短編小説|七福神シリーズ3|【2話目 月の姫、立つ】
かぐや姫のもとへ向かう宝船
宮廷には、道満が張った毒々しいピンクの結界が、夜気を濁すように揺れていた。
「お!ここだ!ここ!」
獅子が爪で裂いた小さなほころびへ、阿形が飛び込む。
「待ってよ〜!」
吽形も慌てて続いた。
だが、肝心の獅子がつっかえている。
焦る気持ちとは裏腹に、体がなかなか抜けない。
「う~ん!よぃしょー!」
阿形と吽形が左右から腕を引っ張ると、
ぼよ〜ん!
と獅子の体が結界をすり抜けた。
その背には、道満の放った「目玉の式神」が、ぺたぺたと張り付いている。
「うわ、キモッ!」
「動くなよ、取るから!」
二体は次々と式神を剥がし落とした。
獅子は爪をペロッと舐め、自らが割いた結界の裂け目へそっと触れる。
すると、結界は音もなく閉じ、式神たちは内側で弾かれた。
「信じられなぁ〜い! 何? あの変な生き物は?」
房子が道満に詰め寄る。
「……いや、あれは……その……何というか……」
どもる道満。
だが突然、何かを思いついたように早口で言った。
「七福神の手の者、霊獣かと!」
房子は髪を整え、ぱちんと大きく瞬きをする。
「まぁ、問題ないわ。大事なものはこちらにあるんだもの」
御簾へ戻り、扇を胸元に添えた。
「帝に、この福徳をご覧いただきましょう。きっとお喜びになるわ。うふふ」
***
宝船に戻った霊獣たちは、宮廷で見たすべてを七福神へ報告した。
「なに? その房子って……今どき死語だっつーの! ぶりっ子なんて!」
弁財天のこめかみがピクピクと跳ねる。
横目で見ていた吽形が、小声でつぶやいた。
「こわっ……」
「かぐや姫のぉ〜」
福禄寿が髭を撫でる。
「久しぶりじゃのぉ〜」
寿老人も髭を撫でる。
「かぐや姫さんのところに行こうぜ!」
大黒天が舵を切り、宝船は月の光へ向かった。
***
突然の七福神の来訪に、翁と媼は腰を抜かすほど驚いた。
翁は杖を取り落とし、媼は口を押さえて「あわわっ!」と震えた。
さらに、二足で歩く狛犬と獅子を見て、ぽかんと開いた口がふさがらない。
御簾が静かに揺れ、かぐや姫が姿を現した。
その光は、月そのもの。
霊獣三体は思わず目を細める。
「まぶしー……」
七福神から事の次第を聞くうちに、姫の美しい顔が、見る見る険しくなっていく。
霊獣たちは、ぱちぱちと瞬きしながら、その変化から目を離せない。
「許せませぬ!」
かぐや姫は立ち上がり、こぶしを固く握った。
「私も、神たちとともに宮廷へまいります」
「そーこなくっちゃ!」
阿形と吽形が、パチンと手を打った。
月の姫の参戦で、宮廷の騒ぎは
——まだまだこれから。
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