違えると、丁寧に確認した人ほど、丁寧にズレていきます。
僕は、上流で本当に必要なのは 確認力 だけではないと思っています。
もっと手前にあるのは、相手の言葉をそのまま要件だと見なさない力です。
顧客が話しているのは、要件そのものではないことが多い。
不満の断片かもしれないし、現場で定着している言い回しかもしれない。
本当は業務の詰まりを訴えているのに、画面の項目追加として語っているだけかもしれない。
たとえば、一覧で見られるようにしたいです、という要望があります。
この言葉をそのまま受け取れば、一覧画面を作る話になります。
でも、少し踏み込むと、月末の確認作業で毎回Excelを手でつないでいるとか、承認待ちの案件だけ追えないとか、担当者ごとに見たい単位が違うとか、実際の痛みはまったく別の場所にあることがある。
つまり、顧客の言葉 = 要件 ではないんです。
顧客の言葉は、要件の入口でしかない。
ここで必要になるのが、確認より前の仕事です。
それは何か。
僕は、業務の翻訳だと思っています。
相手が話した言葉を、仕様に直結させる前に、これは何の仕事の話なのか、誰がどこで困っているのか、今の運用で何が痛いのか、例外はどこで発生するのかを、一度こちらの頭で組み直す。
この工程を飛ばして確認に入ると、確認の精度がいくら高くても、出発点がズレたまま進みます。
上流で起きるズレの多くは、聞き漏れではありません。
翻訳不足です。
相手は、自分の業務をいつも言語化して仕事をしているわけではありません。
むしろ逆です。長くその仕事をしている人ほど、分かっていて当たり前の前提を言葉にしません。
例外処理も、暗黙の優先順位も、部門間の遠慮も、現場の我慢も、省略したまま話します。
だから、こちらがやるべきなのは、質問項目を増やすことだけではありません。
相手が省略している前提を見つけることです。
僕が上流で意識しているのは、少なくとも次の四つです。
まず、何のための作業か。
これは意外と抜けます。
画面を変えたい、帳票を出したい、入力を減らしたい。そういう要望はたくさん出ますが、その作業が何を守るためのものなのかが曖昧だと、あとで優先順位が決まりません。
ミスを減らしたいのか、工数を減らしたいのか、引き継ぎしやすくしたいのか。目的が違えば、同じ要望でも設計は変わります。
次に、誰が困っているのか。
現場と言っても、一人ではありません。入力する人、確認する人、承認する人、問い合わせを受ける人。
同じ業務でも、困り方は立場で変わります。
ここを曖昧にしたまま話を聞くと、声の大きい人の不満だけが要件になります。
三つ目は、どこに例外があるのか。
普段はこうです、の一言で片づく業務ほど危ない。
本当にシステムを壊すのは、毎日ではないけれど必ず発生する例外です。
月末だけ、特定顧客だけ、代理承認のときだけ、締め後の訂正だけ。
現場はその例外込みで仕事を回しています。ここに踏み込まないと、平常時だけ動くきれいな仕様ができます。
四つ目は、今のやり方で何が痛いのか。
時間がかかるのか、精神的に怖いのか、属人化しているのか、二重入力がつらいのか。
同じ 不便 でも、痛みの種類が違えば、変えるべき場所も変わります。
ここを聞かずに、要望だけ拾ってしまうと、見た目は改善しても、現場のしんどさが残ります。
この四つを先に押さえると、確認の意味が変わります。
聞いたことを確認するのではなく、こちらの翻訳仮説が合っているかを確認できるようになる。
ここで、上流SEの差が出ます。
言われた通りに整理する人は、会話の内容をきれいにまとめます。
それはそれで大事です。
でも、業務の意味に踏み込む人は、会話の裏にある構造まで持ち帰ります。
この違いは、すぐには見えません。
会議中は、前者のほうが素直で進めやすく見えることもあります。
けれど後半になるほど差が出ます。
設計の迷いが減り、レビューの論点が絞られ、顧客との認識ズレも小さくなる。
結果として、信頼されるのは後者です。
上流SEは、聞いた内容を漏れなく残す人ではなく、曖昧な言葉のままでは進めない人です。
だからこそ、真面目な人ほど気をつけたほうがいい。
相手の言葉を尊重することと、相手の言葉をそのまま仕様にすることは、同じではありません。
むしろ、本当に相手を助けるには、その言葉のままでは足りないと分かった瞬間に、一歩踏み込む必要がある。
それは失礼ではなく、上流の責任です。
僕は、上流の仕事は、答えを急いで返すことではなく、まだ言葉になっていない業務の輪郭を一緒に見つけることだと思っています。
確認は、そのあとです。
翻訳がない確認は、丁寧な作業に見えて、実は一番危ない。
最近、顧客の話をちゃんと聞いているのに、なぜかあとでズレると感じているなら、質問の量ではなく、その前に自分が何を翻訳しようとしているかを見直したほうがいいかもしれません。
あなたは最近、相手の言葉をそのまま仕様にしていませんか。
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