散髪台までが遠い 後編
エッセイ5.
車椅子は借りられました。
さて。
目的は歩行困難者の髪のカット。広い店内、どこにその店があるのやら。壁の案内板で三階だと知る。三階。途方に暮れる。
車椅子の人を三階に連れて行くってことは、エレベーターじゃないと無理。さあ、エレベーターはどこだ。進行方向に向かってすれ違う人、危ない。進行方向の前を何人かで道いっぱいに広がってゆっくり歩く人、通りにくい。あなた方が悪いわけじゃない。でもごめん。イライラする。
本来、ゆったり買い物を楽しむ場所をせかせか動くのは私側の問題。すまぬ、申し訳ない、と思いながら、それでも気を遣ってくれないかなあという期待は持つ。持ってしまうわけですよ。
なぜ急ぐのか。歩行困難な車椅子の人はお手洗い問題を孕んでいるのでした。二時間もつか、もたないか。実はトイレだって大変なのです。立ったり座ったり、脱いだり着たり。タイミング間違えたら着てるもの汚す。
スリルとサスペンスを味わっているわけですね。ゆったり買い物を楽しむべき場所で。私は。
やっと目的地に到着。混んでいる。平日昼間なのに。でも並ぶ。ここからは祈り。神様、一秒でも早く順番がきますように。
30分。焦りを諦め、グッと湧き上がる気持ちをなだめて、私は待ちました。本人は一言も発せず、じっと車椅子に座っています。
長いよね。30分。
車椅子のままカット。10分で仕上がる。いいけど、虚しい。なんだこれ。不条理に近い感覚になる。いや、いい。気持ちを切り替えて帰りを急ぐ。
駐車場で本人を車に乗せて。車椅子の返却だ。
駐車場から真反対のインターフォンまで走る。車の中は本人一人。インターフォンはすぐ出ない。
うっ。
うっ。
我慢が切れそう。繋がった。急いで返却を伝え、車に急ぐ。
本人は「さっぱりした」と繰り返し言う。
良しとしよう。
どうせ小さな世界の住人だ。
私は小さくため息を吐く。
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