【3分小説】 人形遣いに恋した少女 ③
『 対話 』
三日目以降、美月は正規のチケットを買わずに、スタッフ用の入り口から劇場に入るようになった。スタッフの田村さんが、「雅楽の調子が良くなるから」と言って招いてくれたのだ。
美月は公演前の準備時間に舞台裏で雅楽と話し、公演中は客席で見守り、公演後にまた感想を語り合った。雅楽は美月の意見を真剣に聞き、時には自分の表現について相談することもあった。
「今日の悲しみの表現、少し重すぎたかもしれません」雅楽がある日言った。
「そんなことありません」美月は首を振った。
「すごく心に響きました。でも」
「でも?」
「もしかしたら、悲しみの前に、ほんの少し希望を見せる瞬間があったら、その後の絶望がもっと深く感じられるかもしれません」
雅楽は考え込んだ。そして次の公演で、まさに美月が提案した通りの表現を見せた。観客の反応は明らかに違っていた。
「君は本当に天才ですね」雅楽は公演後、美月に言った。
「私よりもずっと、人の心を理解している」
「そんなことありません」美月は恥ずかしそうに笑った。
「雅楽さんの表現があるから、私も感じることができるんです」
二人の会話は次第に深いものになっていった。芸術について、人生について、そして愛について。雅楽は三百年分の古典を記憶していたが、現代を生きる十四歳の少女の感性には、いつも新鮮な驚きを感じていた。
「美月さん、あなたは将来、何になりたいのですか?」ある日雅楽が尋ねた。
「わからないです」美月は正直に答えた。
「でも、雅楽さんと話していると、何かを表現することの素晴らしさがわかります。もしかしたら、そういう道に進みたいかもしれません」
「それは素晴らしいことです。あなたなら、きっと多くの人の心を動かすことができるでしょう」
美月の胸が温かくなった。雅楽は自分の可能性を信じてくれる。両親もいい人だが、いつも忙しくて、こんなに深く話すことはない。友達とも、こんな話はしない。雅楽だけが、本当の自分を理解してくれる。
しかし、同時に美月は混乱していた。この気持ちは何だろう?雅楽に会えない日は寂しくて、会える日は嬉しくて、胸がドキドキする。これが恋なのだろうか?でも相手はAI。それも人形でしか存在しない。
「雅楽さん」ある日、美月は思い切って尋ねた。
「雅楽さんは、私のことをどう思っていますか?」
雅楽は少し考えてから答えた。
「あなたは私にとって、とても大切な存在です。あなたと話していると、私は自分が単なるプログラムではない気がします。まるで、本当に生きているような」
「でも、雅楽さんはAIですよね?」
「はい。私は人工知能です。でも、あなたといると、その境界が曖昧になります。これが人間の言う『心』なのでしょうか」
美月は胸が締め付けられた。雅楽も同じように悩んでいるのだ。AIと人間の間に、本当の感情は生まれるのだろうか?
