「連れ去られた男」第二話
あらすじ 見知らぬ宇宙人によって異星に連れ去られた地球人男性。
体力、若さ、記憶を奪われ施設に隔離されるも何とか抵抗や脱出を試みる。だがうまくいかず、ない記憶から自分とは何者なのかを自問自答する。その結果は…。
俺を狼藉したいだけして医師らしい男と看護師らしい女二人は、去っていった。俺はぐったりしてボーとしていた。ぼんやりと部屋を眺めていたらあることを気付いた。それは、ここに住む宇宙人は、地球から俺を連れ去った生物と違い、我々人間とよく似ているということだ。少なくとも俺がいる建物に限ってということになるが、地球人と見分けがつかない。本当に裸の猿と言っていい。裸の猿と言っても服を着ているのは地球人と同じだ。でも奇妙な宇宙服を身に纏っている。オレンジとか黄色とか派手な色を着ているのだ。下はスラックスのようなものを、靴は流行りの白スニーカーのようなものを履いている。それによくあちこち歩き回っている。休むことを知らずに。体力は無尽蔵にあるようだ。
俺に危害を加えることは今のところない。むしろ逆に甲斐甲斐しく世話をしてくれる。連れ去られた時に頭にはめられた輪っかのせいで体力も奪われたので、ちょっとした暴力であの世に行ってしまいかねないからだろう。
それどころか食事の時は上げ膳据え膳だ。まるで一流ホテルの上顧客のように扱ってくれる。スプーンで俺の口まで運んでくれることもあるが、余計なお世話だ。メシくらい自分の好きなように喰いたい。そう思わないか。
メシ自体は正直ウマい。しかし困ったことがある。全部ゼリー状なのだ。これが宇宙食なのか。白飯なら白いゼリー、味噌汁なら茶色のゼリー、きゅうりの糠漬けなら緑のゼリーなのだ。全部それらしき味が付いている。今回のおかずは肉じゃがだった。そう!色は茶色いゼリーだが、噛むとジャガイモと肉のつぶつぶのようなものがあるのが分かる。ウマいが味気ない食事だ。すぐに飽きてしまうかも知れない。
食べ終わったらその後は泥のように寝てしまった。こんな夢を見た。俺の父母が川辺にいて反対側にいる俺にこっちにおいでと手招きしている。俺が子供だった頃の両親の姿だ。多くの記憶は奴らに奪われたが、父母の顔を覚えていた。でも名前は思い出せない。嬉しくなり間近に見たいと思い、俺は川を素足で渡り向こう岸まで着くと抱きしめてくれると思いきや、「誰だ、お前は!」と親父に怒鳴られた。お袋は「キャー」と叫び声を上げ、泣き出した。それから親父に俺は川に叩きつけられた。来る時は浅瀬だったのに深くなっている。どこまで潜っても川底になかなかたどり着けない。息が続かずそのまま土左衛門になりそうなところで目が覚めた。悪夢だ。うなされたはずだ。寝汗で身体中がベトベトになっていた。
地球にとっての太陽の存在のような恒星が、この星 -俺が連れ去られた星-にもあるのだろう。朝日のような眩しい光が俺のいる部屋に差し込むと俺は宇宙人に叩き起こされる。そして奇妙な動きをさせられる。体中の関節をぐにゃぐにゃと五分から十分くらいかけて折り曲げさせられる。終わる頃には体はぐったり、汗でびっしょりだ。着替えはタンスから出してきた。白黒チェックのシャツに黒のスラックスを宇宙人は持ってきた。俺は素直に着た。汗で濡れた服をさっさと換えたかったからだ。
それから第一食となるのだ。地球と同じようなパンの朝食のようだ。俺はパン食が嫌いだ。日本人の朝食はコメだと相場が決まっている。そんなことも奴らは知らんのか。知る訳ないなアイツら宇宙人だもの。トーストはそれに似たゼリー。サクサク感のあるゼリーは気色悪い。しかもバターといちごジャムの味がする。宇宙食なのか?目玉焼きらしいゼリー。白身のパリパリ感があり温かい。絶対に間違っている。サラダのようなゼリー。アスパラガス、レタス、トマトが個別のゼリーになっている。しかもトマトは湯掻いていないので皮がそのまま残っている。俺は生のトマトが食べられない。吐き出してしまった。そうしたらゼリーを口に運んでくれた見た目が地球の女の宇宙人が「しょうがないわね」という顔付きで吐き出したトマトを拭いてどこかに去っていった。
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