見出し画像

燕の敬礼。(500字)

 幾十年かまえ、茶室の庭で燕が亡くなっていた。その亡骸を師がお経をあげて、丁寧に弔って以来、茶室を往来する弟子にまで他の燕が寄り添うように旋回する日々がしばらく続いた。幾世代も『鳥の恩返し』は語り継がれたのであろう。師に対しては、尾をピッと揃え、敬礼のような仕草までする始末である。

 さすがにこゝ幾年かは茶室の燕も巷の鳥と変わらなくなっており、燕が近寄ってくれるのは、雨が降るまえのみであった。ところが過日、茶室に伺うと、久方ぶりに燕が私の傍らを飛翔してくれた。燕語で真如を説いてくれたのか、ふと先の物語が憶いだされた。

 一方、私は鳩を弔ったことがある。信じられないことだが、すでに空で絶命していたのであろう。野良仕事をしていると鳩が畑に落ちてきたのだ。ちょうど家人が用を足していたときであったから、これは私の縁だと考え、師のように丁重に弔った。

 以来、鳩は私の畑に舞い降りては、撒いたばかりの種をポッポッポッとつゝいては食べ、鶏糞の追肥までしてくれる。鳩の恩義も幾世代か語り継がれているとみえ、幾羽もの鳩が何かを咥えは、凡て巣に持ち還る。ハト派の私はそれを苦笑しながら、たゞ眺めているばかりである。

いいなと思ったら応援しよう!

KODO いつも心温まるサポートをまことにありがとうございます。 頂戴しましたサポートは、農福連携ならびに読書文化の普及に使わせていただいています。