「連れ去られた男」第一話
あらすじ 見知らぬ宇宙人によって異星に連れ去られた地球人男性。
体力、若さ、記憶を奪われ施設に隔離されるも何とか抵抗や脱出を試みる。だがうまくいかず、ない記憶から自分とは何者なのかを自問自答する。その結果は…。
この惑星に連れ去られてもう何年経つのだろう。ある日それまで見たこともない生物が俺の家に押し込んできた。無理やり俺の頭に輪っかを付けると、物凄い電流が頭の中を走った。そうするとこれまでの人生、生活、家族、友人、そして自分の名前さえも、そいつらに奪われた。俺が誰か分からないのだ。俺が何をしたというのだ。混乱と不安とが混ざり合う、これまで感じたことのない感情に襲われた。そんな状態で車に乗せられた。工事現場によくあるような立方体にタイヤが付いている黒い車だ。その車は少し走り出すとすぐに空を飛び、大気圏を抜け、地球を飛び出した。そしてこの星に着いた。
星に降り立つと辺り一面殺風景だった。本当に何もないのだ。枯れ草さえもない、ただ飄々と寒々しい風が吹いていた。そこにポツンと三階建てに見えるマンションのような建物に入れられた。車から建物まで歩かされた訳ではなく、ゴルフ場にあるようなカートに乗せられて中に入った。
建物に入ると部屋というか牢獄のようなところに閉じ込められた。一人用で、ベッド、トイレ、洗面台そしてタンスがある。入り口は木でできた引き戸があり、反対側に陽を取り入れるための大きなガラス窓があった。殺風景というしか形容のしよがない部屋だった。その部屋をぐるっと見合わすとすぐに医師っぽい宇宙人がそこに入ってきた。地球の医者と同じ白衣を着ていて見た目は日本男性と変わらない。看護師らしき者を二人引き連れて。その二人も白衣を着ていたが、髪の付け根をゴムで結いていた。見た目は馬の尻尾のような髪型だ。そいつらは、この建物に入る時に乗っていたカートから俺を持ち上げ車椅子に俺を移した。
すぐに体温計を口に突っ込まれた。ピーという音が鳴ると医者らしき男は体温計を俺の口から引き抜き、カルテのようなものにさも不機嫌そうに記入していた。次に血圧を測る。数値が出ると不機嫌にその値を書く。今度は俺の目を広げてライトで俺の目を照らす。光が強すぎて何も見えない。それが終わると服の上から聴診器を当てられた。俺の体に何の問題もない。自分のことは自分が一番分かっている。いちいちイラつかせる。あまりにも腹が立ったので怒鳴り散らしてやった。そうしたら女どもが俺をあやしてくる。俺が怒鳴ったのはお前達のせいだ。お前逹が何もしなければ俺はおとなしくしていた。思い出したぞ。俺は紳士なんだ。ちゃんとした対応をすれば俺は紳士的に接するのだ。着ている服を見てみろ。ん。運動着。しかもよれよれのジャージじゃないか。連れ去られた時には住んでいた家にいたので部屋着を着ていたのか。これじゃ俺が紳士と言ったところで誰も信じないな。俺はそう思いながら、「フフフ」と照れ笑いともいえない引きつった笑みを浮かべた。そうしたら男一人、女二人の例の連中がつられたかのように破顔一笑した。その笑顔を見たらまたイラついてきた。
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