伸びない時期に「とにかく耐えるしかない」と思っていたが、それは半分しか合っていなかった
数字が伸びない時期は、必ずやってくる。
こういうとき、よく言われるアドバイスは「とにかく続けること」「我慢して継続すること」だ。実際、自分もそう思っていた。伸びないなら、耐えて、同じことを続けていれば、いつか報われる。そう信じて、しばらく同じやり方を繰り返していた時期があった。
でも、振り返ってみると、状況が変わり始めたきっかけは「耐えたこと」そのものではなかった。やり方を変えてみたこと、つまり試行錯誤だった。
「継続が大事」という結論は、半分しか合っていなかった。同じことをただ我慢強く繰り返すことと、試行錯誤しながら続けることは、似ているようでまったく別の行動だ。
検証:何が停滞を動かしたか
停滞期にやっていたことを分けてみる。
同じやり方をそのまま繰り返していた期間 → 数字は動かなかった
やり方を変えてみた(構成を変える、切り口を変える、書く時間を変えるなど)期間 → 変化が生まれ始めた
この違いを見ると、「継続」というひとくくりの言葉の中に、実は2種類の行動が混ざっていたことが分かる。一つは「同じことを繰り返す我慢」、もう一つは「試しながら続ける工夫」。停滞を動かしたのは、明らかに後者だった。
理論での言語化:グリットは「我慢」ではない
ここで参考になるのが、心理学者アンジェラ・ダックワースが提唱したグリット理論(GRIT)だ。
グリットは日本語では「やり抜く力」と訳されることが多く、そのせいで「歯を食いしばって我慢する力」と誤解されやすい。しかし、グリットという言葉自体は4つの要素の頭文字から成り立っている。
Guts(不屈の闘志):困難に立ち向かう度胸
Resilience(復元力):うまくいかなくても折れずに立ち直る力
Initiative(自発性):自ら工夫し、自分の意志で行動を変えていく力
Tenacity(執念):粘り強さ、こだわり
つまり、グリットには最初から「自ら工夫し行動を変える」という要素が組み込まれている。単に同じことを我慢強く繰り返す力ではなく、うまくいかない現実を受け止めた上で、やり方そのものを調整し続ける力が含まれているということだ。
停滞期に必要だったのは、「同じことをひたすら我慢する力」ではなく、「うまくいかない現実を受け止めた上で、やり方を工夫し試し続ける力」だった。これはグリットの一部として、最初から理論に織り込まれていたものだった。
この理論の限界:グリット全体を鵜呑みにしない
ここで、フェアであるために触れておきたいことがある。グリット理論は出版後、学術界から厳しい検証を受けており、その結果は手放しで支持できるものではない。
心理学者クレデらによる再検証や、双子研究で知られるリムフェルドらのメタ分析では、グリットを「一貫性(興味の一貫性)」と「忍耐(努力の粘り強さ)」の2因子に分解した上で、学業成績への影響を調べている。その結果、「一貫性」の因子は、性格特性の一つである誠実性を統制すると、ほとんど説明力を持たなくなることが分かった。
学業成績の分散に対して性格特性が5.5%を説明するのに対し、グリットが追加で説明できる分はわずか0.5%にとどまるという報告もある。
一方で、「忍耐(努力の粘り強さ)」の因子だけは、誠実性を統制してもわずかに独自の説明力を持つことが示されている。
つまり、グリットという概念のうち、「情熱を一貫して持ち続けること」の部分は、既知の性格特性とほぼ重なってしまい、目新しい説明力は乏しい。一方、「うまくいかなくても粘り強く工夫し続けること」の部分だけは、わずかながら独自の効果が残る。
これは今回の記事の主張とも整合的だ。停滞期に効いていたのは、「情熱を一貫して持ち続ける」ことではなく、「工夫しながら粘り強く試し続ける」ことだった。グリット理論を都合よく丸ごと引用するのではなく、研究で実際に支持されている部分(忍耐・工夫)にだけ絞って参照するほうが、誠実な使い方だと言える。
なぜ「我慢」だけでは危険なのか
この違いを軽視すると、実務上どういうリスクがあるか。
「継続あるいは我慢が大事」とだけ理解していると、停滞期に同じやり方をひたすら繰り返してしまう。うまくいかない原因が「やり方」ではなく「自分の忍耐力不足」だと誤診してしまい、精神論で乗り切ろうとして消耗するリスクがある。
一方、「試行錯誤も継続の一部」だと理解していれば、停滞期は「やり方を検証するフェーズ」として扱える。数字が動かないこと自体を、失敗ではなく仮説検証の材料として使える。
実務ツール:停滞期の試行錯誤ログ
停滞を感じたときに使える、シンプルな週次ログのフォーマットだ。
今週試したこと (例:見出しの構成を変えた、投稿時間を変えた、テーマの切り口を変えた)
変化があったか (数字・反応・自分の手応え、どれでもよい。「変化なし」も立派な記録)
来週試すこと (今週の結果を踏まえて、次に何を変えるか)
このログを3〜4週間分並べてみると、「ただ耐えていた期間」と「工夫して試していた期間」が可視化される。停滞を感じたときほど、我慢するより先に、このログを埋めることを優先するとよい。
伸びない時期の意味
伸びない時期は、たしかにつらい。でも、その時期に必要なのは「歯を食いしばって同じことを続ける我慢」ではなく、「うまくいかない現実を受け止めた上で、やり方を試し続ける工夫」だった。
継続という言葉を、我慢の同義語にしないこと。停滞期こそ、試行錯誤の記録を積み上げる時期だと捉え直すこと。それが、次に数字が動き出すための、一番地味だが確実な準備になる。
参考にした情報
グリット/GRIT/やり抜く力とは?(カオナビ人事用語集):https://www.kaonavi.jp/dictionary/grit/
やり抜く力=GRIT(グリット)を身につけよう!(人事ラボ):https://www.jinjilab.jp/article/column/grit
非認知能力とGritは本当に有効か?(Credé・Rimfeldらのメタ分析の解説):https://note.com/rikaedu/n/na62f2fd666d5
