【問いの庭 解説note #004 】呼吸は意識と身体(無意識)の境界線にある:「している」と「されている」のあいだに、何があるのか?
【この記事について】
問いの庭(言葉とコトバ)第4回の視点を、文章として深掘りします。
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【「問いの庭」とはどんな番組か】
この番組は答えを渡す番組ではなく、問いをそっと置くような番組にできたらと思っています。
問うことで世界が変わって、身体も心も軽くなるような問い。世界を新しく見ようと思わせてくれる問い。
そういう問いを、Beautiful Question—美しい問い—と呼んでいます。
ここで出会った問いが、あなたの美しい問いへ繋がっていくことを願って。
【この記事が届くといいなと思っている人へ】
ふと、呼吸していることを忘れている人に、届けたいと思って書いています。
急いでいる。考えすぎている。何かを抱えたまま、気づけば一日が終わっている。そういう日が続いている人。
呼吸は、ずっとそこにありました。あなたが忘れていた間も。
今日の視点は、その呼吸を少し違う角度から見るものになるかもしれません。
【視点:呼吸は意識と身体の境界線】
前回の話から続けます
前回は、「頭でわかる」と「腑に落ちる」という二種類のわかり方の話をしました。
言語的な理解は速くて効率的ですが、言語OSの枠の外には出られない。
「腑に落ちる」には、言語だけではなく経験や感覚が必要だ、
という話でした。
そして最後にこんな問いを置きました。
あなたが長年『頭ではわかっている』と感じていることの中で、まだ腑に落ちていないものは何ですか。
今日は、その「腑に落ちる」への入口として、呼吸から始めてみます。
呼吸という不思議な働き
呼吸は、不思議な働きです。
ふだんは意識しなくてもできる。
でも、意識すれば自分でコントロールもできる。
眠っているあいだも、考え事に夢中なあいだも、呼吸はずっと続いています。あなたが命じなくても、身体が勝手に動かしています。でも今この瞬間、「深く吸ってみよう」と思えば、そうできる。
意識の届く場所と、届かない場所の、ちょうど境界線に呼吸はあります。
「している」と「されている」のあいだ
今日の問いをここで置いてみます。
今この瞬間、あなたは呼吸を『している』ですか。
それとも呼吸が『されている』ですか。
「している」は、意志の言葉です。
自分が主体で、自分が動かしている。
「されている」は、受け身の言葉です。
何かより大きなものに、動かされている。
※ 正確には呼吸は「中動態」的な現象と言えると思います。
(中動態については、こちらの本を参考にされてみてください。)
呼吸はその両方が同時に成り立つ、ほとんど唯一の働きかもしれません。心臓は自分では止められない。手足は意識しないと動かない。でも呼吸だけは、どちらにもなれる。
哲学者のモーリス・メルロ=ポンティは、身体を「主体であり客体でもあるもの」と表現しました。右手で左手を触るとき、触る手と触られる手が同時に存在する。呼吸も同じです。「する」私と、「されている」私が、同じ一つの身体の中に共存しています。
身体は先に知っている
「腑に落ちる」という話を前回しました。
腑に落ちるとき、何かが変わります。
それは頭の中ではなく、身体のどこかで起きています。
胸が軽くなる。
肩の力が抜ける。
呼吸が深くなる。
身体は、頭より先に何かを知っていることがあります。
緊張しているとき、呼吸は浅くなります。
安心しているとき、呼吸は深くなります。
これは頭が命令するより先に、身体が感じ取って起きることです。
だから、自分が今どんな状態にあるかを知りたいときは、まず呼吸を見てみることができます。呼吸はいつも、正直です。
呼吸から始める、ということ
「腑に落ちる」への入口として、呼吸から始めることを今日は提案したいと思います。
何かを深く理解したいとき。
言葉が届かないと感じるとき。
頭でわかっているのに、身体がついてこないと感じるとき。
そのとき、まず呼吸に戻ってみる。
呼吸は意識と無意識の境界線にあるのでした。
呼吸をゆっくりにしていき、自律神経(つまり、無意識領域)に腑に落ちた感覚を先に味わってもらいます。
「腑に落ちる」と身体が軽くなったり、緩んだり、軸が整ったりします。
その感覚を先に呼吸を通じて通じて身体に伝える事で、「頭で分かった」ものが身体化していきやすい下地を整えてあげるのです。
呼吸の意味を知っていますか?
ちなみに、呼吸の意味を知っていますか?
実は呼吸とは「呼」が吐くであり、「吸」が吸うという意味です。
私たちは「深呼吸」というと深く「吸う」ことばかり考えてしまうのですが、実は順番が違うのです。
まずは吐き、そして吸う。
それが呼吸です。
深く吸えないのは、肺に余分な空気があるからです。
まずはとにかく吐き出し切ってみる。
吐き切れば自然と必要な分が入ってくる。
日本語で「出入口」という言葉があります。
しかし「入出口」とは言いませんよね。
「出る」が先で、「入る」は後です。
何かを握りしめていれば、新しいものを掴むことができないのと同じように
吐ききらなければ新鮮な空気は入ってこないのです。
呼吸を考えていると、そんな当たり前で忘れがちなことにも気づかせてもらえますね。
言葉からコトバに意識をシフトする
言葉で理解できないのであれば、頭の言語処理をいったん止めて、
身体のコトバに耳を澄ますようにしていく。
すると、言語OSが更新される準備が整った身体になっていく。
なぜならあなたが世界を切り取っている言語OSは、第二回でお話ししたように幼少期に周囲の影響を受けて「無意識に」作られたものだからです。
そして、呼吸は意識と無意識の境界に位置しているのでしたね。
呼吸によって「腹落ちした」感覚を先取りしていくことは、言語OSのアップデートの入口に立つことになるのです。
【今日の持ち歩ける問い】
今この瞬間、あなたは呼吸を『している』ですか。
それとも呼吸が『されている』ですか。
答えは見つからなくても大丈夫です。
ただ、持ち歩いてみてください。
▼ もっと深く
ここからは、この問いをさらに掘り下げたい方のために書いています。読み飛ばしても十分に楽しめます。
① 背景 自律神経と身体知、そして呼吸の哲学
呼吸が意識と身体の境界線にある理由は、生理学的にも説明できます。
呼吸は、自律神経系と随意神経系の両方に関わっています。心拍や消化は意志でコントロールできませんが、呼吸だけは意識的に介入できる。これは身体の中でも特別な位置づけです。
ちなみに、迷走神経(副交感神経の主要な経路)は呼吸のリズムと深く関わっています。ゆっくりとした呼吸が「安全」のシグナルを身体に送るという研究は、近年ポリヴェーガル理論として注目を集めています。
身体化認知(embodied cognition)の視点からも、呼吸は単なる酸素の取り込みではありません。身体の状態が認知に影響し、認知が身体の状態に影響する。呼吸はその双方向の回路の中心にあります。
<参考文献>
『知覚の現象学』モーリス・メルロ=ポンティ著(みすず書房)
「身体は主体であり客体でもある」という視点の原典。難解だが、身体で読む本。
『メルロ=ポンティ入門』鷲田清一著(筑摩書房)
メルロ=ポンティの思想を日本語でやさしく解説した一冊。原典への橋渡しとして。
『ポリヴェーガル理論入門』ステファン・W・ポージェス著(春秋社)
呼吸と自律神経の関係を科学的に説明する。「呼吸が安全のシグナルになる」理由がここにある。
『からだのためのポリヴェーガル理論 迷走神経から不安・うつ・トラウマ・自閉症を癒すセルフ・エクササイズ』スターレン・ローゼンバーグ著(春水社)
『内臓とこころ』三木成夫著(河出書房新社)
内臓感覚と生命リズムを独自の言語で語る名著。「腑に落ちる」という感覚の生物学的な背景として。
② 問いの連鎖 この問いはどこへ続くか
今日の自分の呼吸は、浅いですか。深いですか。
呼吸が変わったと感じた瞬間を、思い出せますか。
そのとき何が起きていましたか。「身体が先に知っていた」という経験が、あなたにはありますか。
③ 自分で深めるための問いかけ
今この瞬間、少しだけ呼吸を意識してみてください。
どんな感触がありますか。
呼吸を意識したとき、何かが変わりましたか。
変わったとしたら、どこで感じましたか。
「する私」と「されている私」、今はどちらが強く感じられますか。
今日も読んでいただきありがとうございます。
また第5回のエピソードでお会いいたしましょう。
公孫樹でした。
