見出し画像

直感は「半々」。現実は67%対33%。|経営者に刺さる統計の話【第2回】

直感が外れていることは、証明できる

テレビの公開番組を思い出してください。3つのドアのうち1つに賞品。あなたは1番のドアを選びます。

ここで司会者が3番のドアを開けました。中は空。そして聞いてきます。「2番に変えますか。それとも1番のままでいきますか」

残ったドアは2つ。どちらも半々だろう——ほとんどの人がそう考えて、最初の選択を守ります。

ところが実際は、変えれば当たる確率は67%。変えなければ33%。ちょうど2倍の差がつきます。

これは意見の対立ではありません。数えれば決着がつく話です。そして今なら、その決着はパソコンが数秒でつけてくれます。

まず、紙の上で300回数えてみる

条件を2つ置きます。あなたは毎回1番を選ぶ。司会者は賞品の場所を知っていて、必ず空のドアを開ける。

300回やれば、賞品が1番にある回が100回、2番が100回、3番が100回です。

  • 賞品が1番の100回——司会者は2番でも3番でも開けられます。変えれば外れます

  • 賞品が2番の100回——司会者は3番しか開けられません(1番はあなたの選択、2番は賞品)。変えれば当たります

  • 賞品が3番の100回——同じ理由で、司会者は2番しか開けられません。変えれば当たります

変えて当たるのは、100回 + 100回 = 200回

200 ÷ 300 = 約67%

変えなければ、当たるのは最初から1番だった100回だけ。約33%です。

からくりは、司会者が答えを知っていることにあります。賞品が2番か3番にある200回では、司会者は開けるドアを選べません。選べない1枚を開けた瞬間、残ったドアに賞品があると自分の手で教えてしまっている。「残り2枚だから半々」という直感は、この事情を数えそこねています。

数学者でも間違えた

この問題には名前があります。「モンティ・ホール問題」。1990年にアメリカの雑誌コラムが「変えたほうが得だ」と回答したところ、数学者を含む読者から1万通近い抗議が届き、大論争になりました。

**直感が外れるのは、頭の良し悪しの問題ではありません。**人間の直感には、こういう外れ方をする癖がある。それだけのことです。

1万回、機械に試させる

この論争に決着をつけたのは、数式ではありませんでした。実際に試した結果です。教室で紙コップを3つ並べて数百回、コンピュータで数万回。どちらも同じ答えを返しました。

コンピュータにやらせたことは、驚くほど単純です。

  1. サイコロを振る代わりに、賞品の位置を1・2・3のどれかにランダムで決める

  2. ルールどおりにゲームを1回進めて、勝ったか負けたかを記録する

  3. これを1万回繰り返して、勝った回数を数える

**理屈を解くのではなく、実際に1万回やってみて、数える。**それだけです。結果は毎回、変えて当たった回数が6,700回前後に落ち着きます。300回を紙で数えた答えと、ぴたりと合います。

このやり方を、統計の世界ではシミュレーションと呼びます。数十年前なら大学の大型計算機が必要だった作業が、いまは事務所のパソコンで数分、この程度の問題なら数秒で終わります。「計算できないから勘で決める」という言い訳が、ここ20年ほどで通用しなくなったというのが、経営者にとって本当に大事な変化です。

経営で効くのは、答えが出ない問題のほう

モンティ・ホール問題には正解があるので、シミュレーションは検算にしかなりません。本当の出番は、式では解けない問題です。

■ 設備投資の回収 3,000万円の機械を入れる。月の粗利が平均50万円増える見込みなら、5年(60か月)でちょうど回収の計算です。ところが実際の粗利増は月20万円のときも80万円のときもある。このばらつきを入れて1万回試すと、5年で回収できない筋書きがおよそ半分出てきます。 平均で立てた計画は、半分の確率で外れます。

■ 資金繰り 受注は読めない、仕入価格は動く、入金は遅れる。3つが同時に動く先の残高は、式では解けません。しかし1万通り試させれば、「半年後に資金が底をつくのは1万回中620回」という形で返ってきます。 16回に1回の綱渡りなのか、100回に1回なのか。ここが分かれば手の打ち方が変わります。

■ 人員と受注の波 繁忙期に何人で回すか。受注件数も1件あたりの工数もばらつくので、平均で組むと必ずどこかで破綻します。1万回試して「残業が月45時間を超えるのは何回か」を見れば、増員の判断が数字になります。 平均は、いちばん起きない筋書きです。

明日から使える、3つの問い

① いま直感で決めている判断のうち、条件を数字で書けるものはどれか (「受注は月8〜15件」「単価は50万〜70万」と幅で書ければ、シミュレーションにかけられます)

② 過去1年で、見通しが外れた案件は何件あったか (外れた案件の予算と実績の差を並べる。ばらつきの幅は、この差から作れます)

③ その計画は、何回に1回失敗するのか (「たぶん大丈夫」ではなく「20回に1回は資金が詰まる」と言えるかどうか)

②は今日確認できます。予算と実績の差が毎回プラスマイナス20%に収まっているなら、その20%こそが、シミュレーションに入れるべきばらつきの幅です。

直感を疑ったら、試せばいい

ドアを変えるべきか。5年で回収できるか。人手は足りるか。どれも、意見をぶつけ合っても決着しません。

直感と現実がずれているかどうかは、議論ではなく、数えれば分かります。

紙とペンで300回、パソコンなら1万回。かつては専門家だけの道具でしたが、いまは違います。勘で決めてきた判断のうち一つを選んで、条件を幅で書き出してみてください。そこから先は機械の仕事です。

今回使った統計

シミュレーション(モンテカルロ法)

理屈で解く代わりに、乱数(でたらめな数字)を使って同じ場面を何万回も再現し、結果の割合を数える方法です。原子爆弾の開発中に生まれ、カジノの街の名前が付きました。

強いのは、式が立てられない問題でも答えが出ることです。受注も価格も入金時期も同時に動く資金繰りのように、要素が絡み合うほど手計算はお手上げになりますが、シミュレーションは「1回ぶんのルール」さえ書ければ、あとは繰り返すだけで済みます。

出てくる答えが「1万回中620回」という形なのも実務向きです。平均値ひとつではなく、最悪の場合が何回に1回起きるかが分かるので、備えの大きさを決められます。

条件付き確率

「ある出来事が分かったあとの確率」を数える考え方です。司会者が空のドアを開けた——その前と後で、2番のドアの数字は33%から67%に動きました。ドアの中身は最初から変わっていないのに、です。

同じことが営業会議でも起きます。「受注確度70%」という数字は、先方に予算がついたと分かる前と後とでは、まったく別物です。数字が出てきたら、それが何を確認したあとの数字なのかを聞く。同じ70%でも、打つ手が変わります。

下のインフォグラフィックもご覧ください。
    ↓   ↓   ↓   ↓

#経営者に刺さる統計の話
#統計
#中 \小企業
#モンテカルロ法
#意思決定


いいなと思ったら応援しよう!