「国家『物の怪』執行局:第1話」#創作大賞2025 #エンタメ原作部門
【あらすじ】
魔法の取り扱いに国家資格が必要とされる現代。
特別な資格を持つ彼らは“魔操技士”と称され、そんな彼らは『物の怪』と呼ばれる人外の存在を“執行”する事が職務であった。
主人公のルルカは、難易度が高いとされる魔操技士の資格を15歳という最年少記録で取得した天才魔操技士。
晴れて物の怪を駆逐する執行局員となったルルカの目標は、自分の家族を殺した“始祖の物の怪”を執行する事。
凶悪な物の怪中でも更なる危険を示す“レッドネーム”である始祖の物の怪を追い求め、ルルカが今動き出した――。
「第一話」
チク。タク。チク。タク。
(364……365……366……)
淡い光のランプが灯る薄暗い執務室。綺麗に整頓された本棚には、隙間がないほど本が入れられている。
年季を感じる木製の椅子に腰を掛けた少年は、静かに沈黙の時間を数えていた。
(367……368……369……)
少年の対面では、執務室の主が何やら机の上でペンを走らせているが、一向に喋り出す気配はない。
若干15歳という若い芽を自分の執務室へと呼び出したのは、他でもない“0級魔操技士”のバーンズ局長である。
どこか幼さが残る15歳の少年を、自らが呼び出したという事を忘れているのか、バーンズ局長は彼が執務室に入ってきてからというもの、ずっと無言であった。
どうしていい分からない沈黙。少年が数えること400秒。
遂に、耐え切れなくなった少年は口を開いた。
「あの――」
「君がアカデミーを飛び級で卒業した子か」
局長と少年が言葉を発したのは、ほぼ同時。
長い沈黙からやっと口を開いたバーンズ局長であったが、彼は相変わらず興味がないのか、その視線はまだ1度も少年を捉えていない。ひたすら伏し目でペンを走らせているばかりだ。
「12歳にして国家資格の魔操技士ライセンスを取得し、アカデミー卒業と同時に0級魔操技士……。優秀だな」
「ありがとうございます」
「褒めてはいない」
気難しい返しに一瞬面を食らう。
それでも、最初からこの程度の事を予想していた少年――ルルカは若さという勇ましさで言葉を返した。
「それでも有り難いお言葉です。それよりも、私は何故バーンズ局長に呼ばれたのでしょうか」
拙いながら、目上の人への言葉を気を付けて選ぶルルカ。
アカデミーを卒業した“新米”の魔操技士は、皆それぞれの部署へと配属される事が決まりとなっている。ルルカもその1人だ。
問われたバーンズ局長は、変わらず下を向いてペンを走らせていたが、その重厚な口を開いたご老体は、ルルカが耳を疑う言葉を投げかけた。
「“緋色の魔操技士”よ。お主に早速任務を言い渡そう」
「え!? 配属初日に……ですか?」
配属された新米の魔操技士にとって、最初の任務は言わば登竜門的な存在。
国家資格である魔操技士ライセンスを取得したという事は、勿論それ相応の知識と実力を身につけている証だが、差し詰まる所この最初の任務は実力テストという意味合いになっている――。
新米魔操技士ならば誰もが通る道だ。
しかし。
「何か問題があるのかね?」
「いえ。そういう訳ではないですけど、本来なら何度か研修という形で任務に同行した後で受けるのが普通なのではないかと……」
「私の管轄に普通の魔操技士など必要ないのだよ」
淡々と言葉を並べているだけでも“圧”を感じるのは、ルルカの何倍も歳を積み重ねた時間の密度が成せる業か。
「分かりました。そこまで言われたのなら受けさせていただきます。その任務とやらを」
主導権を握るのはやはり、局長が上手。
だが裏を返せば、強気で前に出られるのは若者の特権とも言えるだろう。
「良かろう。お主に与える任務は“終焉のマルコ”の執行である――」
「ッ……!?」
局長から出たまさかの名に、流石のルルカにも動揺が見られた。
「終焉のマルコ……奴はブラックリストの中でも“レッドネーム”No.4の物の怪ですよ……! 今まで他の魔操技士が何十年も追って執行出来ていない奴をどうやってッ……「無理なら結構。辞めてくれて構わん」
魔操技士の役目は物の怪を倒す事。
その術を学びに来たばかりの新米に任せるとは随分な待遇だ。当然皮肉の意味で。
(そう来たか……)
足元を見られた事に不満は感じたが、彼にはもう選択肢がなくなってしまった。
「無理とは言っていません。私が“物の怪”マルコを執行してきます」
「結構。ならばそこにある封筒を持って行くがよい。マルコの直近の情報が記されている」
言われたルルカは、棚に置かれた封筒を手にした。
どうやら最低限の力は貸してくれるらしい。
「ありがとうございます」
「因みに、期限は10日以内だ」
最後にダメ押しと言わんばかりの一言が発せられると、ルルカが言葉を返す間もなく、バーンズ局長は手をシッシッと払って見せた。
用は済んだから早く出て行け、と。
(流石は噂に聞くバーンズ局長。相当な曲者だな……。だけどまぁ会う事は出来た。初日にしては運が良い)
想定外の任務を告げられた事以外は上々。
執務室を出ようと扉のドアノブに手を掛けたルルカは、最後に最も聞きたかった質問を、局長に投げ掛けた。
「バーンズ局長。お言葉ですが、最後に1つお聞きしたい事があります」
扉の前で振り返った彼は局長を見る。
「レッドネームのNo.1……“始祖の物の怪”は存在しますか──?」
直後、局長が走らせていたペンをピタリと止める。
「……愚問であるな。それを確かめ執行するのがお主達の役目であろう」
影を落とした堀の深い瞳が、ギッと少年を睨んだ。
執務室での実に13分間という濃密な時間の中、ルルカ・ジャックヴァンがバーンズ局長のその漆黒の瞳と目が合ったのはこの1度だけであった。
♢♦♢
~N.M.E.B~
翌日。
「君が昨日ここ9番街に配属された新米の局員か?」
「はい。ルルカ・ジャックヴァンと言います。宜しくお願い致します」
執行局の上司となる人物に挨拶をするルルカ。
魔操技士達が集うここは“National (国家)Mononoke(物の怪)Enforcement(執行) Bureau (局)”
通称「N.M.E.B」と呼ばれる国家の特殊局であり、ここの局員となる魔操技士の目的は物の怪と呼ばれる人外を駆除する事である――。
「私の名前はギルゼン。君の事は局長から聞いている。いきなりの事で大変だとは思うが、遅かれ早かれ皆がやる事だから頑張ってくれたまえ。
最年少で魔操技士となった君の力に期待しているよ」
ギルゼンと名乗ったスーツ姿の男。
髭を蓄え、髪をオールバックに流した彼からはそれなりの雰囲気を感じられる。
「ありがとうございます。それで早速ですが、昨夜連絡をいただいたマルコの最新情報というのは?」
「ああ。これだよ」
落ち着いたトーンで口を開いたギルゼンは、ルルカに書類を渡す。
そこには、ルルカが狙う物の怪──終焉のマルコに関する最新の目撃情報が記されていた。
「これで7人目、ですか……。一連の事件は全て犯行が同じですね」
昨日、ルルカが局長から渡されたマルコの情報と、たった今受け取った新たな情報の内容は、ほぼ一致している。
何十年も潜伏していた物の怪マルコが、この9番街で初めて目撃されたのは半年前。それからは特に目立った動きがなかったが、1ヶ月前の最初の殺人事件を皮切りに、既にもう7人の一般人がマルコの犠牲になっている、とギルゼンが説明した。
「ここにきて何故急にマルコは人殺しを?」
「それは私にも分からん。……いや、物の怪の考えなど誰にも分かり得ないだろうな」
一通り目を通したルルカは書類をギルゼンに返す。
(……まぁそうか。相手は物の怪だからな――)
兎にも角にも、現場に向かおうと思っていたルルカは「これで失礼します」とギルゼンとの話を切り上げ、迷う事なく執行局を後にするのだった。
**
~都市・オリビア~
優美な建物が並ぶ都市オリビアは、全部で9つの街に分かれているアルダリア国の中心部。都市も然ることながら、ルルカも暮らすこのアルダリア王国は大陸でも1,2を争う大きな国である。
「一連の事件の被害者達は全員、なにか鋭利なもので引き裂かれたような傷による出血死だ。専門家の調べでは余程大きな刃物――それこそ剣や刀といった類の刃物での傷跡らしい」
バーンズ局長とは違って、淡々と話し続けるギルゼン。
直近に起きた事件現場へと向かうルルカとギルゼンは車に乗っている。
1人で現場に向かうと思っていたルルカであったが、ギルゼンも同行したようだ。
尋ねれば、ギルゼンの年齢は38歳。
現場に向かう車中では、一回り以上年が離れたルルカに対しても丁寧に事件の事を説明してくれている。
「この1ヵ月で我々も多くの魔操技士を執行に向かわせてはいるが、結果はこの様だ」
ベテランの魔操技士がこれだけ執行に手を焼いている物の怪を、新米魔操技士に担わせるのだから、局長も人が悪い。
車窓から流れる景色を朧げに、ルルカは眉を顰めていた。
「犯人がマルコだという特定は?」
「確証はない。だが逆にマルコと思われる物の怪を見たという証言は他の魔操技士から2度上がっている」
「そうなんですか。という事は……」
ルルカはそう口にしながらギルゼンへと視線を移す。
「ああ。“霊力係数”が基準値以下だ」
霊力係数――それは人外である物の怪が使う霊力を数値化したもの。
物の怪は霊力が高い、実力が強い、質が良い奴ほどその見た目が人間そのものである為、魔操技士はまず第一に、この霊力係数で「物の怪かどうか」の判断を下さなければならない。
これはアルダリア国とN.M.E.Bによって厳粛に定められた、最重要規定の法律であり、魔操技士にとっては最優先事項ともなる。つまりは絶対的な掟だ。
ルルカはアカデミーで嫌というほど、この魔操法律を読まされた事を思い出していた。
「君はどう思う? 魔操法律について」
ギルゼンは徐に投げ掛ける。
確かにこの魔操法律に関しては、昔から何かと魔操技士の間で議論の種となっていた。
魔操は、人間が物の怪の力に対抗する為の特別な力。
それ故、特別な力を扱うからこそ、魔操技士専門の厳正な法律が確立されており、当然この法律を破った者は即時追放となる。
「どうですかね。難しいですが、規則がある以上はその範囲で動かなければいけないと思います。その中で、確実に物の怪を執行すればいいので」
半分は本心。半分は建前。
この手の質問に対して、ルルカはいつも同じように答えていた。
魔操技士の最優先事項は、物の怪の執行。しかしその執行を行うには、法律で定められている数値を超えていなければならない。満たしていない場合は、例え目の前に物の怪がいたとしても執行は不可だ。
「流石、大した自信だな。だが、私はこの法律のせいで物の怪に殺される仲間を何人も見てきた。国やN.M.E.Bのお偉いさん達は現場の危険性を知らな過ぎるんだ」
ギルゼンの言葉からは僅かな憤りが伝わった。
この魔操法律に関しては、彼以外にも多くの魔操技士がかねてより不満の声を上げている。
実際、物の怪は狡猾である者が極めて多い。
ただでさえ人ならざる力を持つ物の怪を相手にしなければいけない状況で、魔操技士は霊力係数が基準値を超えていなければ反撃する事も出来ない。
これは死活問題と言ってもいいだろう。
「私はいざ物の怪と対峙したら、法律など二の次だと思っている。上の者達の名目上の形式で私達の命が奪われるなんて本末転倒だ。霊力係数など関係ない。もしその時になったら私は迷わずこれを使うだろう」
そう言ったギルゼンは、胸ポケットから銃を取り出した。
その黒い鉄の塊は無機質ながら、間近で見ると想像以上に物々しさを醸し出している。
魔操技士の、いわゆる武器となる者は人それぞれ違う。
大半はギルゼンのように、己の魔操の力と銃を合わせた武器を扱う者が多い。次いで小型のナイフや短剣、特殊素材の警棒などが主となっている。
ルルカとギルゼンがそんな会話をしていると、車が目的の現場へと止まった。
「ここが7人目の被害現場ですか……」
9番街でも比較的静かな噴水広場。
本来なら平和で人々の活気を感じられる場所であったが、悲惨な事件の影響で辺りは静かで歩く人影も疎らである。
「全く。毎度億劫になる石碑だな」
小さな溜息を混じらせ呟くギルゼンの前には、噴水の前に建てられた縦長の白い石碑。
石碑の正面には“アーティバッハ”という名前が刻まれている。
100年近く前、魔操技士と物の怪の争いが最も激しかったとされる戦争時代。当時アーティバッハは物の怪を数百体執行したと言われる魔操技士の英雄となり、後に現在の厳粛な魔操法律を定めるきっかけとなった大罪人でもある。
右から見れば真っ直ぐ。
左から見れば歪み。
アーティバッハはそんな人間であった。
彼は間違いなく、戦争時代に最も多くの物の怪を執行した英雄。
だが、その実態は必ずしも「正義」であったと言い切れるものではない。
アーティバッハは物の怪を執行する為ならば、どんな手段も問わない冷酷な魔操技士であり、脅迫、誘拐、拷問、虚偽、殺し。彼は思いつく限りの手段で、物の怪を執行していた。
そして。
執行――殺された物の怪の中には、ごく普通の“人間”も多く存在していたと、アーティバッハのその行動が後に、国中を揺るがせたのだ。
自らの正義を全うする事に、微塵の躊躇いも持たなかった彼は、最後に始祖の物の怪と対峙し命を落とした、と現在まで語り継がれており、そんなアーティバッハの死から数年後、確立されたのが今の魔操法律である。
「ギルゼンさん、最後の事件が起きたのは、確か2日前でしたよね?」
「ああ、そうだ」
地面に視線を落とすルルカ。
その先には、乾いて赤黒く変色した生々しい血の跡。
暫し辺りを見渡し、妙な違和感を感じ取ったルルカは、再び口を開いた。
「あの、もう1ヵ所連れて行っていただきたい場所があるんですが――」
⇩「第二話」
⇩「第三話」
⇩「第四話」
⇩「第五話」
いいなと思ったら応援しよう!
あなたのお気持ち(チップ)でこの記事が生まれています。ありがとうございます。
