あなたの会社の「ミドルレンジ」はどこにあるのか?
価格競争から抜け出し、自社の強みで選ばれる会社になるために
「大手企業のような価格では勝負できない。でも、高級ブランドのような知名度もない」。
そんな悩みを抱える中小企業は少なくありません。
しかし、勝負する場所は、安さか最高級かの二択ではありません。
この記事では、自社の強みを生かせる「ミドルレンジ」を見つけ、社員とともに育てていく考え方をお伝えします。
開業18年目42歳の社労士・キャリアコンサルタント・産業カウンセラー・コーチングコーチ。労務、キャリア、心の支援を通じて、働く人と会社のよりよい関係づくりを発信します。
「安くしなければ売れない」と思っていないでしょうか
経営者の方と話をしていると、価格についての悩みをよく耳にします。
「他社より高いと選ばれないのではないか」
「値上げをしたら、お客様が離れてしまうのではないか」
「大手と同じようなサービスを、少しでも安く提供しなければならない」
中小企業にとって、価格は簡単な問題ではありません。
仕入価格は上がる。
人件費も上げたい。
設備投資も必要になる。
一方で、販売価格を上げれば、お客様から厳しい反応が返ってくるかもしれません。
会社を守り、社員の雇用を守る責任がある経営者ほど、慎重になるのは当然です。
だからこそ、気がつけば「とにかく安くする」「他社に合わせる」という判断をしてしまうことがあります。
しかし、安さだけで勝負を続けると、会社にも社員にも無理が積み重なります。
利益が残らなければ、社員の給与を上げることができません。
人材育成や設備への投資も難しくなります。
余裕がなくなれば、一人ひとりの負担が増え、職場の雰囲気にも影響します。
値下げによって一時的に仕事が増えても、その仕事が会社を強くするとは限りません。
では、大手でもなく、高級ブランドでもない中小企業は、どこで勝負すればよいのでしょうか。
その答えの一つが、「ミドルレンジ」です。
日本一になった中小企業の社長から聞いたこと
私は以前、ある分野で日本一になった中小企業の社長から、会社づくりについて話を聞く機会がありました。
その会社が選んだのは、最も安い商品やサービスを提供する市場ではありませんでした。
かといって、一部の限られた顧客だけを対象とする、最高価格帯の市場でもありません。
自社が持っている強みを生かしながら、お客様が品質と価格の両方に納得できる「ミドルレンジ」で勝負したのです。
ただし、最初からうまくいったわけではありません。
新しいことに取り組んでも、思うような結果が出ない。考えていたものと、お客様が求めているものが違う。社員に考えが十分伝わらず、社内の足並みがそろわない。
そのようなこともあったそうです。
それでも、経営者だけで答えを出そうとはせず、社員と一緒に取り組み続けました。
試して、振り返って、修正する。
うまくいかなければ、やり方を変える。
一度決めたことに固執するのではなく、何度もトライ&エラーを繰り返す。
すぐに結果が出なくても、あきらめずに続ける。
そうした積み重ねが、やがて結果につながりました。
会社の業績がよくなり、社員の待遇もよくなる。そして、その会社が地域にとって必要な存在になっていく。
私はこの話を聞き、会社の強みとは、社長一人のひらめきによって生まれるものではないと感じました。
社員と一緒に考え、試し、失敗し、改善する。
その過程そのものが、簡単にはまねされない会社の強みになっていくのです。
ミドルレンジとは、単なる「中間価格」ではない
ミドルレンジという言葉を聞くと、「高い商品と安い商品の中間」と考えるかもしれません。
もちろん、価格帯としての意味もあります。
しかし、中小企業が考えるべきミドルレンジは、単なる中間価格ではありません。
私は、次のように捉えています。
ミドルレンジとは、自社の強みと、お客様が納得して支払える価値が重なる領域です。
たとえば家具であれば、最高級のオーダーメイド家具と、価格を抑えた量産家具の間に、品質、耐久性、デザイン、修理対応などを重視する市場があります。
飲食店であれば、高級店と低価格店の間に、「普段より少し特別な日に、安心して利用できる店」という領域があります。
製造業であれば、大量生産品と完全な一点物の間に、「小ロットでも柔軟に対応し、一定以上の品質を短い納期で提供する」という領域が考えられます。
サービス業でも同じです。
最低限のサービスを安く提供するのではなく、必要な説明、相談、アフターフォローを含めて、お客様が安心して任せられる状態をつくる。
そこにもミドルレンジがあります。
大切なのは、価格表の真ん中を探すことではありません。
「自社だから提供できる価値」と「お客様が求めている価値」が重なる場所を探すことです。
自社の強みは、社内では当たり前になっている
「自社には特別な強みなどない」
そう考える経営者もいらっしゃいます。
長く同じ仕事をしていると、自社が日常的に行っていることを、特別な価値として認識しにくくなります。
たとえば、次のようなことです。
・問い合わせに対する返事が早い
・小さな注文にも丁寧に対応する
・納品後の相談にも応じている
・社員が商品の使い方を詳しく説明できる
・急な変更に柔軟に対応している
・地域の事情や顧客の特徴をよく理解している
・古い商品でも修理や部品交換に対応できる
・現場の社員が改善案を出している
社内では「普通にやっていること」でも、お客様にとっては選ぶ理由になっている可能性があります。
むしろ、長年続いている会社ほど、本人たちが気づいていない強みを持っています。
創業から積み重ねてきた信用。
社員が持つ技術。
お客様との関係性。
地域で培ってきた情報。
困ったときに相談できる安心感。
これらは、短期間で簡単にまねできるものではありません。
ブランディングというと、ロゴを変えることや、おしゃれなホームページをつくることを想像するかもしれません。
それらも大切ですが、ブランディングの土台は見た目ではありません。
「私たちは、誰に、どのような価値を届ける会社なのか」を明確にすることです。
自社の強みを言葉にし、その強みが必要とされる市場で勝負する。
それが、中小企業にとってのブランディングの出発点になります。

「何でもできます」は、差別化になりにくい
仕事を断りたくないという気持ちから、対象を広げすぎてしまう会社があります。
「どのようなお客様にも対応します」
「何でもできます」
「価格もできる限り合わせます」
一見すると、お客様を大切にしているように見えます。
しかし、何でも引き受ける状態が続くと、自社が何を得意としているのかが分かりにくくなります。
社員も、何を優先すべきか判断できません。
安さを求めるお客様、高い品質を求めるお客様、短い納期を求めるお客様、細かな対応を求めるお客様。
すべての要望に応えようとすると、現場に無理が生じます。
会社の方向性が曖昧なまま、「お客様のために」と社員の善意や責任感に頼れば、やがて疲弊につながります。
経営者が決めなければならないのは、何をするかだけではありません。
何をしないか、誰に選ばれたいかを決めることも経営です。
ミドルレンジを明確にするとは、お客様を切り捨てることではありません。
限られた人員、時間、設備を、自社が最も価値を発揮できる場所に集中させることです。
強みは、社長室だけでは見つからない
自社のミドルレンジを考えるとき、経営者だけで答えを出そうとしないことも大切です。
お客様と日々接している社員は、経営者が知らない情報を持っています。
営業担当者は、お客様が価格以外の何を評価しているかを知っています。
製造や施工の担当者は、他社には難しい技術や工夫を知っています。
事務担当者は、お客様からよく寄せられる質問や不満を知っています。
若手社員は、これまで社内で当たり前とされてきた方法に、疑問を感じているかもしれません。
ただし、「何かよいアイデアはないか」と聞くだけでは、意見は出にくいものです。
経営者や管理職が答えを決めた状態で意見を求めると、社員は「社長が望む答え」を探します。
本音を引き出すためには、問い方を変える必要があります。
たとえば、次のような問いです。
「お客様から、よく感謝されることは何だろう」
「他社では断られたが、当社では対応できた仕事はあるだろうか」
「価格以外の理由で、当社を選んでくださっているお客様は誰だろう」
「現場では当たり前だが、実は難しい仕事は何だろう」
「利益が残り、社員にも無理がなく、お客様にも喜ばれる仕事は何だろう」
会議で立派な言葉をつくることが目的ではありません。
日々の仕事の中にある具体的な事実を集めることが大切です。
社員の意見を聞くことは、経営判断を社員に任せることではありません。
最終的に方向を決める責任は経営者にあります。
しかし、現場の情報を集めずに決めることと、社員の知恵を生かして決めることでは、判断の質も、実行するときの納得感も変わります。
トライ&エラーは、「何となく続けること」ではない
挑戦を続けることは大切です。
ただし、うまくいかない方法を、同じ形のまま繰り返すことが継続ではありません。
必要なのは、試行錯誤です。
何を試したのか。
どのような反応があったのか。
想定と何が違ったのか。
続けるものは何か。
やめるものは何か。
次は何を変えるのか。
この振り返りを行わなければ、失敗は経験として蓄積されません。
社員と一緒に取り組む場合には、失敗を責めないことも欠かせません。
新しい挑戦には、想定外が起こります。
そのたびに担当者を責めてしまえば、社員は失敗しない方法を選ぶようになります。
失敗しない最も確実な方法は、新しいことをしないことです。
一方で、「挑戦だから仕方がない」と、検証を曖昧にしてもいけません。
大切なのは、人を責めるのではなく、方法を振り返ることです。
「誰が悪かったのか」ではなく、「どこに無理があったのか」
「なぜできなかったのか」ではなく、「何があればできたのか」
「次は失敗するな」ではなく、「次は何を変えて試すのか」
このような対話が、社員の考える力を育てます。
そして、挑戦と改善を続けられる組織そのものが、他社にはまねしにくい強みになります。

会社の成長と社員の待遇を切り離さない
ミドルレンジで勝負する目的は、単に高く売ることではありません。
適正な利益を確保し、会社を持続させることです。
利益が残れば、設備を更新できます。人材を採用できます。教育の時間を確保できます。社員の給与や賞与、福利厚生、働く環境の改善にもつなげられます。
一方で、会社の業績がよくなっても、社員の負担だけが増え、待遇が変わらなければ、協力は長続きしません。
「今は大変だが、会社がよくなれば還元する」
その言葉だけで、社員の善意に頼り続けることはできません。
経営者には資金繰りや投資判断があり、すぐに賃上げできない事情もあります。
それでも、会社が目指している方向、現在の状況、成果をどのように社員へ還元していくのかを、できる範囲で共有することはできます。
社員にとって、自分たちの努力が何につながっているのかが見えることは、大きな意味を持ちます。
会社をよくすることと、社員の待遇をよくすることを別々に考えない。
働く人を大切にすることと、会社を強くすることを対立させない。
その姿勢があるからこそ、社員も会社の挑戦を自分たちの挑戦として受け止められるのではないでしょうか。
地域に必要とされる会社になる
中小企業の強みは、地域やお客様との距離が近いことです。
大手企業が採算や効率の面で対応しにくい仕事でも、地域の中小企業だから応えられることがあります。
少量の注文に対応する。
古い商品を修理する。
急な相談に応じる。
お客様の事情に合わせて提案を変える。
地域の雇用を守る。
若い人を育てる。
こうした仕事は、価格だけでは測れません。
地域に必要とされる会社とは、単に長く営業している会社ではありません。
「この会社がなくなると困る」と、お客様、取引先、社員、地域の人から思われる会社です。
その状態は、広告だけではつくれません。
目の前の仕事に向き合い、改善を続け、信頼を積み重ねた結果として生まれます。
自社のミドルレンジを見つけることは、自社が地域でどのような役割を果たすのかを考えることでもあります。
自社のミドルレンジを見つける5つの問い
ここまで読んでくださった経営者の方には、次の五つの問いを考えていただきたいと思います。
1.価格以外に、お客様が当社を選ぶ理由は何か
「昔からの付き合いだから」だけで終わらせず、対応、品質、技術、安心感、納期、提案力などに分けて考えます。
2.当社が最も利益を残しやすい仕事は何か
売上が大きい仕事と、利益が残る仕事は同じとは限りません。社員の負担も含めて確認する必要があります。
3.社員が誇りを持って話せる仕事は何か
社員が「この仕事は当社だからできる」と感じている部分には、強みの種があります。
4.お客様のどのような困り事なら、他社より深く理解できるか
商品やサービスではなく、お客様の困り事から考えると、自社の役割が見えやすくなります。
5.今後、何をやめ、何に集中するのか
限られた経営資源を生かすためには、すべてを続けるのではなく、選ぶ必要があります。
これらの問いに、すぐ明確な答えが出なくても問題ありません。
経営者、管理職、現場社員で答えが違うこともあります。
その違いを否定せず、事実を持ち寄ることが、自社のミドルレンジを探す第一歩になります。
明日から始める、小さな実践
最初から、新しい事業やブランドを立ち上げる必要はありません。
まずは、最近のお客様の中から「価格以外の理由で自社を選んでくれたと思われるお客様」を三社挙げてみてください。
そして、可能であれば次のことを確認します。
「当社を選んだ決め手は何でしたか」
「利用する前に、どのような不安がありましたか」
「当社の対応で、よかった点は何でしたか」
「もっと改善してほしいことはありますか」
経営者が想像していた答えと、お客様の答えが違うこともあるでしょう。
その違いが、新しい発見になります。
同時に、社員にも聞いてみてください。
「最近、お客様から喜ばれた仕事は何だったか」
「当社らしさが出た対応は何だったか」
その答えを一枚の紙に書き出すだけでも、自社の強みが少しずつ見えてきます。
あなたの会社のミドルレンジは、すでに身近にある
自社の強み、ブランディング、他社との差別化。
こうした言葉を聞くと、何か特別なものを新しくつくらなければならないと感じるかもしれません。
しかし、強みの多くは、すでに日々の仕事の中にあります。
お客様から繰り返し頼まれていること。
社員が工夫していること。
他社では断られるが、自社では対応していること。
長年続けてきたこと。
地域の中で期待されていること。
それらを見つけ、言葉にし、磨き、必要としているお客様へ届ける。
そこに、あなたの会社のミドルレンジがあります。
もちろん、最初から正解が分かるわけではありません。
試しても、うまくいかないことがあります。
社員と意見が合わないこともあるでしょう。
お客様から厳しい反応を受けることもあります。
それでも、失敗を終わりにせず、次の改善につなげること。
一度で結果を求めず、社員と一緒に取り組み続けること。
その継続が、会社の強みを本物にしていきます。
会社がよくなり、社員の待遇がよくなり、地域から必要とされる。
そのような会社づくりは、大きな改革から始まるとは限りません。
まずは、身近にある強みに気づくことから始まります。
あなたの会社が最も価値を発揮できる「ミドルレンジ」は、どこにあるでしょうか。
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