短編小説|七福神シリーズ3|【第1話 月夜のペンライトと偽りの福徳】
--静寂に包まれた宮廷。
月光が青白く照らす寝殿の軒先に、
場違いな「ケラケラ」という笑い声が響いた。
降り立ったのは、
カサカサと音を立てる人型の紙。
式神――偽狛犬。
そこには一人の女官がいた。
「道満さ〜ん♡ 房子ですよぉ♡」
ピンクの花びらが舞う幻覚さえ覚える笑顔。
帝の側近・中臣房子(なかとみのふさこ)である。
ふわふわの袖を揺らし、
アイドルのように手を振る彼女の背後で、
一本の怪しい光が震えた。
ピンク色のペンライトを握りしめ、
鼻血を拭いながら震えているのは……
あの安倍晴明のライバルと称される、
陰陽師・蘆屋道満(あしやどうまん)!
「ふ、房子様……今夜も……」
「尊みが限界突破しております……!」
房子の合図で、道満が勢いよく前に出る。
「房子様へのアンチは一歩も通さねぇ!」
「領域展開……じゃなくて、ガチ恋結界!!」
宮廷全体が、毒々しいピンクの膜に覆われた。
「これで、蟻の子一匹たりとも入れません。ご安心を!」
ペンライトをふぅーと吹き、カッコをつける道満。
*宝船から降り、偽狛犬を追い詰めていた
阿形(あぎょう)、吽形(うんぎょう)、そして獅子。
三体は、張られた結界に体当たりした。
ぼよよよ~~~ん……。
「なんだよ、これ?」
阿形は呆れ顔で、ちっと舌打ちした。
「我ら霊獣に通用すると思っているのかね?」
獅子が指から長い爪を出す。
ピンクの膜を、ピリピリーと割いた。
「そのくらいで入れるだろ」
吽形が裂け目からスルッと中へ。続いて阿形も。
最後は、獅子。
大きな体と厚い体毛を、むぎゅう~っと絞り、
口を尖らせながら、ようやく通り抜けた。
三体は屋根裏に忍び込み、息を殺す。
*
「道満さぁ~ん、房子♡早くお宝を手にしたいなぁ~♡」
髪をくるくるし、アヒル口で体をくねらせる房子。
道満はたまらない顔で、大股を開き、腕を上げた。
「よっしゃあいくぞォォー!」
狂ったようにペンライトを振り回す!
「ジャージャー!!」
「虎! 火! 人造! 繊維! 海女! 振動! 化繊! 飛! 除去!!」
激しいコールの最中、道満がふと呟いた。
「……晴明。お前がいないこの都で、俺が今、1番だ」
「さぁ、跪いて俺の強さを見てみろっ!」
呪術の光が渦巻き、
偽狛犬が咥えていた「七福神の福徳」が、
次々と吸い込まれていく。
ひゅーーーーーっ。
すべてが房子の持つ小箱の中へ消えた。
式神はただの紙に戻り、ひらひらと宙に舞い散る。
「うふ♡ 道満さんのおかげで手に入
っちゃったぁ〜♪」「これで、少しは帝も、
房子のすごさをお認めになるわよね?」
小躍りしながら、
小箱を愛おしそうに撫でる房子。
道満は頬を赤らめ、その場に跪(ひざまず)く。
「安心なさってください!」
「あなたのためなら、一肌も二肌も脱いで、心血を注ぎます!」
上ずった声で、道満が付け加えた。
「……あ、ファンサービスは……」
「長めで……きぼんヌ……」
*
屋根裏で息を殺していた、
阿形、吽形、獅子の三体。
「うぇっ」
「きもっ」
「やべえヤツじゃねーか?」
ドン引きする三体をよそに、
房子が不敵な笑みを浮かべて語り出す。
「仏の御石の鉢、蓬莱山の宝の枝、唐土の火鼠の皮衣……」
「そんなものを求める、かぐや姫ですもの」
「帝がこの七福神の『福徳』を贈ったら、
あの子、どんな顔をするかしら?」
「帝にべた惚れして、
月へ帰るなんて言わなくなるわよね〜♡」
道満も胸を張って頷く。
「房子様のお株は爆上がり!」
「これでファンも急増!」
「房子、トップ・オブ・ザ・宮廷!!」
屋根裏に衝撃が走る。
「ええーっ、そこ!?」
「このアイドル系女官の策略かよ!」
「かぐや姫を繋ぎ止めるために、
七福神の大事なものを奪ったのか!」
*
あまりの衝撃に、獅子が思わず――
「ハックシュン!」
豪快なクシャミを放ってしまった。
「……いたな」
道満の目が鋭く光る。
「房子様のライブ(儀式)を盗み見する、
不埒なカメコ(密偵)め!!」
道満がペンライトを空に掲げた。
その瞬間、
結界が「真っ赤」に変色!
無数の「目玉の式神」が、
屋根裏へ一斉に殺到する!
「やべえ、逃げろ!」
「早く七福神に伝えなきゃ!」
「かぐや姫まで、あの毒女の餌食になっちまうぞ!!」
崩れ落ちるように屋根から、
夜空へ飛び出す三体。
眼下では、冷たい笑みを浮かべる房子。そして、真っ赤な光に包まれ、
狂気に満ちた道満が追いすがってくる。
逃げる三体の背中に、
道満の爆音コールがどこまでも追いかけてきた。
(――物語は第2話、ブチギレかぐや姫の参戦へ!)
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