役職が上がる前に、仕事の難しさはどこで変わる?──SE・PM・PMOの分岐点を比べて見えること
次に何を目指すべきかを考えるとき、つい肩書きで見てしまうことがあります。
SEの次はPMなのか。
PMをやるならPMOも視野に入れるべきか。
役職が上がるほど、年収も上がるのか。
上流に行けば、今より評価されやすくなるのか。
でも、ここでひとつ見落とされやすいことがあります。
それは、役職が上がると仕事が難しくなる、というより、仕事の難しさの種類そのものが変わる、ということです。
僕はこの違いを見ずに次の役割を選ぶと、あとでかなり苦しくなると思っています。
なぜなら、人は意外と、仕事量そのものではなく、自分に合わない種類の負荷で消耗するからです。
忙しいことより、曖昧さに耐え続けることがきつい人もいる。
責任を背負うことより、人と決めることのほうが重い人もいる。
逆に、設計書を詰めるより、利害調整の場に立つほうが自然な人もいます。
だから、次のキャリアを考えるときに見るべきなのは、格上かどうかではありません。
どの難しさを引き受ける仕事なのか。
まずはそこを見たほうが、判断を誤りにくいです。
SEの難しさは、曖昧なものを具体に落とすところにある
SEの仕事は、単にシステムを作ることではありません。
現場では、顧客の言葉、業務の事情、運用の制約、技術の条件が、きれいに揃った状態で渡されることはほとんどないはずです。
つまりSEは、曖昧な要求を、作れる形まで具体に落とす役割を担っています。
ここでの難しさは、主に三つあります。
ひとつ目は、言葉の翻訳です。
顧客は業務の困りごとを話していて、開発側は仕様の形で受け取りたい。
この間にはかなり大きな溝があります。
SEはその溝を埋めないといけません。
ふたつ目は、抜け漏れとの戦いです。
機能だけ見ればよいわけではなく、例外、運用、権限、性能、保守まで考えないと、後で痛い目を見ます。
表面上は静かな仕事に見えても、実際には先回りの連続です。
みっつ目は、曖昧さを抱えたまま進めることです。
全部が決まり切ってから着手できる案件は少ない。
だからSEは、不確定要素を抱えたまま、どこまで決め、どこを保留にし、どこを確認に戻すかを判断し続ける必要があります。
SEに向いている人は、技術が好きな人だけではありません。
曖昧なものを整理して、論点を切り出し、具体に落とすことにあまり苦痛を感じない人です。
PMの難しさは、正解のない中で人と決めるところにある
PMになると、景色が変わります。
自分で手を動かして解くより、チームと関係者を動かして前に進める比率が一気に上がります。
ここで重くなる難しさは、情報処理そのものより、意思決定の負荷です。
何を優先するのか。
どこで止めるのか。
誰に確認し、どのタイミングで決めるのか。
品質、納期、コストのどれを守り、どれを調整するのか。
PMは、この種の問いから逃げられません。
しかも厄介なのは、関係者ごとに正しさが違うことです。
現場は無理だと言う。
顧客は早く欲しいと言う。
上司は予算を気にする。
ベンダーは契約範囲を主張する。
その中で、全員が完全に満足する答えはたいてい存在しません。
だからPMの仕事は、正解を見つけることより、納得できる不完全な答えを決めることに近いです。
この負荷がきつい人は多いです。
技術力がある人でも、決めることより、決めた後の責任のほうで消耗することがあります。
逆に、多少情報が足りなくても、関係者の温度差を見ながら前に進められる人は、PMで強みが出やすいです。
PMで問われるのは、万能感ではありません。
曖昧な局面で、自分が引き受けるべき責任の範囲を決める力です。
PMOの難しさは、前に出すぎず、でも全体を崩さないところにある
PMOは、外から見ると少し分かりにくい役割かもしれません。
でも実際には、かなり独特な難しさがあります。
PMOは、自分が最終意思決定者ではないことが多い。
一方で、進捗、課題、リスク、会議体、報告、関係者整理など、プロジェクト全体が崩れないための土台を整え続ける必要があります。
つまりPMOの難しさは、責任が軽いことではなく、権限が限定されたまま全体を整えることにあります。
この役割で必要なのは、派手な判断より、情報の構造化です。
何が決まっていて、何が未決なのか。
誰が持っていて、どこが抜けているのか。
問題が起きたとき、それが個別論点なのか、運営の欠陥なのか。
それを見える形にして、関係者が動ける状態をつくる。
PMが前線で決める人だとしたら、PMOは決められる状態を維持する人です。
ここに向く人は、目立つことより、全体の乱れを整えることに手応えを感じる人です。
逆に、自分で決めたい、前に出たい、裁量を強く持ちたいという人は、PMOを窮屈に感じやすいかもしれません。
分岐点で見るべきは、能力の上下ではなく、どの負荷で削られるか
SE、PM、PMO。
この三つを並べたとき、どれが上でどれが下か、という見方をすると、かなりズレます。
本当はそうではなくて、負荷の種類が違うだけです。
SEは、曖昧な要求を具体に落とす負荷が大きい。
PMは、人と決める負荷と責任を背負う負荷が大きい。
PMOは、情報を整え、全体を崩さない負荷が大きい。
だから、次の役割を考えるときは、自分の強みを広く言うだけでは足りません。
次の四つで見たほうがいいです。
人と決める負荷に耐えられるか。
情報を整える負荷が苦にならないか。
責任を背負う場面で逃げずにいられるか。
曖昧さを抱えたまま進めることに耐えられるか。
ここを見ずに、年収、肩書き、周囲の期待だけで選ぶと、役職は上がっても、仕事はしんどくなるだけです。
逆にここが見えてくると、選び方が変わります。
SEの延長で上流に行くのか。
PMとして前に立つのか。
PMOとして全体最適を支えるのか。
それぞれに必要な覚悟が違うからです。
役職が上がる前に、自分が引き受けたい難しさを知っておく
キャリアの分岐点では、できるかどうかを考えがちです。
でも実際には、できることより、続けられることのほうが重要です。
一時的に頑張れても、毎日その難しさを引き受けるのがしんどいなら、長くは続きません。
逆に、周囲からは地味に見えても、自分にとって自然に引き受けられる難しさなら、そこが強みになります。
役職が上がる前に考えておきたいのは、どの仕事が格上に見えるかではなく、どの難しさなら自分は崩れずに持ちこたえられるかです。
その視点があるだけで、肩書きに振り回されにくくなります。
そして、選んだ後に後悔する確率も下がります。
あなたが一番消耗しやすいのは、どの種類の難しさですか。
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