【あとがき】『光秀を討つ』『蘭丸、再び』
歴史とは、誰かが語り、誰かが信じ、そして誰かが黙ることで形づくられるものだと思います。
『光秀を討つ』では、語られなかった真実、あるいは語られることを拒まれた歴史の空白に焦点を当てました。そこには確かに「火」があり、「声」があったはずなのに、私たちはなぜかその存在を忘れている。だからこそ、あの時、誰が光秀を討ったのか、という問いが成り立ちます。そして問い続けることで、語ることの困難さや、語らぬことの意味を描き出したかったのです。
しかし、物語はそれだけでは終われませんでした。
『蘭丸、再び』は、“誰も語らなかった”その出来事を、もう一度、語ろうとする者の物語です。声を奪われ、名を隠し、生き延びた蘭丸が、それでも語り直すことを選ぶ──それは歴史の復讐ではなく、静かな再起であり、小さな祈りでもあります。
二つの物語は、視点も、温度も、進む歩幅も異なります。それでも、重ねて読むことで見えてくる真実があります。
それは「誰が語るかで、歴史は変わる」ということ。
そして「誰かが語る限り、歴史は死なない」ということです。
この二作は、それぞれでも完結しています。ですが、もし読者の中で、一方の“問い”がもう一方の“語り”に引き継がれ、心のどこかに小さな火が灯ったとしたら──それが、私にとって最大の報酬です。
どうかこの火が、次の“語り手”へとつながっていきますように。
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