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女を張る

 HiNativeというサイトがあって、たまに普段使わない言葉を調べていると上位に挙がってくる。自分が知らない言葉の意味をネイティブが直接教えてくれるという仕組みだが、少なくとも日本語に関してはあまりうまく機能していないように見える。

 例えば谷崎潤一郎の作品に「女を張る」という語彙があり、これを検索してみると「正しい日本語ではないです。」とReny00さんが回答している。これでは全く要領を得ない。

 例えば「女の頬を張る」という意味で「女を張る」(叩く、打擲する)ということもあろう。これは「女の尻を張る」でもいい。
 件の谷崎の語彙は「つけ狙う」「狙う」「その女に決める・的を絞る」というような意味で、俗な表現として昭和までは不良用語として受け継がれている。どちらかに決めるという意味で「丁に張る」というような意味に近いかもしれないし、「見張る」というニュアンスも含まれるかもしれない。
 無論女はものではないので「背中にシップを張る」というような意味で「女を張る」とは言われないが、巨大な宇宙人が攻めてきて、捕獲した女を強力な糊で宇宙船に張ることもなくはない。
 また女自身が意地を見せることを「番長を張る」というような意味で「女を張る」と言えなくもない。胸を張るとは前に突き出すことだ。見栄を張るということばもある。女のプライドを前に突き出せば「女を張る」になるだろうか。例えば「こちとら女を張ってんだよ、なめんじゃねえぞ」と凄まれればそういう意味になる。そこで「正しい日本語ではないです。」と言い返しても仕方あるまい。

 また同様に谷崎の語彙に、「年喰ひ」というものがでてきた。これを「年食い」で検索すると、「そんな言葉聞いたことないです。^^;」「あの、先ほどそんな言葉はないと言ったんですが、"年を食う"という言葉ならありますよ。"年をとる"という意味です。参考にしてください(^-^)」とmiminoonakaさんが回答している。ネイティブならば聞くばかりではなく、読むことも求められているのではなかろうか。「年喰ひ」は谷崎以外にも複数人の用例がある。「年喰ひ」は単に年を重ねることを言うのではない。この語を理解するには近代以前の女性の年齢に対する物差しを理解する必要がある。
 昔は娘十八番茶も出花といわれ、十七八が女盛りで、二十歳で年増、さらに二十代後半で大年増とされる。時代ごとに多少差はあるが、大体そんな基準がある。
 実際の谷崎作品でも十七八の小娘に見えるけれども実は年喰いかもしれないという具合に、年増に近いニュアンスで用いられていることかが確認できる。つまり五十の人が六十になることを年喰いとは言わない。ひねびるでもはたばるでもない。

 こうしたことを枝葉末節と捉えずに、丁寧に読んでいくことが必要だ。それは文学以前の国語の問題として。また単に日本人であるだけで「正しい日本語ではないです。」「そんな言葉聞いたことないです。^^;」と安直に答えない方がいいのではなかろうか。

https://note.com/kobachou/n/n7b4adada7566

 この通り、聞いたような聞いてないような言葉はたくさんあり、村上春樹さんも「どかせ」「ゆらせ」と独特な語彙を駆使する。夏目漱石と谷崎潤一郎の「小刀細工」の用法はほぼ一致するが、これを「小手先細工」としか言わない人もいるだろう。谷崎は「ちかみち」という読みに、明らかに熟していないある文字を使う。このnoteの中に書いておいたが、まあ、他では見ないね。外国の人もそういうところの言葉の意味を探していたんじゃないかな。「女を張る」って何ですか?って聞くのは研究者か学生だろう。
 それに対して「正しい日本語ではないです。」は余りに失礼。むしろ回答すべきではない。

 …と、このくらい書いておけば、何年後かにはコトバンクか何かに引っかかるようになるのかな?


















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