川デスゲーム②
「いかにもあいつは平気で嘘を付きそうだ」「あいつ普段は図書室で本を読んでいるのに今日に限って川遊びグループか?」「いつになくあいつは口数少なくないか?」
仲のいい同級生をこんなにも疑った目で見たことは無かった。嫌な先生が多い学校だったが荒れた不良もいない私立校でほとんどが穏和な生徒ばかりだった学年に突如として訪れた殺伐とした出来事。
「もうジャンケンでいいんじゃない?」
普段でも意見が通りやすいサッカー部所属の生徒が声を大きく発言して、あっけなく問題は解決した。誰もが「約40人の中で自分が負けるはずが無い」という簡単な計算式で全員が納得した。
「お互いジャンケンしてどっちか負けるの嫌やから別のヤツとジャンケンするわ」と友達に言って、顔見知り程度で「こいつなら【読書行き】になっても罪悪感はない」生徒に「ジャンケンしよ」と声をかける。「ええで」
「ジャンケンポン」「最初はグー」「せーのジャンケン」「あいこで」
教室の至る所で色んな掛け声で勝負が行われる。もれなくボクもその勝負の中の一部になっている。結果は負け。横目で見ると友達も負けている。
「まあまあ1回戦目やから」と笑っていたが、「じゃあ今、負けた人は?」と既に勝った【川遊び確定】の先程のサッカー部員が司会を務める第二回が行われ、終いには顔が動揺するほど負けが続き、あれよあれよと「ずっと負け続きの塊」としてボクを含めた3人(男・男・女)が最終決戦をすることになった。しかもその中には「川で再会することを誓った友達」も情けない顔で残っていた。
「いよいよ決まるで!」「◯◯ちゃんがんばって!」「やったれー!」
既に【川遊び決定】となった群衆は僕たちの勝負に興味津々だ。当の本人達はほんの数分前まで他人事のように遠くにあった【読書(日本人形)】が目の前まで迫っており絶望寸前であるが、取り囲んでいる生徒の目もあり、かろうじて引きつった作り笑顔を保っている。
「さあ。いよいよ決まるぞ。」と前のめりになりながら周りの生徒も声を揃えて「じゃんけん、ぽん!」と合いの手を入れる。3人がそれぞれが【ぐー・ちょき・ぱー】を出した。全員が一瞬、息を飲んで「おーーーー!」と唸る。観客は皆、笑顔で楽しんでいるが、ボクは出す手が震えているほどドキドキしていた。その数秒間、恐怖だらけの自分の気持ちと、エンタメとして笑っている他人とのギャップに「人間は残酷だな」と思った。
「じゃんけん、ぽん!」【ぱー・ぱー・ちょき】「やったーー!」と友達が先に抜けた。「えーー。。」と最後まで残ってしまった女生徒が今にも泣きそうな声を漏らした。その近くで見守っていた友達女生徒達も「大丈夫、次は勝てるって!」と励ましている。
ボクはというと「1人」だ。じゃんけん大会が始まる前、友達だと思っていた“彼”は、直前まで“ライバル”として戦い、そして今はボクのことを気に留めもせず“勝者”になり自分の勝利に酔っている。
負けて泣きそうな女生徒は「えー。じゃんけんなんかしたくない!」とグズり出している。それを見た友達女生徒は「キタカタくん、もう“川”譲ったらどうなん!?」とドスを利かせて顔をこちらに向けた。「“川”を譲る」とは不思議な表現だ。大自然に流れている誰のものでもない“川”。それをボクは譲らないといけないのか。ここまで残ってしまった自分を恨んだ。
「そやな、オレが【読書】行くわ!」
と、今にして思えば、そうやってカッコよく譲ればよかったのだが、そこは男子中学生だ。「いや、オレも川遊びしたいねん!」と情けない顔で返事するしか無かった。
ぐずぐずしていると「もう決めよか」と壁にかかった時計を横目に見たサッカー部員が背中を押した。
「じゃんけん、ぽん!」
頭の中で【ぐー・ちょき・ぱー】と手の形をしたスロットが回る。ボクはどの指を出しのか自分でも分かっていない。もう感覚だけで一手を決めようとしている。それと同時に頭の片隅で「なぜオレはちゃんとプリントに【川遊び】とチェックをしていたのに、自分だけこんな悲惨な状況に陥っているのか」という今さら引き返せない疑問を抱きつつ右手を勢いよく出した。
【ちょき】
【ぐー】
まず、膝から崩れ落ちた。
「◯◯ちゃん、よかったね!」「応援してくれて、ありがとう!」女生徒同士が輪になって喜んでいる。
「なんでやねーーーん!」と、ギリギリ残ってたエネルギーで精一杯ちょけた声を出しながらボクは美術室の床に仰向けになりながら倒れ込んだ。
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「美術室って、こんな天井だったんだ」と、今はどうでもいいことを思いながら、ショックで視界が少しだけ歪んだ。あんなにうるさかったセミの声が既にボクの耳の中には無く、水中に潜ったように聞こえる音がボリュームが小さくなった。その遠くからボク以外、全員の笑い声が薄っすらと聞こえる。
あーあ。なんで【きょき】出したんやろ。
ひんやりする床に頭を着けながら、アホみたいに、シンプルに、そんなことを思った。
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次回、林間学校編に続く。
