#9【サスペンスな夜―鬼の形相】幼い日の記憶⑦
小学生の私は相変わらず忙しかった
祖母の前ではお行儀よく
母の前では聞き分けのいい子
姉の前ではできるだけ空気のように存在を消す
寝るのはいつもひとり
真っ暗な和室に
特に火曜の夜が恐怖だった
隣の部屋から聞こえてくる
"火曜サスペンス劇場"の音
緊迫した音楽に
あの “ジャジャーン“ といきなりくる交換音
そして
突然の「キャー!」
もうー 無理
さらに追い打ちをかけるのが
母がグラスを揺らす カラン…という氷の音
静けさに響く氷の音
テレビの悲鳴とのコラボレーション
ある夜ついに限界がきて
私はそっと襖を開けた
抱っこしてほしい
けれど
母の隣に座っていた姉が
こちらを見てひとこと
「何? 開けるなよ!」

その顔は "般若"
サスペンスの犯人よりも
はるかに迫力があった
私は静かに襖を閉めた
あの時の私は
"日本一
音を立てずに襖を閉められる小学生"
だったと思う
抱きしめられることもないまま
私は布団に潜り込み
声を殺して、またひとり泣いた…

次回
#10【ノートの切れ端 二行の初恋①】たった二行で世界がキラキラした日-小学生の記憶
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