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「大丈夫です」で進む要件ほど危ない──業務部門の違和感を拾う上流SEの見方

要件定義の会議で、業務部門から「大丈夫です」と言われることがある。

画面案を見せる。
業務フローを説明する。
運用手順を確認する。

すると、相手は少し考えたあとで「大丈夫です」と言う。

その場では、合意が取れたように見える。議事録にも、確認済みと書ける。プロジェクトとしても、次に進める材料になる。

ただ、上流SEとして少し経験を積むと、この「大丈夫です」が必ずしも安全な合意ではないことに気づく。むしろ、あとで揉める要件ほど、会議の中ではきれいに進んでいることがある。

僕は、要件定義で一番危ないのは、相手が強く反対している場面ではないと思っている。反対しているなら、まだ論点は表に出ている。危ないのは、違和感があるのに、言葉にならないまま「大丈夫です」で閉じてしまう場面である。

「大丈夫」は、合意ではなく保留かもしれない

業務部門の「大丈夫です」には、いくつかの意味が混ざっている。

本当に問題ないという意味もある。

ただ、それだけではない。
今すぐ反論する材料がない。
細かい運用までは想像できていない。
他部署との調整が必要だが、この場では言いにくい。

説明された内容は理解したが、現場に戻したときの反応までは分からない。
システム側の言葉に合わせているだけで、自分たちの業務の言葉にまだ変換できていない。

こういう状態でも、人は「大丈夫です」と言う。

これは業務部門が悪いという話ではない。会議の場で、瞬時に影響範囲を整理し、現場運用まで想像し、関係者の反応まで見通して発言するのは簡単ではない。とくに相手がIT側の資料や用語で説明している場合、業務部門は理解しているように見えても、頭の中ではまだ翻訳途中のことがある。

だから上流SEは、「大丈夫です」をそのまま合意として扱いすぎないほうがいい。

大事なのは、相手を疑うことではない。
相手の中でまだ言葉になっていない違和感を、こちらが拾える形にすることである。

危ないのは、機能の確認だけで終わること

要件確認でよく起きる失敗は、機能が使えるかどうかだけを確認してしまうことだ。

この画面で登録できますか。
この項目で足りますか。
この承認フローで問題ありませんか。
この帳票が出れば大丈夫ですか。

もちろん、これらは必要な確認である。ただし、機能単位の確認だけでは、業務上の違和感は拾いにくい。

なぜなら、現場で問題になるのは、機能そのものよりも、その機能が使われる前後にあることが多いからである。

誰が入力するのか。
いつ入力するのか。
入力前に何を確認するのか。
間違えたとき、誰が直すのか。
承認者が不在のとき、業務は止まるのか。
例外処理は、システム外で逃がすのか、システム内で扱うのか。

ここまで聞かないと、業務部門の「大丈夫です」は、かなり粗い粒度の合意にとどまる。

会議で提示した要件が正しく見えても、日々の業務の中では、担当者の手順、責任、タイミング、例外対応が重なっている。上流SEが見るべきなのは、機能が成立しているかだけではなく、その機能が業務の流れの中で無理なく置けるかである。

違和感は、言葉より反応に出る

業務部門の違和感は、はっきりした反対意見として出てくるとは限らない。

むしろ、最初は小さな反応として出る。

一瞬、返事が遅くなる。
確認する視線が別の人に向く。
「基本的には」という言葉がつく。
「たぶん」「通常は」「今のところは」が増える。
質問ではなく、独り言のような補足が出る。
会議後に、別件として小さな確認が飛んでくる。

こういう反応は、要件定義ではかなり重要である。

たとえば、相手が「通常はこの流れで大丈夫です」と言ったなら、上流SEが拾うべきなのは、大丈夫という結論より、通常はという前提である。通常ではないケースがどれくらいあるのか。その場合、誰が判断しているのか。現行運用では、どこで吸収しているのか。そこを聞かないまま進めると、後で例外が仕様の外から押し寄せてくる。

「今のところは問題ありません」も同じである。今のところという言葉には、将来変わる可能性、他部署確認が残っている可能性、制度や運用ルールが固まっていない可能性が含まれている。

上流SEの仕事は、相手の発言を責めることではない。
曖昧な言葉の中に残っている前提を取り出し、決めるべき論点に変えることである。

聞くべきなのは、本音ではなく業務条件

ここで注意したいのは、業務部門の本音を引き出そうとしすぎないことである。

「本当はどう思っていますか」と聞いても、相手は答えにくい。会議の場では立場もあり、部署間の関係もあり、発言には制約がある。だから、本音を聞きにいくより、業務条件を聞きにいくほうが実務では効く。

たとえば、こう聞く。

この流れで困るとしたら、どのタイミングですか。
現場で例外が起きるとしたら、どのケースですか。
この入力を忘れやすいのは、どの担当者ですか。
この承認が止まったとき、業務上どこまで影響しますか。
いまの運用で、人が気を利かせて吸収しているところはありますか。
この要件を現場に説明したとき、最初に質問されそうなのは何ですか。

こう聞くと、相手は感情や本音ではなく、業務の話として答えやすくなる。
「現場は嫌がりそうです」と言われたら、そこで終わらせない。何を嫌がりそうなのか。作業が増えるのか。判断が増えるのか。責任が曖昧になるのか。入力タイミングが現実と合わないのか。そこまで分解すると、違和感は要件に戻せる。

上流SEに必要なのは、強い質問を投げることではない。相手が答えやすい単位まで、問いを小さくすることである。

「合意したはず」を減らすには、未確定を残す

要件定義で後から揉めるとき、よく出てくる言葉がある。

「合意したはずです」
「確認済みです」
「そのときは大丈夫と言っていました」

これは事実としては正しいかもしれない。ただ、実務上はあまり強い言葉ではない。なぜなら、合意した内容の粒度が粗かった可能性があるからである。

本当に残すべきなのは、単なる合意ではなく、何が確定し、何が未確定で、どの前提で大丈夫と言ったのかである。

たとえば、議事録にはこう残す。

通常処理は現行業務と整合しているため、現時点では問題なし。
ただし、月末締め処理時の例外対応は業務部門内で確認中。
承認者不在時の代替判断者は未確定。
現場説明時に追加質問が出た場合、次回会議で論点化する。

このように残しておけば、「大丈夫です」を雑に確定扱いしなくて済む。むしろ、業務部門にとっても安全である。言い切れなかった不安を、未確定論点として残せるからだ。

上流SEの価値は、すべてをその場で決め切ることではない。決まったことと、まだ決めてはいけないことを分けることにある。

上流SEは、沈黙を成果物に変える仕事でもある

上流SEというと、要件を整理する人、業務を理解する人、顧客と会話する人というイメージがある。

それは間違っていない。

ただ、もう一段深く言うなら、上流SEは、沈黙や違和感を成果物に変える仕事でもある。

会議で誰も反対しなかった。
だから問題ない。

これは、かなり危ない判断である。

本当に見たいのは、反対がなかったことではなく、業務部門が自分たちの言葉で説明できるところまで理解できているかである。現場に戻ったとき、その要件を誰にどう説明できるか。例外が起きたとき、誰が判断できるか。運用に乗せたとき、どこに負荷が移るか。

そこまで見えて初めて、「大丈夫です」は合意に近づく。

上流SEの仕事は、相手の言葉を疑うことではない。相手の言葉が業務の現実に耐えられるかを、一緒に確認することだと思う。

「大丈夫です」と言われたとき、そこで安心するか。

それとも、どの条件なら大丈夫なのかをもう一歩だけ見にいくか。

その小さな差が、後工程の手戻りや、現場に残る不満を大きく変える。

あなたは最近、業務部門の「大丈夫です」の奥にある前提を、どこまで拾えているだろうか。

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