現実はフィクションより奇なり
昔はドラマも映画も純粋に楽しめた。カリフォルニアのロサンゼルス(LA)に住む前の話。ここでのドラマはアメリカのドラマと映画だ。
LAに住んだことがない人たちに「カリフォルニアってビーチがキレイでハリウッド俳優に会えちゃったりするんでしょ?」って同じようなことを何度も言われたけど、それはつまり、「東京に住んでたら芸能人に会える」というのと同じだ。
21年前、私たちがLAに住んだのはたった1年だったけれど、確かにその1年でドラマ「24」(キーファー・サザーランド主演)に出演していた女優、ペニー・ジョンソン・ジェラルドは見たことがあるので、確かに長く住んだらもっといろんな俳優に会えたのかもしれない。彼女は後に私たちが見ていた別のドラマ「NCIS 〜ネイビー犯罪捜査班」と「BONES」にも出演していた。
彼らが意図していたのはキラキラなLAを想像してのことだったと思うけど、私たちのLAライフは毎日寿命が縮まる日々だった。
何せ、毎日のように住んでいたアパートの頭上を警察のヘリが飛んで、何らかの犯罪を犯した逃亡犯を追跡中とのアナウンスがあったし、夫と私が勤務していた会計士事務所からアパートへの帰り道の道路が同じような理由で封鎖されていて、帰宅に何時間もかかったり、LAで初めて私と先代犬Moniqueにできた友達はホームレスとロシア系ギャング(女性)だったりしたからだ。

今でもあの街はLA発信のローカルニュースでよく登場し、夫と私は苦笑する。
ドラマでも映画でもなく、私たちは逃亡犯をアパートの窓から見た。


LAで午前中に犬の散歩をしている人たちって要は無職。
あの街ではホームレスとギャングぐらいだったのでは。
私たちが住んでた街は日系企業の駐在家族が住むような安全な地域ではなかった。
私が夫の働く会計士事務所で働き始める前のことで、
夫は毎日ハラハラしながら私の「今日のできごと」を聞いていた。

まずホームレスの女性に声をかけられた。
「可愛い犬だね。絶対に捨てちゃダメだよ。飼えなくなったら私が面倒見てやるよ」って。
別の日にMoniqueと歩いていたらロシア系ギャングの女性が
Moniqueとは色違いのトイプードルを散歩させてて、
特に待合せずとも同じ時間に一緒に散歩するようになったのだ。
彼女は同じアパートではなく、別の2軒隣りぐらいのアパートに住んでた。
LAでの生活が1年に近づいていたころ、オレゴンで闘病していた義母の体調が思わしくないということで、最期の時間を過ごすためにオレゴン州に移住したから、なんで私たちのLAライフがあんな「毎日がドラマや映画の登場人物」みたいだったのか見当もつかなかったけど、LAから南下して、OC(オレンジ郡)に住むようになってわかった。
本当に毎週のように警察車両から逃げ惑うようなカーチェイスが展開される。ときによっては毎日だ。それがローカルニュースで生中継される。LAに住んでいてその場に直面していたわけだ。映画「スピード」の舞台がLAなのも頷ける。LAなら現実にありそうな展開だ。
しかもドラマや映画と違って1時間や2時間じゃ終わらない。カーチェイスが何時間も続いて、最終的に逃亡犯が警察車両に囲まれて銃撃されて亡くなってしまう結末もある。
今日このことについて書こうと思ったのは、お昼のローカルニュースで、警察官に射殺された『逃亡犯』の遺族が残された映像が警察発表とは異なることを訴えたものだったから。警察発表では、殺人の疑いがあって別の事件の関係者として彼を追っていたが、彼がポケットにある『武器』を取り出そうとしたため、射殺したということだった。
遺族と弁護士により、その『武器』が『スマホ』だったことが明かされた。どういうことかというと、一般人の知識として、警察やICEにいわれのない疑いをかけられたらまず家族や友達に連絡するとか、目の前で起こっていることを写真や動画で残すのが得策とされている。この件では、『逃亡犯』はいわれのないことで警察に追いかけられて家族に「殺されるかもしれない」って助けを呼んだところで射殺された。
こんなことが日常的に起こっていると、ニュースの方がドラマや映画よりも悪いスリルに溢れていて、よほど現実世界と離れていない限りエンターテイメントとして成立しない。
OC(オレンジ郡)は同じ南カリフォルニアでもかなり平穏だ。LAからOCまでカーチェイスが展開されることはあるけれども頻繁ではない。OCに住んで13年を過ぎたけど、住んでいる家の頭上を警察のヘリが飛んで、何らかの犯罪を犯した逃亡犯を追跡中とのアナウンスがあったのは、丘の上の旧居で住んでた時代に2回だけ。通勤途中で道路が封鎖されていたのも2回だけ。私たちはこれを平和という。
夫婦として日本では7年住んだけど、住んでいたアパートやマンションの頭上を警察のヘリが逃亡犯を探すために飛んだことはなかったし、逃亡犯を迎えうつために道路が封鎖されて電車が止まったことはない。電車が止まったのは自死を選んだ人たちや、事故が原因だった。そんな平和な日本では私たちはよくハリウッドのアクション映画を好んでみた。スリルが足りなかったのだろうか。
南カリフォルニアで毎日のようにカーチェイスがローカルニュースで中継されている暮らしで、私たちは日本のドラマを見ている。誰も死なない刑事ドラマ、ほのぼのする職場恋愛、日本の歴史が学べるような大河ドラマ、お腹が空くようなシェフのドラマ、デザートが食べたくなるようなパティシエのドラマ。私たちの現実からかけ離れていてエンターテイメントとして楽しめる。
今朝のニュースは、痴呆が始まっていると言われている大統領が「イランが時間までに要求に応じないなら文明を終わらせてやる」とSNSで投稿したもの。
映画「アルマゲドン」のように小惑星が激突して人類が滅亡する危機を迎えるんじゃないのだ。痴呆が始まっていると言われている大統領が自分の罪の目くらましの為に一国を、いや人類を滅亡させるというのだ。もっとも、噂されていた通り、期限の時間になったら撤回した。
ほらやっぱり。
こんなシーンはハリウッド発信のドラマや映画にはない。
