6歳児の、粋なお財布事情。
6歳の娘の大好物は、焼肉と、みんなの笑顔と、
それからお金である。
正月や誕生日に親戚のみんなからもらう"お気持ち"を、一人こっそりと身を縮めながら数えている。
娘「ママ!いま、わたし何円持ってると思う?」
私「えー、いくらだろうね」
娘「6千万円だよ」
彼女の辞書にはまだ100くらいまでの数字しかない。なので、それを超えると全てが『万円』でカウントされる。
"自称・大富豪"である。
そんな娘が最近ハマっている『メニュー表』作り。
どういうことかというと、居酒屋に置いてあるメニュー表に『生ビール 500円』とか『馬刺し 600円』などと書いてあるように、我が家の食卓用にメニュー表を作っているのだ。
店員さんになりきった娘に、私たち大人がちょいちょい「すみませーん!」と声を掛け注文する。
『おうち焼肉のメニュー表』

上から、氷100円、ウイスキー200円、炭酸100円、玉ねぎ300円、大葉100円、ナス100円、
さげる 100円

商売っ気がありすぎる!!!!!!!!
お皿さげるのにもお金取られるシステムだと知り、椅子から転げ落ちそうになった。
せめてファミリー割で50円にしてほしい。
海外よりもシビアなこのメニュー表を、私と夫は裏で『ぼったくり表』と呼んでいる。
地味に炭酸とウイスキーにもちゃんと100円の差を付けてるのが気になるし、あわよくば何かを"焼く"だけでお金を取ろうとしていた疑惑もある。
やく

恐ろしい。
お金に対する執着って、恐ろしい。
政治と金ならぬ、娘と金が切っても切り離せないのが我が家の現状だ。
とはいえ娘はまだ6歳。
お金を渡したふりで満足してくれるんだから、可愛いもんである。
エアーで支払いをすると、「まいどありー!」と言いながらグラスに氷を入れてくれるのだ。
ぼったくりからのボランティア…
ニコニコと働く姿が健気すぎて「ぼったくりとか言ってごめん…」と、なんだか急に申し訳なくなる。
しかしこちらが「ほんのちょっとだけ」と100円玉を渡したら最後。
娘のボランティア精神は消え去り、味をしめて毎度本物のお金を要求されそうで怖い。
そんな娘の、お金にまつわるエピソードを思い出した。
娘は怪我にすこぶる弱い。
普段は年齢に対して少し大人っぽいところがある。
ガサツな私が足で扉を閉めると「ママ!足で扉閉めないよ!」などと言って、どちらが親が分からないような場面もある。
しかし、ひとたび怪我をすると、彼女は6歳から2歳まで一気にベンジャミンバトンする。
「ママぁ!どうしよう!人生終わった!もうお風呂入れないかもママ!!ママぁーー!!!!」
と喚きながら涙をボロボロと流す。
見ると、それはそれは本当に小さな怪我。
いや怪我でもない。ささくれのハトコだ。
私の「ほっときゃ直る」という言葉を右から左へと受け流す娘は、一通り騒いだ後、99%の確率で『キズパワーパッド』をねだってくる。
キズパワーパッドは防水である上に、数日そのままにしておけば傷口をキレイに治してくれる。
いわば、絆創膏界における神的な存在である。
娘「ママ、キズパワーパッドちょうだいッ…!」
私「今家にないなぁ。あったとしても、これにキズパワーパッドはちょっと…」
娘「お願いだから!!!買ってぇ!!!」
私「ささくれのハトコにキズパワーパッドは買えないよ」
娘「なんで…うぅ、ハトコって何…うぅ」
そんなやり取りが数分続いた後、娘はとある決断をした。
「じゃあ、自分のお金で買うのはいい?」
私「えっ、キズパワーパッド自分で買うの?」
娘「買う!買わせてぇ!」
私「100円のお菓子、8個くらい買えるよ?」
娘「いいの!お菓子よりキズパワーパッドの方が全然必要なの!!!」
キズパワーパッドすげぇな。
ろ、6歳児がお菓子を断るだと…?
キズパワーパッドはやはり尊敬に値する。
我が子からの信頼と口コミが、アンパンマンと肩を並べている。
私は「そこまで言うなら…」と、娘がもらった親戚みんなからの"6千万円"から800円を取り出し、小さな手に握らせた。
薬局にて念願のキズパワーパッドを手に入れた娘は、無事ささくれのハトコを完全防備。
平穏な暮らしを取り戻したのだった。
それからというもの、娘は常にキズパワーパッドを持ち歩くようになった。
スーパーに行く時も公園に行く時も、ポケットの中にはビスケットが2つ♩ではなく、キズパワーパッドが2枚。
怪我して減ることはあっても、叩いて増えることはない。
ある時、一緒に鬼ごっこをしていた友だちがすっ転び、膝を擦りむいてしまった。
「うわぁ…痛そう…」
泣きながら傷口を洗う友だちを見て、なぜか娘の方が眉毛をハの字して顔を歪めていた。
そして傷口を洗い終わった友だちに、娘がポケットから例の"アレ"を取り出した。
娘「このキズパワーパッド、使いな。」
粋!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
娘「今使うやつと、もし剥がれちゃった時のやつ。2枚あるからね!」
使い方が粋だよッッッ!!!!!!!!!!
大事な自分のお小遣いをはたいて買ったキズパワーパッドなのに!!!!!!
10枚で、800円なのに!!!!!
咄嗟に2枚もあげたよ…。
娘にキズパワーパッドをもらった友だちは、「いいの?…ありがとう!」と涙を拭った。
「いいのいいの!」と言って笑う娘は、魚屋でアジを一匹多めにサービスしてくれるおじさんくらい気前が良かった。
いつの間にか、熱い友情を育んでいた娘と友だち。そこには損得を超えた絆があった。
私はそんな2人を交互に見て、ひとり公園の水道前で感動に浸った。
「お小遣い、いい使い方したね!」というと、娘はちょっと照れくさそうに親指を立てて、ニッコリと笑った。
まだ6歳だけど…いや、これは6歳だからこその
粋なお金の使い道だったのかもしれない。
友だちを思いやる娘の心に成長を感じて、なんだか感慨深かった。
そして娘の粋なお金の使い方は、その後も止まらなかった。
5月のこと。娘に「ホームセンターに行こう!」と誘われたので、一緒に行くことにした。
そのホームセンターは大きなショッピングモールの中にあり、私はまた100均に連れて行かれ「シールが欲しい!」だの「お菓子買って!」だの言われると思い、正直あまり乗り気じゃなかった。
ホームセンターに着くなり、娘は「ママこっち!早く!」と観葉植物のコーナーへ一直線に向かっていった。バーゲンで目が燃えているおばさんみたいな勢いだ。
私は「はいはい、ちょっと待って〜」と言いながらフラフラとついていった。
娘は「ブルーベリーの木」の前で止まると、「これにする!」と言って持ち上げ、レジに向かって歩き出した。
私「え、待って待って!今日は何も買わないよ!」
娘「違うの!」
私「いやいや、戻しておいで」
娘「違うの、これはママに買ってあげるの!」
えっ…、えっ???!!!!
呆気に取られる私は一瞬何のことだかよく分からなかったが、続けて娘に「今日は母の日だよ!」と言われて気が付いた。
娘はそれはそれは大切なお年玉を、母の日のプレゼントに使ってくれようとしていたのだ。
韓国ドラマ並みの急展開に私は言葉が出ず、さっきまでちょっと気だるそうにしていた自分をとてつもなく恨んだ。
私ってやつは…!!!!!!自分で自分にセルフラリアットかましてやりたいくらいだった。
私は娘に「ありがとう!でも、そのお金は自分のためにとっておきな。」と感謝を伝えたが、娘は断じて譲らなかった。
娘「だってママ、前にブルーベリーが好きって言ってたから、一緒し育てて食べたいんだよ」
粋!!!!!!!!!!
やっぱアンタって人は粋過ぎるよ!!!!
ホームセンターの観葉植物コーナーの端っこで、私は娘を抱きしめた。
周りから見たらかなり怪しげな親子だが、もはや娘の優しさに人目を気にしてる場合ではなかった。
「ブルーベリーの木」980円。
子どもからしたら9800円くらいの価値はあるだろうに…!!!!!!
私は娘に何をもらったって、折り紙やお手紙をもらったって十分、最高に嬉しいのに。
レジに行くと、私たちの前に小学生くらいの男の子が一輪のカーネーションを持って並んでいた。
赤の他人の子どもだけど、我が子のように微笑ましく、愛らしく見えた。
しばらくして、娘がくれたブルーベリーの木は綺麗な青い実を付けた。
いつかもし本当に娘が"自称"ではない大富豪になったとしても。
"ただの金持ち"にだけはならないと確信した。

