オフィスサンサーラとの25年 13 猫と一緒の谷中暮らしで、マルチメディア「猫ダイアリー」(インプレス)を作った
「東京レディコング」の創刊の前から、私たち夫婦は谷中に越したのですが、そこで会社は倒産、私は借金まみれ。せっかくの下町の谷中暮らしですが、呑気というわけにはいかない。でも越した場所が、地下鉄千駄木駅から、三先坂を上がって、寿司屋の「のいけ」の裏あたり。典型的な下町のゴチャゴチャの一角。越してみてわかったのは、この一帯、「猫」だらけ。
我が家にもその頃「トロ」という雄猫がいて、この猫は冒険心と、社交的性格で、朝、外にいくと夕方まで帰ってこない。そのかわり、近所の家猫、野良猫区別なく、開け放した我が家に遊びにくる。天気のいい日などうつらうつらしていて、気がつくとソファの上が猫たちに占拠されていたり。また、野良のボスもやってきて、あたりかまわずマーキングしていったり。仕事をしていると、膝に子猫が登ってきたり。
そんな「猫」まみれの日々も、猫が大好きなうちの奥さん豊田菜穂子にとっては至福の時。谷中を散歩しても出会う猫、出会う猫に挨拶して、しまいには「谷中猫地図」まで作成。その地図をもって谷中の墓地に行けば、こここそが野良猫の楽園で、カメラ片手に夕方まで出てこない。
今はすっかり姿を消してしまったが、日暮里駅に向かう石段の通称「夕焼けだんだん」の上も、野良猫がいっぱい。
あまりにも猫がいて、それが、可愛いのからブス猫まで個性豊かで、何だかこの「猫」まみれの楽しさを自分たちだけでは、勿体無いと。当時まだ一般的ではなかったが、Macのハイパーテキスト機能の拡張版として、画像、動画、テキストを自由にリンクしたコンテンツが作成できるディレクターをつかった、新しい企画を考えた。

題して「マルチメディア・ダイアリーネコ大百科」。ディスクトップダイアリーの機能を使って、毎日違った猫が登場して、日記や、メモや、予定表として使える「猫」カレンダーとして商品化した。
豊田と猫好きの仲間が、毎日カメラを持って谷中に散った。でも365日の猫写真や、カレンダーとは別の「猫大百科」の情報は膨大。そこで「猫」専門雑誌「猫の手帳」と提携、
プログラミングと、出版元は前からの知り合いの「インプレス」にお願いした。

豊田の友達の「猫」好きの女性グループに付き合って、私もやっと「ブス猫」の魅力に目覚めたり、猫について、やたら詳しくなってしまった。
住む場所も「猫」まみれ、仕事も「猫」まみれの半年ほどで、やっと完成し、書店には1995年の3月に並んだ。これが、記念すべき日本でのマルチメディア・コンテンツの商品化の最初ではないかと思う。
それでこの「ネコ大百科」は売れたのか。
インプレスからは、続編の話はこなかったことで、推測してほしい。

当時最先端のコンテンツと、新聞の取材を受けた〝マルチメディア″も、その言葉が死語になって30年以上たってしまった。
時々懐かしくて谷中には足を運ぶけれど、全く猫がいなくなってしまった。谷中の墓地も、お墓へのお供え禁止で野良猫がいなくなったと。
「夕焼けダンダン」にも猫の姿はない。

