奥泉光は『門』を読めているか① そもそも読んでさえいない。
何という本だかタイトルを忘れてしまったが、現代人が読むべき百冊みたいな企画本の監修をした柄谷行人……
違った。150冊だった。この本で柄谷は奥泉光に関して学者より学者っぽいと褒めていたような記憶がある。研究者の資質があるという趣旨だったと思う。
二人の関係性は良く解らないが、こう言われる条件には、
① よく本を読んでいると見做されること
② よく自分の本を読んでいると見做されること
……というものがあろうか。
ただ本を読んでいても柄谷の発言を全部無視していてはけして「よく本を読んでいる」とは見做されないだろう。
短期コースで悟りをひらくのはそもそも無理がある。いや、同じ禅寺には十年も二十年も修行を続けているお坊さんもいるくらいなのだから、無理に決まっている。
これを「漱石トリビア」として書いている奥泉光の狙いは今一つ解らない。『門』の参禅が唐突で意味がないという話は柄谷行人をはじめ有象無象が繰り返し書いている。
そのたびに思うのはお釈迦様の次に悟るのは弥勒菩薩で、弥勒菩薩が現れる前に地球は太陽に飲み込まれている、という仏教そのものの絶望的な「悟り」の定義のことである。十年も二十年も修行を続けて、それで悟れると思っている人はそもそも禅宗の悟りをどう考えているのか。どうもこれは仏教的な本来の悟り、つまり涅槃に入ることや解脱のことではないのだ。禅宗的には何かの拍子でポンと悟ることがありうる。しかし解脱はしない。禅宗では仏さまにはなれないのだ。
なんて嘘話の仕組みに巻き込まれてもしょうがない。
しかしあれかね、奥泉は自分の感想を述べているていで、知らず知らず柄谷的な読み方に巻き込まれていないかね。
この間もnoteでそういう人がいた。「感想」なのに柄谷が出てくる。繰り返し言っているように一回柄谷は全部捨ててみない?
大体柄谷のお追従者で真面なことを書いている奴は見たことがない。
・参禅には達磨のおもちゃの前振りがあり
・御米が易者の門をくぐるのと対になる
・無意識下では小六と御米を二人きりで過ごさせている
これくらいでいいかな。しかし本当に多いよ。自分の感想を述べているていで、知らず知らず柄谷的な読み方に巻き込まれている人。それはミスの踏襲だからミスでしかない。
『門』には、後半、精神的に追い詰められた主人公宗助が、会社を休んで、奥さんにも内緒で禅寺に行くシーンがある。
ちゃんとしようよ。
真面目にやろう。
こんな研究者いる?
理系で成立する?
しないよね。
役所は病気になって十日ばかり休む事にした。御米の手前もやはり病気だと取り繕った。
「少し脳が悪いから、一週間ほど役所を休んで遊んで来るよ」と云った。御米はこの頃の夫の様子のどこかに異状があるらしく思われるので、内心では始終心配していた矢先だから、平生煮え切らない宗助の果断を喜んだ。けれどもその突然なのにも全く驚ろいた。
「遊びに行くって、どこへいらっしゃるの」と眼を丸くしないばかりに聞いた。
「やっぱり鎌倉辺が好かろうと思っている」と宗助は落ちついて答えた。地味な宗助とハイカラな鎌倉とはほとんど縁の遠いものであった。突然二つのものを結びつけるのは滑稽であった。御米も微笑を禁じ得なかった。
「まあ御金持ね。私もいっしょに連れてってちょうだい」と云った。宗助は愛すべき細君のこの冗談を味わう余裕を有たなかった。真面目な顔をして、
「そんな贅沢な所へ行くんじゃないよ。禅寺へ留めて貰って、一週間か十日、ただ静かに頭を休めて見るだけの事さ。それもはたして好くなるか、ならないか分らないが、空気のいい所へ行くと、頭には大変違うと皆云うから」と弁解した。
「そりゃ違いますわ。だから行っていらっしゃいとも。今のは本当の冗談よ」
御米は善良な夫に調戯ったのを、多少済まないように感じた。宗助はその翌日すぐ貰って置いた紹介状を懐にして、新橋から汽車に乗ったのである。
・休むのは「会社」ではなく「役所」
・奥さんに内緒ではない
・悟りに行くのではなく頭を休めに行く
・精神的に追い詰められたのではなく立命安心の境地を求めた
これでは殆ど「読めていない」ではなくて「読んでいない」に等しい。問題はそれなのに「漱石トリビア」として『門』について書いてしまうことである。前にも同じようなことを書いたが、これは殆ど全裸のマナー講師だ。
このトリビア? のタイトルは「不可解なバランスの『門』の参禅シーン」である。
不可解を掘り下げない研究者なんていないと思うがどうなのだろう。トリビアは掘り下げてこそ見つかるものなんじゃないかな。
[余談]
通勤途中の地下鉄駅で地下鉄から降りてきた女性が僕の顔を見るなり「〇〇〇〇さんですよね」と言いました。
— まさ (@masa_SPR_KYT) July 30, 2024
「そうですけど」と言ったものの全く見覚えがありません。
「三途の川は思いの外深いですよ」と言い立ち去りました。
全く意味がわかりません。
いったいなんだったのか今だにわかりません。
これがファールらしい
— きゃせねま (@CaCeNeMaA11Even) July 30, 2024
ふざけるな pic.twitter.com/d37LoL1eRk
言うてみりゃこういう話だからね。漱石に勝手に自殺願望を見出したり、やってないことをやった(またはその逆)と書いてみるのは。
