PMの型を覚えても進まない理由──会議より前に壊れている責任の線
会議はしている。
議事録もある。
タスクも切っている。
それなのに、なぜか進まない。
昨日の会議で話したはずのことが、今日になると別の解釈で戻ってくる。
誰かが持ち帰ると思っていた論点が宙に浮く。
顧客に返すはずだった回答が止まり、現場だけがじわじわ不安になる。
PMをやっていると、こういう場面に何度も出会います。
そのたびに、もっと会議を整えなきゃ、もっと議事録を丁寧にしなきゃ、もっと管理の型を入れなきゃ、と考えやすい。
でも、僕はここで一度立ち止まったほうがいいと思っています。
進まない案件の原因は、会議の進め方そのものより前にあることが多い。
もっと言えば、会議が始まる前の時点で、もう壊れているものがある。
それが、責任の線です。
責任の線というのは、難しい話ではありません。
この論点は誰が決めるのか。
この宿題は誰が持ち帰るのか。
この回答は誰が顧客へ返すのか。
その境目が見えているかどうかです。
この線が曖昧なまま会議をすると、どれだけPMの型を覚えても、案件は前に進みにくくなります。
なぜなら、会議で生まれた論点や宿題や決定事項が、どこにも着地しないからです。
よくある壊れ方は、だいたい三つあります。
一つ目は、相談だけして誰も決めない状態です。
会議の場では意見がたくさん出ます。
論点も見えます。
懸念も洗い出されます。
でも最後に、では誰がこの方針で確定するのか、が置かれない。
すると、その場では合意したように見えても、あとで別の立場の人が違う前提を持ち出し、話が戻ります。
会議が多いのに進まない案件は、たいていここで詰まっています。
二つ目は、宿題だけ増えて閉じない状態です。
次回までに確認します、持ち帰ります、関係者と相談します。
この言葉自体は便利です。
でも、誰が、どこまで、いつまでに閉じるのかが曖昧だと、宿題はただの先送りになります。
しかも厄介なのは、宿題が残っていること自体が共有されにくいことです。
誰もサボっているわけではない。
ただ、責任の線が薄いから、全員の頭の中で優先順位が落ちていく。
その結果、次回会議でまた同じ話をします。
三つ目は、顧客返答が宙に浮く状態です。
現場ではある程度方向性が見えている。
でも、それを誰が顧客にどう返すのかが決まっていない。
すると、開発側は顧客確認待ちだと思い、顧客側はまだ社内で検討中だと思い、PMだけが空気のねじれを感じながら疲れていきます。
案件が止まるときは、大きな対立よりも、こういう小さな未返答の積み重ねで止まることのほうが多いです。
ここで重要なのは、責任の線が曖昧になるのは、誰か一人が悪いからではないということです。
むしろ、優秀で真面目な人が多い現場ほど、この曖昧さを気合いで埋めてしまいます。
本来なら決める人が見えていない。
でも、場を止めたくないから誰かが整理する。
本来なら持ち帰る人が曖昧。
でも、抜けると怖いからPMが一旦持つ。
本来なら顧客に返す窓口がはっきりしない。
でも、空白を作りたくないから、誰かが善意でつなぐ。
こうして案件は一見回っているように見えます。
けれど実際には、責任の線が個人の頑張りで上塗りされているだけです。
この状態では、PMの型を覚えるほど苦しくなることがあります。
なぜなら、型を回すほど、曖昧な責任の穴が見えてしまうからです。
では、何をそろえればいいのか。
僕は、最低限三本の線だけでいいと思っています。
まず、決定の線。
この論点を最後に決める役割は誰か。
意見を出す人ではなく、決める人です。
次に、実行の線。
決まったことを持ち帰って、次の動きに変える役割は誰か。
確認、調整、資料修正、依頼発行。
ここが曖昧だと、会議のあとに現実が動きません。
最後に、返答の線。
顧客や上位者や他部署に、何をどう返す役割は誰か。
ここが薄いと、案件は社内で整理されたように見えても、外との接続で止まります。
この三本を置くだけで、会議の質はかなり変わります。
逆に言えば、アジェンダやファシリテーションの工夫だけでは変えきれない領域がある、ということです。
もう一つ、大事なのは、人名ではなく役割名で置くことです。
田中さんが決める。
佐藤さんが持ち帰る。
山本さんが返答する。
こう置くと、その人がいない瞬間に線が消えます。
でも、業務責任者が決める。
開発リーダーが持ち帰る。
顧客窓口が返答する。
こう置くと、役割が残ります。
案件は、人ではなく役割で回るべきです。
もちろん最初は特定の人が担うでしょう。
ただ、整理の単位を人にすると、引き継げないし、代理も立てにくいし、責任の所在が感情的になります。
役割名で置くと、誰がその席に座っているかが見えやすくなり、会議のたびに責任を再定義しなくて済みます。
PMの仕事は、会議を増やすことではありません。
議事録を美しく残すことでもありません。
進捗表を細かく埋めることでもありません。
本質は、責任の線を引くことです。
誰が決めるのか。
誰が動かすのか。
誰が返すのか。
この線が見えるだけで、会議はただの会話から、案件を前に進める装置に変わります。
逆に、この線がないままでは、どれだけPMの技法を覚えても、現場は静かに消耗します。
進んでいるふりはできる。
でも、本当の意味では進まない。
そして最後に、なぜこんなに疲れているのか分からなくなる。
もし今、会議体も資料もそろっているのに進まない案件があるなら、会議の質を疑う前に見たほうがいいものがあります。
その論点の最後に、責任の線は引けているか。
今の案件で、最後に決める人は本当に見えていますか。
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